私の住む高山市は海外誘客を38年前から始め、今では年間約500万人の観光客のうちインバウンド(訪日外国人)が60万人以上となっています。人口8万人程度の地方都市にしては珍しい成功事例として紹介されることも多く、多言語の観光パンフレットは10種類以上、丁寧な海外戦略でここまでの結果を出してきたのでしょう。
市内にはホテル、旅館、民宿にゲストハウスとさまざまな形態の宿泊施設があり、総部屋数は来年には約5,000室。この数は中部地方では名古屋、金沢に次いで3番目となっています。
ところが、私の運営する宿を送客のための視察にいらしたある欧米の旅行社に「インバウンド富裕層が泊まれる部屋が高山市内にはない」と聞き、かなり驚きました。
私自身、宿泊業のデザインやコンサルタント業を仕事としていますので、各地の宿の動向にはいつも気をとめています。そこで、さっそくどんな客室であれば宿泊できるポイントなのかを伺ってみました。
大きなクローゼットがあるか
日本を訪れたインバウンド全体の滞在平均日数は約5日間ほどです。しかし、欧米豪圏からの観光客の多くは7日~13日間というデータがあります。カジュアルなお召し物の方も多いですが、それでも何着もの洋服を持参されます。そのため、通常の旅館やホテルのクローゼットでは宿泊人員により納まらないことも多いようで、移動式のハンガーラックを設置するなどの対応を検討すると良いかもしれません。
キャリーバッグを広げるスペースの有無
私達が海外に行く際も同じですが、前述のように長期滞在のインバウンドは、最大級のキャリーバッグでお越しになることが多いです。高さが80㎝弱、81リットルサイズのバッグを持ち込んだ場合、畳一畳分では2つのバッグが開いた状態で置けない計算となります。
この設置場所が快適に確保できない客室では富裕層には喜んでいただけないとジャッジされてしまい、5名定員の部屋でも送客できるのは2名までということになります。
また、タクシーに乗車する際にもこの大きなバッグのため、複数台手配をしなければならないということにもなります。飛騨高山では<インバウンドはタクシーには乗らない><どこまでも自分たちで歩く>というのが常識でしたが、最近は違うようです。
客室バリアフリー化?寝室近くにトイレがあるか?
ホテルや旅館の客室でも少しの段差をなくそうと毎年改装工事を行います。これが一棟貸しだともうバリアフリーどころではありません。家であることが前提なので、大概は2階建て、エレベーターもない。もちろん、家だからこその魅力も承知の上で視察に来てくださるのは嬉しいことです。
そして、その際には<階段の巾><段差の高さ><歩きやすさ><寝室の近くにトイレがあるか?>などを細かく確認されていました。
私の運営する宿Aについては、階段は急だが一階二階と二か所トイレがあるからOK、また、宿Bについては一階にしかトイレがないが階段が登りやすいのでOKとお返事をいただきました。
「インバウンドの富裕層もやはり高齢者が多い」というお話を聞いて、なるほど……と納得いたしました。
ベッドか布団かは、ケースバイケース
日本に着いて、すでに10泊しているというゲストだと<布団疲れ>している場合も多々あります。布団は箱根の旅館で一回体験したけど、あの薄さに疲れてしまって……などと。
ご要望があれば敷布団を2枚敷いて高さを出すなどの対応をいたします。
かと思うと、日本での初泊の場合はジャパニーズ布団で眠りたいから和室に布団を敷いてください、というご要望もあります。とりあえず、ベッドがあればクレームにはなりません。
くつろげる家具の設置
私の宿Aでは2ベッドの寝室に椅子が2脚あります。また小さいながらもリビングにはソファ、ダイニングにはテーブルや椅子と、一通りの家具が揃っていることについての評価を高くいただきました。意外にも家具の設置がない施設が多いのだというお話しにちょっと驚きでした。
4月、この気持ちの良い季節、観光バスから降りてツアーガイドの旗を先頭に歩く欧米人はそういえばみな高齢者。日本の良さをたくさん感じて帰国していただけますよう、高山の町並みも、宿泊施設もまだまだやることがたくさんありそうです。
最後に、「富裕層に対応できる部屋が高山にないのならば、金沢にもないのでは?」と質問したところ、「その通りだ」とお答えされました。宿泊単価とのバランスをとりながら、快適な客室を提案していきたいと思いました。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=25
(すみやのHPは、こちらです) https://www.sumiya-villa.com/
寄稿者 住百合子(すみ・ゆりこ) AO STYLE インテリアデザイナー・コーディネーター