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訪日外国人急増の今だからこそ押さえておきたい、インバウンドマーケティングの鉄則

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 2023年4月29日、日本政府は新型コロナウィルスの感染拡大防止を目的に実施していた、日本入国時の水際対策を終了。訪日外国人観光客が制限なく旅行を楽しめるようになり、全国の自治体や観光事業者にとってはインバウンド需要を取り込む大きなチャンスが訪れています。そこでこの記事では、じゃらんリサーチセンターでインバウンドの研究を行っており、観光庁専門家派遣事業にも専門家として登録している著者が、インバウンドマーケティングで押さえておきたい基本の考え方を解説します。

急回復するインバウンド需要。約3年のブランクを踏まえ、今こそ戦略を見直す時期

 都市部や主要空港・ターミナル駅では、このところ各段に訪日外国人観光客と見られる人たちの姿が増えています。2023年3月実績は1,817,500人で、2019年同月比マイナス65.8%まで差を縮めてきており、昨年 10 月の個人旅⾏再開以降で最高を記録しています。

 苦しい思いを長くしてきた観光産業のみなさんにとっては、先行して回復していた国内旅行と合わせて、本格的に復活していくための大きな節目の時期。しかし、このチャンスを活かす上でのネックは、インバウンド対応に約3年のブランクがあることです。特に自治体では定期的な人事異動が実施されることが通例。観光課にインバウンドマーケティングの経験者がいなくなっているという声も聞こえてきます。宿や飲食店・体験施設などの観光事業者も人員削減をせざるを得なかったところが多く、同じような状況だと言えるでしょう。インバウンドの戦略やノウハウがリセットされ、「前年実績を踏まえた対策」ができない今だからこそ、改めてインバウンド戦略の立て方を基本から理解し、組み立てていくことが必要です。

国→自治体→事業者のリレー形式で情報がつながるようなコミュニケーション戦略をつくる

 インバウンドマーケティングは、国内旅行者向けのそれとは考え方が異なります。なぜなら、旅行のスタイル自体が異なるからです。国内旅行の場合は1泊2日から2泊3日が大半で、日帰り旅行というニーズもあるため、旅先は自ずと一つの地域に絞られます。しかし、インバウンドでは1週間程度かそれ以上の長期滞在の場合が多く、せっかく訪日するならと複数の地域を周遊することも珍しくありません。

 そのため、自治体や事業者がバラバラに動くのではなく、外国人旅行者の動きを理解し、線でつながるようにマーケティング戦略を組み立てていくことが大切です。まずは、どの国のどんな人々が、どのような体験を求めて日本を選んでいるのかを理解すること。その上で自治体は彼らの希望を叶えられるような地域の観光資源や地域へのアクセス導線を踏まえたプランをアピールすること。観光関連事業者も自治体の戦略を踏まえてPRやサービスを実施すること。こうした連携によって外国人観光客が期待していた体験を提供でき、評価の高い口コミにつながり、さらなる集客が見込めるという好循環を生み出すことができます。このように、旅行者が日本に興味を持ち、どの地域を巡るか旅程を決め、具体的な体験をするまでの導線を踏まえた「情報のリレー」を意識しましょう。

カスタマージャーニーにそった「情報のリレー」のイメージ

 このリレーの第一走者となる国の方針については、日本政府観光局(JNTO)から発信されている情報・データを参考にすると良いでしょう。JNTOでは2022年4月に「22市場基礎調査」を発表しています。「他の競合国と比較した日本の強み弱み」「市場ごとの旅行ニーズと地域の観光資源の可能性」の観点から活用できます。

参考:日本政府観光局(JNTO)https://www.jnto.go.jp/

参考:日本政府観光局(JNTO)発表「22市場基礎調査」 https://www.jnto.go.jp/news/r_20220502_1.pdf

客観的なデータをもとに、地域特性や相性の良いターゲットを把握する

 自地域の戦略を組み立てるには、まずエリア特性を知ることです。特に着目してほしい指標は、消費単価、平均人泊数、空港利用数、新幹線駅数など。図2のように6つの重要指標を比較していくと、自分のエリアのタイプが見えてきます。例えば、主要目的地タイプ、宿泊拠点タイプ、通過型タイプなど、都道府県別に分けることができます。このようなタイプの特性によって、注力すべき取り組みは異なります。宿泊拠点の場合は、宿泊施設の魅力やナイトタイムコンテンツの充実、通過している状態から立ち寄ってもらうには人気スポットと結んだモデルルートの提案などが必要になります。自地域のエリア特性を知り、強みと弱点を理解することからはじめましょう。

エリア特性を判断するための6つの重要指標

参考:じゃらんリサーチセンターとーりまかし研究年鑑

「インバウンド都道府県ポジショニング研究」

調査①「エリアルート戦略に寄与する都道府県別タイプ分類」からタイプごとの特徴

https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2023/03/2023-X4_all.pdf#page=5

 次に意識すべきは、旅行者はどのような導線で旅行をしているのか。地域のどこで消費獲得チャンスがあるのかをイメージすることです。図3のように、どの空港から入国し、どの地域・スポットをまわっているのか、どのルートで自地域に入り、何泊して1日あたりの消費額はどのくらいか…といった導線を整理していきます。こちらも、出入国在留管理庁から発表されている「出入国管理統計統計表」、国土交通省から発表される「FF-Data(訪日外国人流動データ)」、観光庁から発表されている「旅行・観光消費動向調査」などオープンデータを活用すれば、あてはめることが可能です。地域の魅力創出やマーケティング戦略に役立てていきましょう。

自地域のマーケティング戦略を策定するための考え方

寄稿者 松本百加里(まつもと・ゆかり)じゃらんリサーチセンター研究員

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