最近ニュースでも話題になっているライドシェア解禁の話について触れたい。ライドシェア解禁のメリットとして、タクシー乗務員の人手不足や地方における交通手段の脆弱性の解消などが挙げられるが、特にインバウンドの地方誘客におけるメリットが大きいと考えている。
白タクを横目で見ているだけの国内事業者
成田や羽田など都市部の国際空港において、タクシー営業の認可を受けていないいわゆる「白タク」が横行していることは、この業界に関わっている方々はよくご存知だろう。この白タクの需要があるのは、主に訪日外国人客。事前にオンラインで決済を済ませるため、日本国内での金銭のやり取りがなく摘発が難しい。国内事業者が日本の法律を素直に守る一方で、こういったサービスから収益をあげる海外企業を横目で見ているだけなのが悲しい現状だ。OTAにおいても同様で、「airporttransfer.com」や中国系の「HayCars」などでこういった送迎サービスをいつでも予約できる。タクシー業界などの既得権益事業者にとってライドシェア解禁はデメリットしかないだろうが、インバウンド市場が広がるほど、こういったルールは形骸化していくことは間違いない。
ベルトラではハワイやアジアなど、多くの観光地で利用できる少人数でのバンツアーやチャーター型の貸し切り観光ツアーを多く提供しており、人気も極めて高い。同じ内容を日本国内で観光ツアーとして行う場合、高額なタクシー運賃を支払うか、募集型企画旅行商品の大型バスツアーどちらかの選択肢しかなく、個人旅行客の多様なニーズに対応することは難しい。しかし、ライドシェアが解禁されることで、こういった貸し切り観光サービスを日本でも提供しやすくなる。そのインパクトは非常に大きく、特に地方観光において大きな恩恵を受けられると私は考えている。
アドベンチャーツーリズムに移動手段の充実は必須
地方観光を議論する上で欠かせないのが、世界的にも注目されているアドベンチャーツーリズムだ。豊かな自然をフィールドとするアドベンチャーツーリズムにとって、地方の移動手段を充実させることは、その発展と密接な関係を持つ。例えば、日本の国立公園は日本独特の文化と自然を融合した世界を代表するコンテンツになりうるものの、訪日観光客にとって気軽に観光することが難しいのが現状だ。十和田湖で有名な十和田八幡平国立公園や、大山隠岐国立公園や蒜山への観光ツアーなど、それぞれ地方のターミナル駅や空港から発着する送迎付きツアーは、ほぼゼロに等しい。
理由はシンプルに、バスツアーとしてはもうからないからだ。しかし、マイカーやレンタカーをあまり利用しない訪日旅行者にとって、こういった観光地へのアクセスは容易ではない。もっとも手っ取り早いのは、ツアーやアクティビティ事業者が駅や空港、宿泊先から客を有償で客を運ぶことだが、現時点では送迎料金を別途徴収することはできない。白タク同様、規制に引っかかってしまうからだ。従って、ほとんどの商品が現地集合型になり、自力で現地に到着できない旅行者は全て排除されている。二次交通とよばれる路線バスで現地に行こうとしても、ダイヤの関係上ほぼ不可能な場合が多く、何より時間がかかる。またタクシーで目的地に行こうとするものなら、通常のツアー料金を遥かに上回る往復運賃を支払わざるをえない。
ライドシェア解禁で新たな現地アクティビティの開発を
地方の持続可能な発展について考える際、地元住民の交通課題を解決すると同時に、こういった観光におけるニーズも考慮する必要があるだろう。零細企業であるアクティビティ事業者やエコツアー事業者にとっては新たな集客チャンスであり、送迎料金を追加することで、これまで論じてきたツアーの価格向上も期待できる。そもそも既得権益であるタクシー事業者や大手観光バス会社とは、提供するサービスの種類が異なり、カニバリゼーションが起こりにくい市場のはずだ。もしライドシェアが解禁になった際は、魅力あふれる日本の地方でアクティビティやエコツアーを催行する事業者と、新しい現地アクティビティを真っ先に開発したいと気持ちが躍る。
(つづく)
寄稿者 二木渉(ふたぎ・わたる)ベルトラ㈱代表取締役社長 兼 CEO