前回、前々回と歴史的側面以外の観光資源のお話をさせていただきました。今回は「お酒」に紐づけて、奈良のことをお話したいと思います。
清酒と日本酒
奈良県が「日本酒発祥の地」と呼ばれていることをご存じの方も多くおられると思います。他地域にも同様の場所があるようです。
しかし、奈良市菩提山町にある「正暦寺(しょうりゃくじ)」というお寺には「日本清酒発祥の地」という石碑があります。正確には、正暦寺は日本酒ではなく、石碑にある通り、「清酒」の発祥地という位置づけです。
参考までに、簡単に清酒と日本酒の違いを説明すると、「清酒(Sake)」とは、海外産も含めた米・米こうじ・水を主な原料として発酵させてこしたものを広く言います。一方、「日本酒(Nihonshu/Japanese Sake)」とは、清酒の中でも原料が日本産。なおかつ、日本国内で醸造されたもののみが名乗れるものです。この違いをご理解いただければと思います。
信仰につながるお酒
また、「春日大社」には、重要文化財である日本最古の「酒殿」(お酒を造るための建物)があります。
更には、日本最古の神社といわれる「大神神社」には、酒造りの神様が祭られています。
神社のご神体である三輪山は、<酒のもと>を意味する<みむろ>から「三諸山(みむろやま)」と呼ばれ、古くから信仰を集めていました。
毎年11月14日には、大神神社に全国から蔵元・杜氏が集まり、新酒の醸造の安全を祈願する「醸造安全祈願祭」が行われます。
酒蔵でよく見かける杉玉も「三輪明神・志るしの杉玉」のお札が吊るされているものは、祭典後に大神神社から授与されたものです。
はじまりはいつ?
では、いつ頃から酒造りがはじまったのでしょうか。
日本書記に、崇神天皇の時代に疫病が蔓延した際、お酒を奉納することで収まったとの記述があります。崇神天皇ですから、6世紀ごろ、実に1,400年以上前にお酒が造られていたことになります。ワイン発祥がおおよそ8,000年前と言われていることに比べると、歴史は浅いのかもしれません。
しかし、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたこともあり、世界の人々にも日本酒が理解されつつあるような気がしています。
また、日本国内でも「日本酒ブーム」が到来しているようです。お酒の名前は出せませんが、奈良発で全国的に認知されているお酒も少なくありません。
お酒を飲める年齢の方は、ぜひ奈良とお酒の歴史をリンクして学んでいただきたいと思います。そして、現代の蔵元が、その製法を先人より引継ぎ、また、工夫を重ね作り上げた美味しい日本酒を本場で味わっていただきたいとも思います。そのために、ぜひ奈良に訪れていただきたいと思います。
(つづく)
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=27
寄稿者 志茂敦史(しも・あつし) 奈良交通㈱ 東京支社長