学び・つながる観光産業メディア

作家活動と地域の対話が双方の利益に 観光×芸術の可能性とは⁉︎|彫刻家 村岡佑樹氏

コメント

 アーティストによるアーティストのための活動として芸術祭や展示会の企画・運営を行うストレンジャーによろしく実行委員会は2月10~25日、それぞれが思う「彫刻」との関係が見え、一挙にいろいろな種類の思いが感じられる「きらめき彫刻祭」(東京・谷根千+上野桜木エリア)を開いた。総勢27人の多彩なアーティストの作品展示や親子で楽しめるワークショップなど、全11会場で多数のイベントが実施され、会期には国内外から約1,100人が集った。きらめき彫刻祭で企画を担当した村岡佑樹さんに観光と芸術の関わりやあり方、可能性について尋ねた。(インタビューは会期中に会場の一つである感應寺〈東京・谷中〉で実施)

6番:感應寺(外壁)
6番会場:感應寺(外壁)

――きらめき彫刻祭を実施した経緯は。

 「彫刻ってなんだろう?」を多くの人に問う機会を作った。彫刻について尋ねると、公園にある人の像や仏像などを挙げる人が多い。私たちプレイヤーからすれば、やっぱり彫刻だよなと思う節があるが、でもそれが言語化できていない。定義付けもできておらず、いろいろな作家や企画者などを呼びながら、多くの人たちから彫刻について話を聞きたいと思ったことが目的というか思いとしてある。

 今回は、「彫刻ってなんだろう?」をテーマとして掲げたが、フィギュアみたいなもの、動物の形を彫ったものも彫刻だ。彫刻にはバリエーションの幅の広さがあり、訪れた人には、さまざまな角度から彫刻を見てもらえた。

きらめき彫刻祭
2024年2月10~25日で開かれたきらめき彫刻祭

――彫刻祭の舞台は東京・谷根千(谷中・根津・千駄木)だが。

 私が谷根千にある東京藝術大学、大学院(東京・上野公園)に通い卒業し、今も含めて10年ぐらい住みながらこの地で築いたコミュニティに属する人たちに「彫刻ってなんだろう?」っていうことを見せられたらという思いがあった。

谷根千全体を使い「きらめき彫刻祭」を開催
谷根千全体を使い「きらめき彫刻祭」を開催

――今回は総勢27人のアーティストが参画したが、特徴はあるか。

 バリエーションが広く、普段は一緒に仕事をしないような人たちが集まった。彫刻家がいっぱいいるイメージがあるかもしれないが、そうでない人からも「彫刻ってなんだろう?」ということを知りたかったため、本来は寄生虫学者や海洋学者である作家も参画したことはとても良かったと思う。

総勢27人のアーティストが参加
総勢27人のアーティストが参加

――村岡さんはどのような作品を展示したのか。

 人体彫刻を作った。大学在学時にはずっと作っていたが、ある時から自分でなくても他の人が作るからと考えが変わり中断していた。だが、しばらく前から人体彫刻を作りたいという思いがふつふつと湧き、新たに作ったものを展示した。

――開催・運営費用について。

 今回は台東区やアーツカウンシル東京、野村財団の助成金を活用するほか、事業者や個人からの多くの協賛をいただいた上で開催した。人と作品があればすぐに開催できるものではなく、運営するには多額の費用が必要だ。芸術・文化は、何か企画を実施してすぐにお金につながらない、お金になりづらい側面はあるが、なくして良いものでもない。今後の芸術家を育てる意味でも、作品を世に出す機会や何かしらの補助制度などがあるとうれしい。

――観光と彫刻祭・芸術の関わりについて。

 彫刻祭の展示会場の一つでもあるが、多くの人は普段に墓地の中を巡ることはあまりない。しかも人様の墓地だ。私は仕事や観光を問わず、海外に行く際には墓地を訪れることがある。海外の人は墓地を尋ねる人が結構多く、今回も墓地と彫刻を併せて尋ねたという人もいる。コロナ禍が収束してインバウンドが増えているが、彫刻、アートから見える多くの日本人がまだ気付いていない視点が国内にはまだ多く眠っていると言いたい。

