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ゆたかなる旅路 Act.8「旅は誰をも豊かにする」

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金沢のホテルは高稼働中、だけど・・・

 能登半島地震からちょうど1か月、金沢市内のホテルに滞在しながら本稿を書いている。地震の影響は市内ではほとんど見られず、観光への影響はさほどない。しかし、近江町市場や兼六園など、名だたる観光地の賑わいはほとんどない。ちょうど、3月16日に開業する北陸新幹線の金沢~敦賀間の試乗会が行われており、多くの参加者が駅ナカの土産物屋に溢れてはいるが、その姿を差し引けばかなり寂しい状況で、唯一目につくのは海外からの観光客のみ。

 一方で、市内のホテルの稼働率はみな過去最高の状況だという。駅前の駐車場には兵庫県の救急車や大阪府のマイクロバス。部屋を埋めているのは各県やインフラ企業などの復興支援の人々やマスメディア、そして2次避難の能登の被災者の方々だ。

 タクシーは報道関係者などが終日チャーターしており品薄で、夕方の時間の配車は断られた。

風評被害と出控えが深刻

 前日まで訪れていた福井県の温泉地では深刻な風評被害に苦しんでいた。テレビで報道されている地震の申告な被害が北陸全域に及んでいると思われ、1月以降キャンセルがやまない。その後、復興支援のための「北陸割」が3月頃に開始する旨の報道が出て、予約を先送し出控える動きも出たため2月は更に予約が無い状態だという。

 富山県内などでも、新年会や会合の類の多くが中止になっているそうで、金沢でも行列必至の飲食店にすんなり入れたり、店によっては臨時休業したりしていた。

同じことをまた繰り返す?

 12年前の東日本大震災の時も東北全体は風評被害と出控えと自粛に包まれた。津波の被害が大きかった太平洋側の福島、宮城、岩手では、都市機能が維持されキャパシティの大きい郡山や仙台、盛岡などに復興支援拠点が築かれ、ホテルや飲食店がそれなりに機能を果たした。

 一方で、同じ東北だというだけで津波はおろか揺れすら東京よりもなかった山形や秋田の日本海側の旅館も長い間予約が全く入らなかったことを思い出す。

 同じことをまた繰り返すのだろうか。いや、私たちは過去に経験した多くの災害とその復興のプロセスの中で多くのことを学んでいる。今度はそうはならないに違いない。そう思いつつ、また同じことを繰り返すのか、という嫌な予感もまた消えない。

少しづつ前を向いている

 能登へも足を運んだ。まだ水が通っておらず、崩れた家屋のほとんどは片付けすら始まっていない。能登最大の観光地でもある和倉温泉は、ほとんどの旅館が建物に大きなダメージを受けていた。水が来ていないので配管や設備の確認すらできず、本当の意味での被害状況の確認もこれからだ。観光客が来て賑わいを取り戻すためには相当の時間がかかるだろう。

 それでも、みんな前を向いていた。ダメージの少ない客室を通信インフラなどの支援隊に提供する宿も出てきている。食事も風呂も無しだが、それは支援隊自身で調達して対応しているという。鉄道もまた大きなダメージを受けたが、2月15日にはJR七尾線の和倉温泉、そして、その先能登中島(のと鉄道)まで復旧する。

 とにかくつなぐ、つなぐことしかないけれど、と言いながら懸命の作業で東北新幹線を50日で復活させたことを思い出す。みんな少しづつ、前を向いている。今日とは違う明日が、間違いなく訪れるはずだ。

行けるとこには、旅をしよう

 「旅行支援は旅館や一部の業者を支援するだけ、そんな金があるなら被災地に直接金を配るべきでは」GoToトラベルを中止に追い込んだ、そんな声がまた少なからず聞こえてくる。旅行代金や宿泊料を半額補助してもらうことが、なぜそういう声を引き起こすのだろう。人が動くことは消費の連鎖を引き起こす。食事に買い物、ガソリンスタンドに一次産業、人がお金を使うことで潤う分野は数知れず。土木工事や建物工事をできない個人がお金を地域に落とす方法は、旅をしたり地域のものを買うしかない。

 「北陸の元気な地域に旅行をしてください。それが能登への支援につながります」そうテレビで訴えかける、美湾荘の若女将、多田直未さん。北陸の温泉地は相互の連携が強く、さまざまなプロモーションを共同で行ってきた。被害の無い地域にすら人が行かなくなったら、それは更に多くの次なる被害を生むだけだ。

 元気な場所から復活し、やがて地域全体が復活する。そのイメージがこれからとても重要になる。

 行けるとこには、旅をしよう。お弁当を買い、観光をし、食事をし、お土産を買い・・・そのアクションがどのくらい、地域を勇気づけるかを考えてほしい。「こんな時に」ではなくて、「こんな時だからこそ」。迷惑になることなんか何もない。旅は誰をも豊かにする。

閑散としている金沢・近江町市場。コロナ禍が戻ったかのような状況に。
閑散としている金沢・近江町市場。コロナ禍が戻ったかのような状況に。

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=19

寄稿者 高橋敦司(たかはし・あつし) ㈱ジェイアール東日本企画 常務取締役CDO

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