Act.1「旅の始まりから豊かになる」
旅は人の人生を豊かにする。昔は水を汲むのも、狩りをするのも旅だった。日本人の旅の原点とされるお伊勢参りや富士山講などの巡礼の旅もまた、いつ道端で山賊に合うか、宿屋で見知らぬ者に狙われるかわからない、まさに命懸けの旅だった。それでも人々は自分の生活と人生を豊かにするために旅をしていた。
やがて旅をして豊かになりたいという人々の欲求を満たし、安全かつ快適に旅ができるようにと生まれ、産業として発達したのがツーリズム産業。江戸時代、浪花商人が発行した「浪花講」は、旅の安全を担保するツアー参加者証の役割と、今でいう旅行会社の協定旅館の仕組みの先駆けで、今でもその歴史を川崎市の東海道かわさき宿交流館で学ぶことができる。
旅をする人は、誰でもいい旅をしたい。だから、それをビジネスにする人々は、彼らをいかに楽しませ、満足させ、彼らの人生を豊かにするかを考えるしかない。旅行形態の個人化、予約手段のIT化、少子高齢化、インバウンドの興隆、環境の変化はあれども旅の原点とそこに仕事としてかかわる人々の根幹は変わることが無いはずだ。
胸に手を当てて考えてみてほしい。本当に今、ビジネスとして扱っている旅やそれに関わるサービスが、真に旅する人の人生を豊かにすることにつながっているのかどうかを。目先のことにとらわれ、本懐を見失ってはいないかということを。
誰もが当たり前に思う、「こんなことが旅にとって必要で、こんな旅をして豊かになりたい」という些細な旅のシーン。そんなシーンをゆるく紹介していこうと思う。誰もが豊かなる旅ができるように。旅に関わる仕事をする人々の人生もまた豊かになる一助となるように。
列車の旅に欠かせない駅弁。その当たり前の光景を革命的に変えたのは東京駅の「駅弁や 祭」だろう。かつて駅弁はその地のものをその地で買い味わうのが当たり前だった。「駅弁や 祭」は全国各地の200種類以上の駅弁を揃えるだけでなく、シーズンごとに変わるライブキッチンで調理した出来立ての弁当も味わえる。今では訪日外国人もその存在を十分に知っており、色とりどりのパッケージを見ながら楽しそうに弁当を選ぶ光景や、車内で交換しながら味わうグループを見るのは日常になった。東京駅という立地ならではの、新幹線で産地から「逆輸入」できるメリットも活かされ、まさにこれから向かう旅先のご当地弁当をいただきながら車窓を眺めるのは、かつてない新しい旅の価値だ。
エキナカのバラエティも豊富になり、例えば数千円する料亭や老舗の弁当や総菜も手に入るようになった。一方で、それに加えて欠かせないお酒のほうはどうだろう。車内で缶ビールを「プシュ」とやるのは楽しいが、どうも日常感がつきまとう。エキナカ酒屋のラインナップはとても充実していて、それこそ駅弁同様に各地の地酒に日本産ワインまで揃うのだが、お願いしてつけてもらえるのは試飲用の小さなプラスチックカップ。それはちょっと興ざめ。コンビニで氷の入ったプラカップを買うこともできる。これに酎ハイやハイボールを注ぐと少しはいいか。でも、旅の始まりにふさわしい豪勢なお弁当と比べるといささか不釣り合いだなあ、といつも思っていた。
実は、東京駅直結の大丸百貨店の地下の酒売り場でプロ仕様の丸い氷を売っている。ホテルのバーなどで目にするあれだ。なるほど、これさえあればかなりリッチな気分だ。でも、プラカップと缶はどうにかしたいなあ。
結論。旅する時には家でも滅多に使わないバカラのグラスをおともに。これに大丸の丸氷を落とせば一気にテンションが上がった。日本酒を飲む予定の時はお猪口をかごに入れて車内で好きな猪口を選んで酒を飲む。のっけから豊かになること間違いなし。何より、周りの人々の垂涎の目が豊かさを物語っている。のっけから些細な話で恐縮なのだが、一分一秒を楽しむのが旅の醍醐味。まだまだ叶えられていないサービスは無数にある。
ちょっとしたことで豊かになる旅の始まり。車内でバカラのグラスに丸い氷、お猪口を選んで日本酒!!
#居酒屋新幹線
出張帰りの密かな楽しみ。ご当地ツマミと酒を車内で愉しむ「車内版孤独のグルメ」!ABEMA-TV等でご覧いただけます。