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アイルしながわ(旧東品川清掃作業所跡地)で行われる官民連携と民民連携

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 東京・品川駅に隣接し、東京モノレールとりんかい線が交差する運河の街・天王洲アイル(東京都品川区)は、水辺とアートの街としてさまざまなメディアで取り上げられています。天王洲ではさまざまな形で官民連携をしながら街のにぎわいづくりに取り組んでいますが、その一つの事例を紹介します。

 東京モノレール天王洲アイル駅の南口を降りてすぐの場所に、一風変わった建物が佇んでいます。その施設は、かつては東京都の東品川清掃作業所として都内のゴミを集積する場所でした。集められたゴミは、ここから船に積み込み埋立地に運ばれていました。この清掃作業所は時代の変化により社会的使命を終えて廃止となりましたが、廃止からしばらくの期間を経て、新たな再生プロジェクトが展開されました。

旧東品川清掃作業所跡地に「アイルしながわ」誕生
旧東品川清掃作業所跡地に「アイルしながわ」誕生

旧東品川清掃作業所跡地の再生プロジェクト

 当初、旧東品川清掃作業所跡地は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の品川区ホストハウスとして活用される予定でしたが、コロナ禍で白紙となりました。その後、東京2020のレガシーとして旧東品川清掃作業所跡地の暫定活用について、品川区と天王洲のまちづくり団体で協議が始まりました。

 旧東品川清掃作業所跡地は東京モノレール天王洲アイル駅と隣接しており、この施設の活用方法の如何により、天王洲アイル駅前のにぎわいだけでなく、天王洲全体のにぎわいにも大きな影響が出ます。まちづくり団体は、この旧東品川清掃作業所跡地を天王洲全体のにぎわいを創出する有意義なものに変えたいと考えました。品川区の意向とまちづくり団体の思いをすり合わせて、旧東品川清掃作業所跡地の再生プロジェクトは、検討が重ねられました。

「アイルしながわ」内壁のアート作品
「アイルしながわ」内壁のアート作品

 その結果、旧東品川清掃作業所は外壁にカラフルなアート作品が描かれ、まるでミュージアムのような外観となり、さらに内壁にもアート作品が描かれ、その奥にはバスケットコートとゴールが設置されました。そして文化とスポーツを起点とするアーティストやアスリートたちが集う場に生まれ変わりました。天王洲に新たにスポーツの要素が加わり、オリパラレガシーとしてパラスポーツを中心とした人々の交流を軸とした、街のにぎわいを創出する施設「アイルしながわ」が、2022年10月に誕生しました。

車椅子バスケット体験ワークショップ(左)、弓道体験ワークショップ
車椅子バスケット体験ワークショップ(左)、弓道体験ワークショップ

官民連携(ダイバーシティ創設)

 天王洲は、水辺とアートでまちの活性化を目指し、2015年から活動を行っており、「天王洲キャナルフェス」「キャナルアートモーメント品川」「天王洲アートフェスティバル」といったイベントを通して、人々の交流の場を作り、街の活性化を促進しています。品川区から旧東品川清掃作業所跡地で「パラスポーツを中心とした街のにぎわい拠点を作りたい」と委託を受け、まちづくり団体は、「アイルしながわ」開設に携わりました。

 品川区は「スポーツを通じた共生社会」の実現を目指し、パラスポーツ支援に取り組んでいましたが、障がい者が積極的に参加でき、相互に尊重し合う「共生」はこれからの課題でした。そこで障がい者と共に過ごせる場所を作ることは、天王洲を活性化させる上でもなくてはならないと思い「アイルしながわ」の構想を練りました。現在は、パラスポーツをする人が気軽に利用できる施設になっています。

アートマルシェ(左)、こども映画祭
アートマルシェ(左)、こども映画祭

民民連携(多種多様な共生空間)

 「アイルしながわ」は、外壁や内壁にアート作品を描き、こんな素敵なアートがある場所でスポーツやイベントがしたいと思える環境を作りました。スポーツとアートが交流する施設として、アートイベントとパラスポーツをコラボレーションするなど、海外でもあまり事例がない活動を展開しています。アートとスポーツの融合は、まさに多様性の実現の場になりました。現在は、パラスポーツをはじめとしたスポーツ大会や練習の場として、また、アートイベントやマルシェの会場として利用されています。

 今後は、民と民が連携して、国際会議、演劇公演、ファッションショー、展示会などのイベント、映画やCMの撮影などに活用できるようなマルチスペースとして、品川区と協議しながら障がい者と健常者が分け隔てない、新しいにぎわいの場を創出していきます。そして、この街の人と来訪者が「アイルしながわ」に行きたいと思う場所にすることが大切です。

アイルしながわ賑わい創出(施設外周にキッチンカーを出店)
アイルしながわ賑わい創出(施設外周にキッチンカーを出店)

共生社会実現に向けて

 現在、「アイルしながわ」は品川区の体育施設となっていますが、利用する人の属性にとらわれないサステナブルな場が生まれました。「アイルしながわ」では、天王洲地域はもちろんのこと、近隣地域も一体となり、さらには国内外の来訪者をも巻き込んでダイバーシティを推進しなければなりません。そのためには官と民の連携、そして民と民の連携が必須となります。この両輪のバランスを上手く取りながら「アイルしながわ」を進化させることが使命です。それだけに「アイルしながわ」は、これからの社会に重要な場であると実感しています。今後の「アイルしながわ」の展開にご期待ください。

寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 理事長

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