今回から2回に分けて、奈良県の温泉や、キャンプ地等のアウトドア関連施設、いわゆる歴史的観点とは違う切り口で、私なりに奈良県を考察してみたいと思います。
上記に関係した施設が集中するのが、十津川村や川上村、天川村、上北山村、下北山村等を含む奈良県南部(いわゆる“南和”と呼ばれる地域)です。その中で、今回は温泉地を紹介したいと思います。一般的なイメージの温泉地としては、川上村の入之波(しおのは)温泉、天川村の洞川(どろがわ)温泉に加え、皆さんがご存じだと信じたい、十津川村の十津川温泉郷の3か所が挙げられると思います。
入之波温泉
読み方が難しく、印象に残りやすいのではないかと思います。奈良県吉野郡川上村に位置し、役小角(役行者)による開湯伝説があります。現在は旅館1軒のみと、規模は非常に小さいです。1973(昭和48)年に大迫ダムが完成した際に、江戸時代から続いていた「山鳩湯」はダム湖に沈みました。しかし、その後ボーリングによって源泉を掘り当て、再び「山鳩湯旅館」として営業を始め、温泉が復活したという歴史があります。
「山鳩湯」については、江戸時代には地表から湧き出ていたという記録が残っています。現在、温泉水として使用されている源泉は深さ約150mのボーリング孔から引いた湯であり、加温かけ流しで、毎分500ℓの湧出量があります。なお、日本有数のトラバーチン(石灰華)の発達した温泉地としても知られています。
洞川温泉
次に洞川温泉です。内田康夫著の浅見光彦シリーズ「天河伝説殺人事件」で有名な奈良県吉野郡天川村に位置します。大峯山・山上ヶ岳や女人大峯・稲村ヶ岳の登山口で標高約820m余りの高地の冷涼な山里の中にあります。現在は旅館、民宿等の宿泊施設が20数軒あります。しかし、湧出量は毎分140ℓと決して豊富ではありません。女人禁制の大峰修験道の入口に位置しますが、歴史ある純和風木造建築が人気で、女性の宿泊客も多く訪れる温泉地となっています。
なお、余談ですが、1991年に公開された映画で登場する天河神社は、奈良県吉野天川村坪内にある天河大辨財天社ではなく、滋賀県近江八幡市安土町常楽寺にある沙沙貴神社で撮影されたものであった。当時話題になっていた気がします。
十津川温泉郷
最後に十津川温泉郷です。これは、上湯(かみゆ)温泉、湯泉地(とうせんじ)温泉、十津川温泉の三つの温泉の総称となります。湧出量は上湯温泉が毎分124ℓ、湯泉地温泉は毎分600ℓ。十津川温泉は源泉が2つあり、毎分それぞれ610ℓと290ℓと全体でかなり豊富です。そして、2004(平成16)年6月に十津川村役場が村内温泉の「100%源泉かけ流し宣言」を発表したことでも有名です。十津川温泉郷の位置する奈良県吉野郡十津川村は日本最大の敷地面積の村で、その大きさは琵琶湖や東京23区をも凌ぐ大きさです。
この地域は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」にも含まれています。周辺には観光地も少なくありません。
世界遺産が通る「果無(はてなし)集落」は果無山脈を見渡すその美しさから「天空の郷(てんくうのさと)」と呼ばれています。
「にほんの郷100選」にも選ばれています。
また、巨岩、奇岩、断崖が続く圧倒的な「瀞峡渓谷」は国の特別名勝に指定されています。
奈良県と和歌山県の県境、遊覧船の上から見る四季折々の景観は、往時の貴族たちが夢見た極楽浄土であったかもしれません。
その他にも、神仏分離・廃仏毀釈の痕が残る全国の玉置姓のルーツと言われる「玉置神社」。
川面からの高さが54メートルで日本一の長さ297.7メートルを誇る「谷瀬の吊橋」等の観光施設も有名な観光スポットです。
日本一長い路線バス
ちなみに、十津川村を通る奈良県橿原市の大和八木駅と和歌山県新宮市の新宮駅間を結ぶ弊社路線バスの「八木新宮特急バス」は「日本一長い路線バス」(営業距離約170km)としても有名です。
以上のとおり、3か所それぞれに特徴があり、魅力的な温泉地です。いずれも鉄道が走っていませんので、自家用車あるいはバスで行くしか方法が無いのが残念なところですが、旅行誌等でお調べいただき、ぜひ旅行の候補地として検討していただきたいと思います。
案外、身近な存在であることに気づけたり、歴史を感じることができたりするかもしれません。
(つづく)
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=27
寄稿者 志茂敦史(しも・あつし) 奈良交通㈱ 東京支社長