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東京再発見 第14章 目黒川さくらクルーズ~品川区東品川から目黒区下目黒へ~

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 江戸の桜の名所は、古くから上野公園や飛鳥山、そして、隅田川の墨堤と言われた。特に東京スカイツリーが開業後は、舟で隅田川から桜花とスカイツリーを愛でることが人気の観光コンテンツだ。

護岸に映える桜花
護岸に映える桜花・・・水面目線の桜狩り

 そして、昨今は桜花を手に取るように愛でる目黒川の桜もひとつのブランドとなった。しかし、目黒川の桜は、中目黒駅を境にその上流と下流では、全く趣きを異にする。

 今回は、川幅の広い下流域の桜花を舟から愛でる「水面目線の桜狩り」を紹介していくこととする。

目黒川とは・・・

 世田谷区三宿あたりで北沢川と烏山川が合流して目黒川となる。しかし、合流点から国道246号線の大橋までは暗きょ。ここから先、世の中に顔を出すと、この一帯が桜並木として有名となった場所である。狭い川幅の両岸に道路が敷かれ、洒落たお店が立ち並ぶ。そして、夜になるとライトアップされた桜を目当てに数多くの見物客がやって来る。満開の時期には、最寄りの中目黒駅はすし詰め状態となる。

 一方、中目黒駅を過ぎると川幅も広くなり、小型船が運航できるようになる。しかし、こちらの方に桜を求めて歩みを進める人は少ない。

洪水から町を守る荏原調整池
洪水から町を守る荏原調整池

 かつての暴れ川は、1957年の台風で氾濫。また、1989年には47haが浸水するという大きな被害を受けた。

 そのため、豪雨時に目黒川の水を地下に一時的に貯留する治水施設を設けている。「船入場調節池」(目黒区中目黒一丁目)と「荏原調節池」(品川区西五反田三丁目)である。クルーズ船は荏原調整池の横を航行する。しかし、護岸の高さを超える浸水があったとは、なかなか想像しがたい。

 そして、下流へ緩やかに蛇行しながら、五反田から大崎を経て、現在の天王洲付近で河口に出る。かつて、古代から中世まで武蔵国の品川湊と言われた場所である。

専用桟橋から出発すると・・・

ジール社専用桟橋
ジール社専用桟橋

 今回乗船させていただくのは、天王洲運河の新東海橋の袂に専用桟橋を持つジール・クルージングという会社だ。弊社ツーリズムメディアサービスの寄稿者にも名前を連ねる平野拓身さんが一代で作り上げた会社。そして、目黒川のさくらクルーズを最初に開発、商品化した会社だ。

 会社設立などのエピソードは、平野社長の寄稿をお読みいただきたい。

(平野社長の寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=18

(ジール・クルージングHP) https://www.zeal.ne.jp/

専用桟橋に戻るジール社クルーズ船
専用桟橋に戻るジール社クルーズ船

 さて、東京湾のクルーズ会社は、専用桟橋を持っている会社が少ない。交通至便な場所にある共同運用桟橋は、予定時刻にタッチアンドゴーで乗降しなければならない。これは、お客様にとって最大のデメリット。遅刻すると乗船できないということとなる。

 一方、ジール社は専用桟橋「ヤマツピア」を保有している。そのため、余裕を持って乗船できるということが最大のメリットだ。

 また、桟橋に隣接するビルには、直営の「キャプテンズワーフ」というレストランもあるため、乗船前後のパーティーやケータリングなどの対応も迅速にできることもお客様にとっては、うれしいメリットである。

 ここから、本日のさくらクルーズは出発する。

思いのほか、初めて知ることにびっくり!

橋梁の向う側は、桜花が盛り
橋梁の向う側は、桜花が盛り

 出航してほどなく、目黒川水門を潜る。既にここは目黒川の河口。アイル橋で結ばれた二つの公園には、数多くの桜が咲いている。そして、海岸通りに架かる昭和橋を抜けると、その両側には、クルーズ船を待ち侘びるかように桜花が目の前に広がってくる。

 次の名所は、荏原神社。南の天王と言われ、東海七福神の1社として恵比須を祀る社殿に架かる橋は朱塗りの鎮守橋。そして、まるで要塞のような京浜急行の新馬場駅を越える。舟はゆっくりと、東海道線や新幹線、山手線などの鉄橋の下を進んで行く。鉄道ファンにとっては、絶景と言えるであろう。川から電車を見上げるアングルは、舟からの目線の特権、とても素晴らしい。

歩行者がゆっくりと散歩する橋

フォルムが素敵な歩行者専用橋
フォルムが素敵な歩行者専用橋

 また、上流に向けて進んで行くと、思った以上に歩行者専用橋が多いことに気づく。橋の上には、船が行き来するタイミングに、カメラを向ける人や家族連れが手を振ってくれたりする。少し照れ臭いが、とても優雅で贅沢な時間だ。

 そして、途中に森永橋という橋がある。かつて、ここには森永製菓の工場があり、大崎駅から工場までを迂回せずに渡れるように造られたものだという。かつての工場地帯は、今ではSONYなどの大企業の高層ビルやマンションが立ち並ぶ新都心となっている。

