遊び予約サイト「アソビュー!」や観光・レジャー・文化施設向けにDXを推進するSaaS「ウラカタシリーズ」を提供するアソビューと、スキマバイトサービス「タイミー」を運営するタイミーは2023年8月に業務提携契約を締結した。両社は、観光需要回復に伴い人手不足を解消し、レジャー業界の持続可能な経営を支援する。アソビューの宮本武尊専務執行役員 成長戦略管掌とタイミー事業開発部の石田幸輔部長に連携の狙いや、観光・レジャーにおける人手不足解消に向けた取り組みなどを聞いた。
――業務提携の経緯や目的は。
石田 タイミーは「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー」を運営している。働き手は働きたい案件を選ぶだけで、面接・履歴書無しですぐに働くことができ、勤務終了後すぐにお金を受け取れる。 事業者は、来てほしい時間や求めるスキルを設定するだけで、条件にあった働き手が自動的にマッチングする。
タイミーは、飲食や物流業界で好評をいただいて伸びてきた。もともと簡単な業務だけを切り出していたが、リピーターが増えてきてレギュラーバイトが行うような複雑な業務も代替して任せられるようになった。
飲食や物流業界に続いて人手で困っている業界を探していたところ、ぐっと伸びた領域が旅館・ホテル業界だった。観光業はコロナ禍で働き手が減少したが、昨年来から旅行需要が回復してきた一方で働き手を再び呼び戻すことが難しく、未曾有の人手不足となっている。旅館・ホテルでは、レストラン部門の朝食ビュッフェやキッチンの洗い場に清掃、ベッドメイキングなどで活躍しており、業務の幅が広がっている。同じ観光業界の中で目を移したところ、レジャー業界でも人材不足が深刻だった。例えば、入場時のチケット工数が不足し来場者が滞留したり、人手が足りずアトラクションを動かせないという話もある。
現在、われわれは日本全国に営業拠点を設けているが、新しい業界に参入する場合一気呵成に拡大するのは難しい。そこで、レジャー施設のパートナーを全国に抱えるアソビュー社との連携を始めた。
宮本 アソビューは電子チケットシステムをコロナ禍で伸ばしてきたが、レジャー施設から頻繁に聞くのは、省人化や無人化への要望だ。ソフトウェアで課題にアプローチをしていたが、繁忙期にはやはり人手が足りないと聞く。
レジャー業界は繁忙期には閑散期の40倍、50倍の来場者があるなど、繁閑差が激しく、雇用が安定しない難しさがある。かつては正社員と臨時アルバイトが対応していたが、コロナ禍を経てそれも難しい状況だ。DXに加えて、さらなる省人化ができないかと考えていた際にタイミーの話を聞いた。閑散期を回せる体制は正社員で対応しながら、繁忙期はスキマバイトが受ける形が合理的だと考え、連携することとした。
――提携のメリット、付加価値は。
石田 レジャー施設の本業の売り上げを上げるには働き手が必要であり、足りないと機会損失になる。ここを充当して本業を盛り上げることがわれわれの役割となる。
タイミーは繁閑差に強く、短期間×大量の募集を出して、ものの数分というスピード感でマッチングした例もある。なぜできるかというと、ワーカーが600万人以上で、非正規雇用の労働人口約2100万人に対して4人に1人が使っているくらいの規模感で全国にワーカーがいること。加えて、従来の雇用における1日8時間、週5日勤務のようなフルタイムと違い、ワーカーが勤務しやすい単位に切り出せていることが大きい。
タイミーと観光の親和性はとても高い。旅館・ホテルだと宴会需要の時は配膳下膳、他にも繁忙期におけるベッドメイキング、清掃などに対応している。
宮本 われわれは、レジャー業界の持続可能な経営を支えるためにDX支援を行ってきた。だが、DXは魔法の杖ではない。DXで効率化できることもあれば、人が対応すべき業務ももちろんある。ヒト・モノ・カネの中の人材領域は、われわれの社内で作ることは難しく、新しい提携で新たなソリューションが生まれた観点で良い提携となった。これまでも、インバウンド集客はKlook、マーケティングの部分はM-Forceと組み、課題解決に取り組んでいる。レジャー施設の運営のプロダクトはわれわれが作り、周辺領域については得意な企業と組むことでより付加価値を上げていく。
レジャー施設では、夏の繁忙期をどう乗り越えるかという課題がいつも挙がる。数カ月前から来場者数を予測、運営の必要人数を割り出してアルバイト媒体に出稿するが、それでも集まらないことは多い。結局、バックオフィスや本社の正社員がシフトをやりくりして業務にあたることとなり、苦情、低評価のクチコミをもらってしまう。
システム導入時にはわれわれもレジャー施設に行き、実際に現地で受付業務を行うことがある。施設からは喜ばれ「今年も来てほしい」と言われる。信頼関係を作る上では現場を知ることは重要だが、生産性が高いかと言うとそうではない。タイミーを導入することは三方良しとなり共存関係ができる。
――提携の効果について
