温泉天国鹿児島
前回の記事では、長野県諏訪エリアが観光庁「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」にユニバーサルウェディングで参画した背景として、諏訪湖温泉での入浴介助サービスが背景にあることをお伝えしました。
全国のクルーズ寄港地で毎年10位以内に登場し、市の中心街の銭湯がすべて天然温泉というほど温泉天国の鹿児島では、「かごしまバリアフリーツアーセンター」が実施主体となり同事業に申請。「クルーズ下船後、一番近いバリアフリー温泉は鹿児島だよ!プロジェクト」(訪日✕ユニバーサルツーリズム)を提案したところ採択され、1月25日には2023年度で取り組んできたことの事業報告会が実施されました。
かごしまバリアフリーツアーセンター https://kagoshima-barrierfree.com/
温泉エッセイストである山崎まゆみさんの特別講演では、「親孝行温泉」「三世代温泉」をキーワードに分わかりやすくユニバーサルツーリズムの推進についてお話いただきました。
事業の初動からアドバイスしてきた私は、旅行会社勤務時代に実際に入浴介助をツアーに組み込んで喜ばれた事例や他地域の取り組みを紹介するなど、サービスの価値や可能性をお伝えしました。
事業報告会には県や市の担当者、議員、宿泊・観光事業者、障がい当事者とさまざまな立場の方が参加され、ユニバーサルツーリズムの推進を考えていただく機会となりました。中にはわざわざ関西の温泉地から足を運ばれ、2024年度に観光庁が実施する「地域観光新発見事業」の申請に向けた提案の参考にしたいという方までいました。
これは余談ですが、今年度の事業で採択された事業は全国で約1400件、そのうちバリアフリー観光、ユニバーサルツーリズムが軸となる提案は私が確認できた範囲でわずか10件程度でした。
温泉入浴介助サービスに限らず、ユニバーサルツーリズムでの提案はもっと増えないといけませんね。
人材育成
このサービスは、普段デイサービス等の高齢者施設で入浴介助を行っている方が集まればすぐにできるというものではありません。
施設とは異なる環境のホテルの貸切風呂、介助を必要とする旅行客も初めてお会いする方であるなど、プログラムとして販売するためには一定の研修が必要となります。
夏からはスタッフの募集が始まり、座学研修を終えた後、秋には実際にホテルの貸切風呂を使った入浴介助の実地研修が行われます。私は「旅行で温泉に来られる方は、温泉に入れたことだけでもうれしいはず。介助スタッフとの会話、おすすめ観光地や食事、方言などが加わるともっと楽しんでいただけますよ」とアドバイスしました。
SHIROYAMA HOTELとの連携と展開
春に事業の提案段階で私が一番懸念していたことは、このサービスに賛同し連携してもらえる宿泊施設が出てくるのかどうかでした。過去の経験から観光事業者の中には、ユニバーサルツーリズム、バリアフリーという言葉にまだまだ腰が引けてしまう施設も多いからです。
しかし、採択後にはすぐに「SHIROYAMA HOTELさんから研修場所として貸切風呂を提供いただいた」と連絡があり、素晴らしい施設で研修も実施できました。
実地研修を終えると、障がい当事者によるモニター体験等を経て紹介用のPR動画が制作され報告会でお披露目されました。
温泉入浴介助サービスの良さが響く動画だと思いませんか。
インバウンド対応には文字より画像、画像より動画がわかりやすく伝わり、通訳が入ると十分対応も可能です。
1月25日の報告会後すぐにホテルのHPは改修され、「ユニバーサル対応」のページ内に「入浴介助サービス」が紹介されました。
トップページの中心に「ユニバーサル対応」のタブがあり、そこを開くとハード面からソフト面まであらゆる受入れ対応が事細かに紹介されていて、高齢でも障がいがあってもどなたでもお越しくださいという気持ちが伝わってくる優しさあふれるHPだと思います。ぜひご覧になってください。
SHIROYAMA HOTEL https://www.shiroyama-g.co.jp/
全国に広がれ温泉入浴介助サービスの輪!
コロナの期間中、宿泊客が激減したタイミングで観光庁の補助金を活用し施設のバリアフリー化改修をされた宿泊施設も多いと聞きます。
ハードは整備できても、介助というソフト面は観光事業者が苦手とする分野ですよね。
皆さんは、全国に「かごしまバリアフリーツアーセンター」のようなバリアフリー旅行相談窓口が増え続けていることをご存知でしょうか。
〈観光庁「ユニバーサルツーリズム促進事業」令和3年3月時点バリアフリー旅行相談窓口〉
https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/content/001488557.pdf
すべての窓口で同様な対応ができるわけではありませんが、少なくとも窓口との連携で今までにない地域独自のサービスが生まれる可能性があります。
温泉好きな超高齢社会日本、いくつになっても「温泉を旅をあきらめさせない」観光地を考えましょう!
オフィス・フチでは全国の様々なユニバーサルツーリズムの取組みを紹介しています。
https://officefuchi.amebaownd.com/
寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)ユニバーサルツーリズム・アドバイザー / オフィス・フチ代表