 ふたたび山手線を潜ると、東急電鉄池上線や目黒線を抜け、折返点であるホテル雅叙園東京付近に到達した。

ソメイヨシノだけではない桜三昧

 見上げる桜は、その形や色が少しずつ違っている。同乗するガイドさんの説明に耳を傾けてみる。すると、数多くの品種の桜が植えられていることが分かる。

 ザ・桜といわれる「ソメイヨシノ」やソメイヨシノの原種「オオシマザクラ」などが多数咲いている。また、水面まで桜花が咲く「八重紅枝垂桜」や古木である「普賢象」、そして、遅咲きの「八重桜」と飽きることがない。早咲きから遅咲きまで、さくらクルーズの期間中を一日も長く運航できるように、桜も協力してくれているようだ。

その瞬間だけに見える景色

 今回の船は、夕暮れ時の運航。折返点では、ちょうど、西陽が右岸の桜をキラキラとさせていた。しかし、不思議なことに、その逆の護岸も金色に光り輝いていた。それは、雅叙園上層部の金色の壁面に陽が当たり、その色が反射し護岸に映っていたのだ。絶好のタイミング、この時間、この船だから見える景色である。

 自然は、時間毎に違う姿を見せてくれる。「光の入り方」「水面の動き」、そして、「動植物の息遣い」など。昼と夜でも違う顔となる。まさしく、一期一会だ。

リニア新幹線の土砂コンベア
リニア新幹線の土砂コンベア

 また、前日の大雨で、水面は花筏だと思っていたが、桜花は力強く、まだまだ木々から離れてはいなかった。

 帰路、道路でも歩道でもない橋梁が見えた。なにやら、ベルトコンベアで運んでいるようである。

 ガイドさんが、リニア新幹線の建築で掘った土砂を運ぶためのものと説明してくれた。

 乗船時間70分のショートクルーズ、まだまだ知らない発見がたくさんある、と再認識した旅となった。

将来に向けて、今後の課題は・・・

① 自然環境に左右される

 日本の桜のシーズンは、宿泊施設にとって、一番高単価になる時と言われている。これは、紅葉の時期に比べて、短期間であることに起因する。まさしく、プラチナチケットだ。

 しかし、開花から満開の時期が年によってずれるため、リスクを抱えることが少なくない。

 東京の昨年の開花は史上最速と言われた3月14日であった。しかし、今年は3月29日と平年よりも遅くなった。ツアー造成をする時には、このように遅くなるとは思いもしないこと。お客様も早めに予約した日をキャンセルして、新たな日を取り直すということもあったという。

 また、桜の木の寿命は50年から70年といわれる。そのため、戦後川沿いの土壌を強固にするために植えられた桜を伐採しなければならないという事情も発生している。保護整備していない桜は枯れ果てているところもある。愛でる桜がなくなってしまったら、ツアー自体が成立しない。

② 参入会社が飽和の状態

 ジール社は、さくらクルーズを昨年3艘だったものを4艘に増やした。現在、目黒川を運航する船会社は有に20社を超えるという。新規参入が容易であることは、価格競争やサービスの低下を招く。そのことによって、お客様の評価が低下し、事業の継続性が薄れていく。

 そして、開花などがずれると本来満席であったクルーズに閑古鳥が鳴き、事業会社の経営にも影響することとなる。今年、4月7日に終了する予定であったクルーズ船は、13日まで延長運航を余儀なくされた。

③ 共同運航へのチャレンジ

 このように乗船率の低い日程をいかに効率化するかが、大きな問題だと考える。多くの会社の乗船率が低いまま運航することは、運賃料金の高騰化にもつながる。当然、それだけの人員・労働力が必要になっている。

 他の地域ではあるが、好事例を一つ紹介しよう。

 沖縄の離島である八重山は、石垣島をハブとして、石垣港から西表島や竹富島などにフェリーが運航されている。ここには、5社程度の船会社が競合している。かつては、同時刻に数艘のフェリーが出発するという非効率な運航をしていた。その結果、経営を悪化させた会社も出現し、共同運航に踏み切った。今では、高い乗船率を誇り、サービスも向上している。

 目黒川においても、このような取り組みは充分に可能であると考える。

④ オフ期へのチャレンジ

 さくらクルーズが運航される品川区のこのエリアは、年末年始の時期に川沿いに人口の桜を咲かせるというイベントを開催している。真冬にピンクのライトアップ、桜を咲かせる「目黒川みんなのイルミネーション」というものだ。

 この時期にオープンエアの船は厳しいものもあるので、屋根のある船を中心に共同運航を行なってみたら、どうだろうか?

 お客様の満足度を高める取り組み、チャレンジしなければ、新たなことは生まれない。SDGsな取り組みが将来に向けて、最重要課題。

 ジール社、昨年、創業30年を迎えたという。今まさしく、リ・スタートの旬である。

 今年最後のさくらクルーズは、先週土曜日に運航された。また来年、新たなチャレンジ、素敵なコンテンツを見せていただきたい!

さくらクルーズ(パンフレット)
さくらクルーズ(パンフレット)
西陽が両岸に映える
西陽が両岸に映える(左岸は金色の反射光)

(最後に動画を!) https://www.facebook.com/100003463554819/videos/466086369188608

取材・撮影:2024年4月10日

(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8

取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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