奈良県は1月22日、奈良の食文化の魅力を伝えるイベント「食でめぐる奈良~奈良の食文化にふれる旅~」を東京・新橋の奈良まほろば館で開いた。イベントには奈良にゆかりのある観光関係者やメディア、同事業に参画する楽天や奈良県立大(NPU)の学生らが参加し、宿泊促進施策案紹介や奈良の食文化を語る有識者トークセッションなどが行われた。事業を契機に奈良の食に触れて文化を体験できる「薬草好き」をテーマとした同事業オリジナルの宿泊プランを造成・販売するほか、奈良の食に出会えるおすすめの店の紹介をしながら、奈良の食・食文化の魅力をフックとした現地への誘客を目指す。
楽天のマーケティングデータやサービスを活用
同イベントは、奈良県が2023年度に取り組む「食の魅力を活用した宿泊誘客促進事業」の一環として実施。事業は楽天が受託し、楽天のマーケティングデータやサービスを活用しながら食・食文化の魅力を伝える事業を展開している。
同事業では、奈良県内の宿泊事業者と連携し、奈良の歴史や食文化を体験できる宿泊プランを6つ造成。「楽天トラベル」の特集ページで宿泊プランや体験、飲食店を紹介するとともに、広告配信などのプロモーションを行っている。2023年11月6日には、奈良県立大の学生が奈良県宇陀市を訪れ、大学生がし地域の食と観光振興を学び、考えるイベントを実施している。
イベントでは、奈良でしか味わえない多彩な魅力を、奈良の食の魅力に精通した有識者が語るほか、学生による宇陀市での現地学習をもとにした薬草と古民家を活用した宿泊促進施策を発表した。
冒頭、奈良県の葛本雅則観光局次長があいさつ。志賀直哉が記した「奈良」を紹介しながら、「志賀直哉は奈良を『食ひものはうまい物のない所だ』と伝えたが、牛肉、豆腐、がんもどき、わらびもちは良いと書いてある。これは、直哉が実際に5、6年住む中で良いと感じたもの。よく、この子はできは悪いが、うちの子はいい子だという表現に似ている。自然や建築も美しいと言っているが、われわわは自信をもって奈良の食、環境を伝えていく」と魅力をPRした。
「薬草好き」テーマに第1回一期一会プランを販売
同事業オリジナルの宿泊プランについては、奈良県立大学地域創生部の学生5人(竹川穂乃果さん、川崎純佳さん、河原琴海さん、野口香陽さん、前川一希さん)が「一期一会を宿泊で生かすことの可能性」をテーマに、①宇陀市での学び②宿泊業界の現状と「奈の音」(宿泊施設、宇陀市)③宿泊プラン④広報活動―に分けて発表した。
学生は、宇陀市で食による観光の取り組みを学習。2023年11月6日に薬草発祥の地である宇陀市を訪問し、薬草や薬膳料理などの食による観光振興の取り組みを学んだ。学生は、宿泊施設との対話の中で、1人宿泊のニーズが高まっていること、団体旅行客が減少して1室あたりの宿泊人数が減少傾向にあることから、奈の音自体に宿泊の目的を作ること、個人旅行客をターゲットにした宿泊プランを作成することを、プランを検討する際のポイントとして挙げた。
新しいプランは、初対面の宿泊客同氏が同じ部屋に宿泊し、交流する相部屋方式を採用。参加者は、「薬草好き」をテーマに、自分で薬草(ハーブ)などを栽培している人、薬膳料理が好きな人などを対象とした。プランのコンセプトは「一期一会」で、第1回一期一会プランとして1月21日から販売を始める。日程は、2月23(土)~24(日)日の1泊2日の行程で、料金は1人1万5000円。募集人数は8人で、最小催行人員が3人。
一期一会プランは、初日がチェックイン後に名札を配布して参加者同士をあだ名で呼び合うなど距離を縮めるほか、大宇陀温泉「あきののゆ」での入浴、地元野菜と8種類の薬草を使った薬草などの夕食の提供を行う。2日目は、土鍋で炊いたごはんや地元野菜を使った和食献立、薬草茶などの手作り朝食後に、ガイドによる宿周辺の薬草ツアー実施する。「対話時には奈の音のオーナーが参加するなど、共通の趣味を持つ人が集まることが特徴」と学生は話す。
