某日、福岡市内の大学で開催された観光人材育成の研究会に参加した。テーマは「ホスピタリティ産業の人材育成と確保」。参加者のプロフィ―ルは様々で、運営する大学に加えて他大学の観光系の先生方が複数人、観光実務を担う旅行会社やホテルの幹部の皆さん、後は私と同様で観光業の変遷を体験してきた業界OBなど。オープニングの運輸局による基調講演から始まりフリートーク形式でテーマの深堀が試みられた。
人手不足と人材育成
インバウンドが急増する一方で、肝心の受入れ側のホテル、バス、タクシー、飲食施設の人手不足は続いている。特に、私が昨年までいた山陰のようなローカルは元から人口の流出が続いている分深刻な問題だ。国では、昨年新たに観光人材育成ガイドラインを設定した。地域における取組み方針として2つの階層に分けた人材の確保が重要だとしており、観光まちづくりのリーダーとなる「観光地経営人材」と併行してホテル等の現場を担う「観光産業人材」の育成を進めている。
全国各地でも観光系の大学やDMOが課題解決に向けた新たな取組みを始めている。今回は、皆さんからぞれぞれの立場での現状と課題に関するお話を拝聴しながら、地方における人材の需要と供給のバランスを探った。
傾注すべき動き、役割は変わったのか?
特に記憶に残った話があった。一つ目は市内の大学の先生が実践例として紹介してくれた教育型の「観光インターンシップ」の取り組み。所謂、実務家教員(シティーホテルの経営者)としての人脈を活かして地元観光業57社の強力を得ながら24日間の日程が組まれている。7つのステップで段階的に各人のレベルを向上させていく仕組みは完成度が高いと感じた。
私の出身でもある旅行会社からは最近の学生の志向に関する話題提供があった。最近は人気企業ランキングの上位を取り戻した感のある旅行業だが、会社側としての悩みは彼らがやりたい仕事が昔と変わっていること。(私もそうだったが)「旅が好きだから」ではなく「地域活性化」をやりたいから旅行業を選んで入ってくるそうだ。旅行会社の役割は既に変わっているのかもしれない。
品質を向上させ、働く場を提供する
残念ながら、観光の産業としてのステータスはずっと低いままだ。まして、インバウンドに関しては「観光で稼ぐ」=インバウン丼7,000円と受け止められて世の中の見る目は冷たい。観光庁が進める「高付加価値化」は特定の観光施設や商品を高く売ることではなく、地域全体の品質を向上させることが目的のはずなのだが。
インバウンドを成長産業として根付かせるためには現場の人材の確保は当然だが、働きたくなる(働かせたくなる)ような仕事を如何にして作っていくかが待ったなしだと思う。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=31
寄稿者 福井善朗(ふくい・よしろう) 山陰インバウンド機構 前 代表理事