石田 レジャー関連では、簡易的業務からタイミーワーカーに切り出している。フロントゲートやイベント補助、貸し靴の案内を出すなど、特に覚えるものが少なくて済むものだ。簡易的な業務の募集を出して、最初はトライアルで数名の募集人数だったが、今は十数名単位で募集し、ワーカーが集まっている。
宮本 連休やお盆の朝、レジャー施設には開場を待つ人が数千人並ぶ。彼らの入場受付には施設で働く全員で対応しているが、ピークは開場後2、3時間程度であり、そのためだけに8時間勤務の人を雇えない。そこで、バックオフィスなどから臨時で人を集めて対応する。しかし、タイミーであれば、朝3時間のチケットもぎりを3時間で募集しても充分にマッチングする。
石田 例えば、午後3時に募集をして当日の午後6時には集まることもある。実際に大阪府枚方市の「ひらかたパーク」では、トライアルで募集した出口お見送りのポジションで募集開始から1分で集まった。
――観光産業の現状について、どう見ているか。
宮本 国内レジャー産業は、2022年時点で7、8割まで回復した。一方で、今後に来場者を増やしていく方針であるかと言えば、一概にそうとは言えない。昨年に一番来場があった東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営するユー・エス・ジェイでは、今後、来場者数よりも満足度を重要視する方針を出している。構造として売り上げを中心に市場は戻っているが、レジャーの利用者は減っている。
また、コロナ禍で消費者の過ごし方は大きく変わった。われわれの会員に定期的に実施しているインタビューの回答を見ると、混んでいる場所には行きたくないと回答する人がほとんどだ。レジャー先を選ぶ理由においても、コストパフォーマンスを上げる人は多く、払う金額に対してどれだけ遊べるかが選ぶポイントとなっている。価格においては、施設側が変動価格化を採用する流れがあるが、2024年はさらに加速しないと経営が難しくなる。
――人手不足になっている根本の原因はどこにあるか。
宮本 雇用が安定しないこともあるが、レジャーにおいてはシンプルに身体的・精神的な負担が大きい。閑散日には来場者も少なく手持無沙汰になるが、繁忙日は3時間立ちっぱなしで休憩なしで作業をするなど、日によって振れ幅が大きい。また、休日が繁忙日であり、一般的な土日祝日が休みのライフサイクルと離れてしまうことも、難しさを高めている一因となっている。
石田 以前はリゾートバイトという働き方があり、泊まり込みでレジャー施設に行き、観光・レジャーと労働を共に楽しめることから若者からの需要があった。今は、一時期よりはリゾートバイトのようなものへのブランディングが下火になってきている。
しかし、レジャー業界で働くことは、フルコミットではなく、2つ目、3つ目の働く選択肢として提示されれば、やってみたいと思える業界だ。消費者としても働く場所のイメージが湧きやすい。この垣根を取り払うことが、他の業界からの流入につながる。
――タイミーワーカーの賃金、請求について。
石田 時給相場は地場の平均時給に合ったものが多い。派遣会社であれば、マージンがのった時給価格が設定されるが、タイミーワーカーは通常のアルバイトをする人の時給と同程度になる。タイミーワーカーは、時給以上に、自分の都合にあった時間に働いた結果、もらえる報酬額に納得できるかどうかを判断軸にすることが多い。時給がマッチングの動機の全てになっているとは言えない。
お金の流れについては、働き手に報酬と交通費分を先に立て替えている。タイミーは、交通費を含めた日当報酬の30%を手数料として、1カ月にまとめたものを企業に請求している。初期費用は稼働するまで一切いただいていない。
――地方での募集について。
石田 タイミーは全国的な網羅率が高まっており、9割のマッチング率を誇る。フルタイムは厳しいが短時間なら働ける人など、実は施設周辺、各地域には潜在的な労働力が眠っている。それらの方がマッチングして実際に来て働いてもらったところ、想像以上に活躍してくれたという話をよく聞く。今までであれば縁がなかった人もタイミーではマッチングしており、地方でも労働力が確保できている。
なかでも、スキー場、ゴルフ場のマッチング率は高い。実際にあるゴルフ場では20代のワーカーが多数集まり、そのうち3人を長期雇用として引き抜けたという話もある。
――レジャー施設におけるスキマバイトサービスの活用例は。
石田 ゴルフ場や、スキー場、キャンプ場、映画館、温浴施設といった施設でタイミーを通して多くの人が働いている。スキー場やキャンプ場は、アソビューの領域と近い。ゴルフ場であれば、コース内のごみ拾い、キャリーバッグの積み込み、カート清掃といった仕事内容がある。珍しいものでは、ディポット跡(ターフを打った後にできるくぼみ)をひたすら埋めるだけの仕事もある。温浴施設であれば深夜帯は人が不足しており、館内着の受け渡し、清掃、タオル替えなどがある。
宮本 いま挙げられたような簡易的な基本業務はどの施設も人手不足と言っていい。簡易的業務とはいえ、施設運営においては重要で、ないがしろにすると景観を損なうほか、サービス品質の低下にもつながる。この部分は全てタイミーのスキームで課題解決できると考えている。