 今回の彫刻祭では、朝倉彫塑館や旧平櫛田中邸といった明治・大正期の建物も会場として使用しており、日本らしさが残る建築物も外国人観光客からの目を惹いている。

 外国人観光客だけでなく、国内においても美術教育に力を入れている学校との連携が考えられる。遠足や修学旅行の機会を使いながら、観光とともに芸術を学ぶことは有意義ではないだろうか。

墓地の中にもアートを設置(中央、6番会場:感應寺)
墓地の中に新たな風景が見られた
墓地の中に新たな風景、発見が感じられた

――地域で取り組むインバウンド対応について。

 普段観光に携わっていない私から見ても、外国人観光客がかなり増えたと実感している。

 今回の彫刻祭で言えば、彫刻が面白いと思ってくる人も大事だが、何かが行われているからノリで来る人も大切にしなければならない。日本に、東京に観光で来たという外国人がふらっと会場に入ってきて「これ何やってるの」と尋ねる人は一定数いる。会話をして興味を持ってもらえればチケットを買うし、購入した人は街中を回遊しながらそれぞれが思いのままに消費している。

 ウェブサイトの英語版を作り、案内することは基本だと思うが、ふらっと訪れた外国人観光客を受け入れられる環境、コミュニケーションも大切ではないだろうか。

――各地域がアートで町おこしを考えているが、気を付けてほしいことはあるか。

 近ごろはそのような話はよく聞く。アーティスト側に声を掛ける際には、すでに地域側の思惑があり、町のこの文化資源や名産とつなげて売ってほしいという話は多いが、何か押し付けがちになっている可能性がある。そのカラーがあまりにも強くなると、それは果たしてアートとして、作家としても良いことなのかどうかと疑問が残る。町に住む人が気づいていないその街の魅力を見つけることができるのも、アーティストの視点ならではだと考えられる。正解はないと思うが、町の人とアーティストのお互いが理解をしあうことがとても大切だと思う。

 私が思う一番双方の利益が出る形は、作家たちが勝手に活動するフィールドの延長線上で地域の人とコミュニケーションを取りながら緩やかに混ざりながら作品を残していくこと。各地域においても、まずは作家が好んで近づいてくる環境づくりが大切なのかもしれない。結果を急ぎ過ぎてしまうと、おそらく期待される効果は出ないような気がする。

――効果的に人を集めるには。

 地域にアートが入ることで、今までに見えなかった違った景色が見えたり、新たな発見が生まれたりする。だが、呼ぶ側として一番考えければならないのは、何をしたら来訪者が喜ぶか、来訪者がその地域に訪れて喜んでいる姿が想像できているかだ。

インバウンドを含む約1,100人が参加した
会場にはインバウンドを含む約1,100人が集った

――観光×芸術の可能性について。

 私たちアーティストの仕事は鑑賞者があることが重要で、それが観光という形で来訪者とつながることは大事である。

 アーティストが収益を上げる機会としてギャラリーでの展示がある。ギャラリーは基本無料で見られ、作品が販売されている。だが、全ての作品を売ろうとしても売れるものではない。作家が手放したくないという作品が飾られている場合もある。売ることができない芸術作品は美術館で展示されることもあるが、まだまだアーティスト個人や地域に眠る作品は多々あるはずだ。地域でまだ気付かれていない芸術作品と既存の観光資源が掛け合わさることで地域の新たなコンテンツ、魅力と成り得る可能性はある。

村岡佑樹(むらおか・ゆうき)1993年広島生まれ。2018年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。消え去っていくものや思いなどについて考え、それらを知覚させ未来に痕跡を残す方法を模索している。近年の主な活動として、個展「CONNECT THE DOTS」慕何芸術(台湾高雄市、2023)、個展「La Pomme d’Eve」bertrand larcher le Bretagne kagurazaka(東京、2022)企画「きらめき彫刻祭」(東京都台東区文京区の11会場、2024)などがある。

取材 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/
/