国土交通省関東運輸局は2月14日、江戸街道プロジェクトプロデュース「江戸料理体験セミナーin日本橋」を東京・日本橋の「江戸料理 奈美路や」で開いた。江戸料理研究家や観光業界から有識者を招くほか、メディア、観光関連事業に携わる団体・企業など約50人が参加。江戸時代に江戸の地で発祥した料理文化、和食のルーツである「江戸料理」をテーマに、食を通じた地域の観光振興を推進する。
江戸街道プロジェクトは、広域関東(1都10県)の魅力を「江戸街道」という統一テーマでブランディングし、街道観光の推進を通して地域を活性化する取り組みで、関東運輸局が2022年度から主導している。
食の観点から街道観光の新たな可能性探る
同セミナーの冒頭、関東運輸局の勝山潔局長が「江戸街道プロジェクトは3カ年計画で進めている。地域連携促進企画として、関東内における街道や脇道に点在する魅力ある資源を単体だけでなく、複数で連携させ、発信や誘客の機運を醸成するもの」とプロジェクトを説明し、新たな周遊ルートの形成などの効果を期待した。同セミナーについては、「先日には江戸料理をテーマとした食の開発として、日光街道の最初の宿場町である千住宿で『千住版江戸料理』を発表した。食の観点からも街道観光の可能性を探っていきたい」と話した。
後援する中央区観光協会の齊藤進事務局長は「全国から見ると日本橋は五街道の終着点であり、人・物・情報が集まる地。地域には新店だけでなく、名店が数多く残る。だが、脈々と受け継がれ、磨かれたものが時代の中で埋もれてしまったものがある。改めて江戸料理にスポットを当てながら地域の町おこしをしていきたい」と述べた。
協力する時代村のユキリョウイチ社長(将軍)は、「正しい江戸の歴史を継承することを信条に『江戸ワンダーランド日光江戸村』を運営している。江戸料理をきちんと形に残し、次の時代に継承することが日本人のやるべきことだ」訴えた。また、食文化への提言として「日本の食料自給率を100%に戻したい。アジアだと台湾の食料自給率は87%、タイ王国は170%ある。観光立国をしようとする日本が自分たちの食料すら賄えないとなると実現は難しくなる。まず、日本の本来の味である江戸料理を知ってもらうことは起爆剤になる」と話した。
江戸料理が地域の新たなコンテンツに
セミナーでは、江戸街道プロジェクトや江戸料理の説明のほか、江戸料理や観光に関する有識者を招き、江戸料理が地域の観光にどのように活用すれば良いかを議論した。
江戸街道プロジェクトについては、関東運輸局観光部の堤孝計画調整官が説明。プロジェクトの推進で目指すべき姿として、観光コンテンツや街道プロモーションツールの集約、街道観光の情報発信を一元化するプラットフォームの構築を挙げた。また、取り組みを具体的に進めるため、「江戸料理」「分散型宿泊(アルベルゴ・ディフーゾ)」の2つのテーマを設定し、インバウンド向けの新たなコンテンツ創出、周遊促進、消費拡大を図っていることを説明した。
会場となった江戸料理 奈美路やの佐藤達雄支配人は、江戸料理の起源や当時の食文化、使用されていた食材、料理手法などを解説した。事業を受託するケー・シー・エスは、事業である「江戸街道、料理で伝える歴史と文化の旅」の説明を行った。同事業では、江戸街道プロジェクト版江戸料理の開発の他、事業で制作した江戸料理の訴求展開、江戸料理の宿場観光への組み込みなどを行っている。宿場観光の組み込みでは、海外展開を視野に、観光まち歩きに江戸料理体験を加えたモデルツアーをインフルエンサーに体験してもらいながら検証。インフルエンサーからは、江戸料理の奥深さ、新たな食材の仕様による新鮮さへの評価を得ている。
パネルディスカッションは「江戸料理による地域の観光振興」をテーマに実施。ファシリテーターには、日本観光振興協会総合研究所の丁野朗顧問を迎え、パネラーとして福田浩氏(江戸料理研究家/大塚『なべ家』元主人)、大竹道茂氏(江戸東京・伝統野菜研究会代表)、冬木れい氏(料理研究家/「大きな竈」主宰)、岡村清二氏(関東運輸局観光部長)が登壇した。
福田氏は、「銀座や日本橋は江戸の中心であり、昔からの料理を提供している店も残っている。昨今では、日本や江戸の良い所を日本人に聞くよりも外国人の物知りの人に聞いた方が詳しい場合がある。今回の取り組みは、江戸料理、日本の料理の復活の場になる」とプロジェクトの成功に期待した。
大竹氏は、「江戸時代から種を通して、江戸の命が今日までつながってきた。江戸には全国各地の料理が集まり、そして各地に広まった。それこそ、日本中の料理が江戸料理とも言える。江戸時代の料理となると、当時のレシピもいろいろ残っている。レシピや食材を使って再現することは、新たな料理の普及にもつながる。ぜひ、食を味わい、食材も使ってほしい」と呼び掛けた。
冬木氏は、「薬膳料理を熱心に学んできたが、養生学や本草学は江戸時代に全盛期を迎える。江戸時代には食の安全安心が確認され、食べられるものは爆発的に増えた。現代の日常にも多くが生きているが、江戸料理を通じて改めて食の素晴らしさを知ってもらいたい」と話した。また、京料理との対比として、料理の勢いと潔さを挙げた。
岡村氏は、「日本の観光の原点は、江戸時代にほぼ始まった神社などへの参拝にある。移動には街道が使われており、江戸街道プロジェクトは観光の原点回帰と言える。歴史を忘れずに進めていきたい」と事業を説明。また、江戸料理を取り扱う店を分かりやすくする取り組みなどを進めていく方針を示した。
丁野氏は、「地域には古くからの料理手法の事例が数多く残っている。これをつなぐことで観光の動線となる。江戸料理はさまざまな切り口があり、発展性があるものだ。皆で伝えていってほしい」とまとめた。
このほか、セミナー後には「江戸料理体験」として、冬木れい氏が監修した江戸料理が振る舞われるほか、江戸時代の料理本に残された調理方法や再現する上での工夫などの座学が行われた。
取材 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通