石田 年によって傾向も異なる。2023年11、12月は例年よりも暖かく、昨年とは来場のペースは異なっている。暖かくて外に出る人が多いことから客足が伸び、例年以上に人手も必要になった。
宮本 本当は2時間でいいが、8時間雇わなければならないところが人材確保を難しくしている。インフラ部分を整えなければ、従業員は顧客満足度を上げる仕事には従事できない。この負のサイクルは、すぐにでも歯止めを掛けなければならない。
アソビュー!にはクチコミを投稿できる機能がある。日当たりの評点を各施設で見ると、土日や繁忙期になると星1や星2の数が必ず増える。理由としては、「混んでいた」「オペレーションが悪い」「声を掛けても対応してもらえなかった」といった声が多い。繁忙日をギリギリの人数で回していることが原因だが、収益性で見れば当日だけスタッフを部分的に増やしても充分に確保できる。
――ウラカタシリーズとの連携は。
宮本 ウラカタシリーズの中で人が足りない際にボタン一つで募集できるようにしたい。軌道に乗った時に機能を搭載していく計画だ。
レジャー施設からは、需要予測をしたいともよく言われる。幾度かシミュレーションしてみたが、2カ月先の予測をすることは多くの施設で不可能だった。雨が降れば集客が50%に落ち込むなど、不確定要素がある。天候は2、3日前にならないと精度は上がらず、2カ月前では人手の予測はできない。タイミーであれば、前日に足りない人手を補える。雇用が直前で良いとなると、事前で採用しすぎた、人手が足りなかったということを避けられる。
石田 タイムリーにオンデマンドで人手を供給する手段がこれまではなかったが、タイミーを活用することで実現できるようになる。
――サービスにおける課題は。
石田 タイミーワーカーは、面接なしでマッチングをして働きにくる。あらかじめ体制を整えてオペレーションを組んでおくと、スムーズにワーカーを受け入れられる。また、簡易的な業務に限らず高度な業務を頼みたい場合において、歯がゆさを感じる企業もある。仕事を誰でもやりやすくする一方で、ワーカーのスキルやできることを可視化しながら、精度の高いマッチングを実現するために、事前に研修会を開くこともある。
宮本 レジャー施設におけるチケットの窓口業務は非常に難易度が高い。チケットの入場処理は券をもぎるだけだが、窓口では、割引券、株主優待券に加え、福利厚生の書類確認が必要となるなど複雑なものとなっている。中には100種類ほど、チケットの券種があるレジャー施設もある。その場合、慣れた人だと1組1分で処理できるものが、初心者だと5分、10分かかり窓口が混む。こういった複雑な部分をDXで担いながら、単純なところをタイミーワーカーで回せるようにしたい。
――中長期での展開について。
石田 一つは、働くと遊ぶが、体験として交わる形が取れないかと常々考えている。遊んで働いて帰ってくることが実現できると、苦役としての労働でなく、楽しみに転換できる。
もう一つは、働くとか遊ぶは、地域に根差す話。地方自治体と連携しながら、「はたらく」を通じた関係人口づくりを実現したい。われわれのようなプラットフォーマーが入ることで、関係人口、移住人口が増加すれば、地方創生の文脈にもつながる。
宮本 初めは人員補充の観点で提携の話をしていたが、施設視点で言えば、集客と労働がセットで課題解決できればより良い取り組みになると考えている。チケット窓口で2時間だけ働いた後、施設内で遊べるということは実現性がある。レジャー施設は若年層の集客にも課題感を持っており、働いてもらうことからクチコミで良い評価が広まることまでできればおもしろい。
例えば、箱根旅行に行く際に朝に2時間だけ働き、稼いだお金を使い現地で遊んで帰ることも、タイミーとアソビューの連携であれば可能になる。消費者側として、レジャー施設、コンサート会場、サッカー場など、これまでに入場だけではできなかった部分が見られるというおもしろさもあるだろう。このようなチャレンジは果敢に挑んでいきたい。
宮本武尊(みやもと・たける)アソビュー㈱ 専務執行役員成長戦略管掌 1990年生まれ。2012年に株式会社リアルワールドに入社し、メディアのマーケティング領域を担当。2013年に株式会社ビズリーチに入社。オンラインマーケティング、営業企画を経て、2014年にカタリズム㈱(現アソビュー㈱)に参画。アソビュー!のプロダクト改善やマーケティング領域の執行役員、取締役執行役員COOを経て、2022年10月から専務執行役員成長戦略管掌。
石田幸輔(いしだ・こうすけ)㈱タイミー事業開発部 部長 1984年生まれ。2007年にリクルートHRマーケティング(現:リクルート)に入社し、新規事業開発等を担当。その後ヘルスケアスタートアップでプロダクト/マーケティング、経営企画等を経て、2022年2月に株式会社タイミーに入社。事業開発部部長として、観光・レジャーを始めとした新規業界開発を進める。
聞き手 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通