広報活動では、宿泊客が少ない世代である20代をターゲットに、インスタグラムなどのSNSを積極的に活用して集客に努める。集客に向けては、宿泊促進として奈の音のインスタグラムを使用した公式アカウントを開設したほか、短い動画で施設のことが分かるリール動画を使った発信などが行われている。
宿泊プランを聞いた奈の音を運営するネイチャー・コア・サイエンスの前真司代表取締役は、「薬草中心で頑張る定員11人の小さな宿に良い機会をいただいた。これまでは講演会やワークショップを行い、薬草の魅力を伝えることで人を集めていたが、すでに薬草が好きな人を集めるという新しいアイデアをもらった。今回の機会を生かして軌道に乗るようにしたい」と述べた。
レストラン「akordo」の川島宙オーナーシェフは、「最初は2008年に奈良・富雄でハーブを特徴にレストランを始めたが、初めは草を食わせるのかと言われた。今は、薬草、ハーブ、花を食べるようになった。日本料理店のカウンターに行くと1人客がいるが、1人客が集まるとあとから一体感が出る場合がある」とプランを評価した。一方で、1人で集中して食べたい人に対する課題を挙げた。宿の在り方については、「宿泊が旅の途中化、旅の目的にするのかを考えるべき。レストランも食事がおいしいだけではダメで、歴史・文化など、何を宇陀でするかを考えると大きな動きになる」と指摘した。
かき氷店「ほうせき箱」を運営するほうせき箱の平井宗助代表は、コミュニティづくりの大切さを説いた。「薬草好きが集まり、オーナーも入るコンセプトは素晴らしい。宿は受け身で運営することが多いが、薬草というテーマを持ってオーナーが関わり、人が集まる仕組みづくりは運営の肝となる。コミュニティづくりで大切なのは、1回で終わらせないこと。次回取り組むことを伝えることで、コミュニティがコアになっていく」と話した。また、情報発信においては、「われわれもインスタグラムをしているが、自分たちだけでなく、お客さまに拡散してもらうこと。最近は流れが変わり、写真よりも短い動画で伝えることも求められている」とアドバイスした。
ガストロノミーツーリズム研究所の杉山尚美CEOは、「あだ名で呼び合うこと、好きな奈良ゆかりの名前を付けるのも素晴らしい発想だ」と評価。ターゲットについては、「ガストロノミーツーリズムの観点から言えば、健康なども要素であり、朝からヨガをしている人も対象になる。ターゲットを時には関連性あるものに広げることで集客やつながりを生むことがある」と考えを披露した。
効能や考え方で大きく変わる薬草の使用
トークセッションでは、奈良の薬草の魅力を紹介。ほうせき箱の平井代表は、「奈良県南部は薬草の発祥地であり、薬草をテーマとした地域おこしをしている。私が直接かかわっているものとして果物のカキがある。カキは生薬の一部であり、ヘタはしゃっくりを止めるものとして知られているが、まだ漢方などに認定されていない。健康機能性が素晴らしく、ビタミンCやポリフェノールなどが多く、抗酸化作用も働くことから、昔の人の知恵の中で使われてきた」と話しながら、カキの効能を最大限に生かすために茶のほか、せっけんや入浴剤などで商品化していることを紹介した。
akorduの川島オーナーシェフは、「スペイン・バスク地方に多くいることがあることから、スペイン、奈良、宇陀を考えながら構成している。私たちは『分解再構築』という考え方を採用している。地方の食材や地方の話を自分たちで解釈してどうモダンに提供するか、素材を素材として考えないことも大事。時には万葉集や古事記の神様の話を取り上げて料理を作ることもある」と話した。
このほか、参加者による奈良の薬草や食材を使用した料理の提供などが行われた。
取材:ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通