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平成芭蕉の「令和の旅指南」① 「心のときめき」を感じ、「心の土産」を持ち帰る日本遺産の旅

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「心のときめき」を感じ、「心の土産」を持ち帰る日本遺産の旅

旅を住処とした松尾芭蕉と「平成芭蕉」こと黒田尚嗣

 私は旅を住処とした俳聖松尾芭蕉の生家に近い三重県伊賀市に生まれ、伊賀流忍者発祥の地で育ったことから、芭蕉の生き方に倣って、自らを「平成芭蕉」と自称し、今日まで旅一筋に生きてきました。

 今日まで日本全国、世界各地を巡り、まるでエンドレスの映画を観ているように、景色や人が絶え間なく変わり、飽きることのないドラマを体験してきたのです。そして感じたことは、旅は出会いの場であると同時に究極の学びであり、「旅行から人生が変わる」ことが多いということです。

 そこで私が思うに、人生を豊かにするためには大いに旅に出て多くの体験を住み重ねることです。たとえ明確な目的のない旅であっても道中での体験から何かが得られます。

「旅人は、自分の持っている以上のものは持ち帰れない」

 しかし、「旅人は、自分の持っている以上のものは持ち帰れない」とも言われており、事前の予備知識がなく、しかるべきテーマを持たずに旅に出ても、気付きや発見は少ないように思います。

 実際、私はこれまで世界各地を訪ねて多くの人と交流し、訪日観光客を迎えるインバウンド事業にも携わりましたが、日本人でありながら日本の歴史文化に対する知識が不十分で、相手国の文化的背景も知らなかったために、誤解を招くことが多々ありました。

 そこで世界を知り、日本という国を正しく理解するためには、自国の歴史文化を学び、テーマのある旅を通じて、旅先では物以外の「心の土産」を持ち帰って「日本人としてのプライド回復と真の国際人を目指すべきである」と痛感しました。

知恵を伴う旅「観光」

 また、人は生きる上において「心のときめき」が大切ですが、それは「知恵を伴う旅」を通じて得られます。旅の主目的である「観光」という言葉は、今から約3500年前の中国周時代の古典『易経』にあり、これは占いの指南書でした。その一節に「国の光を観る。もって王に賓たるに利あり。賓たらんことを尚(こいねがう)なり」とあり、つまり古代において「観光」は自国の未来を予見するための国王の仕事だったのです。

 そしてこの「国の光」とは、各地の自然環境やそこで営まれている人々の暮らしや伝統・文化を指し、これらに接することで王は心身共に豊かになり、王は新たな「国の光」を発することができたのです。

 すなわち、国の文化は,自然を背景とする村落や都市の景観,日常の生活様式,さらには文化の所産として芸術等に形として現れるものであり,それらを観察することによって,自国の文化の向上に役立てるのが「観光」本来の意味です。

 そこで、「観光」が大衆化した現代社会においても、旅は単なる物見遊山ではなく、各地の豊かな自然や伝統・文化に触れて何か新しい「知恵」を身につけるのが好ましいのです。

真実の歴史を追及して気付きの喜びを知る

日本遺産認定地「海女に出逢えるまち 鳥羽・志摩」

 そして、その指針となるのは、文化庁が認定する全国の「日本遺産」です。私が提案する日本遺産の旅は光っているところを観るだけでなく、この光輝く遺産がなぜっ光っているかを考察し、真実の歴史を追及して気付きの喜びを知る旅です。

 「日本遺産」とは、地域の文化財や歴史的特徴を活かして日本の文化・伝統を語る“ストーリー”を文化庁が認定するもので、今日では全国で104件が認定されています。日本各地には国宝をはじめとする多くの価値のある文化財が残っていますが、これまでは国の文化財保護政策が優先され、先祖伝来のものを大切にする反面、鑑賞するには不便な状態でした。

 しかし、「日本遺産」では、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の文化財群を、地域が主体となって地域創成のために総合的に整備・活用し、国内外にその魅力を戦略的に発信してくれているのです。

 すなわち、文化財は保護するだけでなく、積極的に活用する時代を迎えたのです。そこで、私は有志と共に「一般社団法人日本遺産普及協会」を設立し、日本遺産検定や日本遺産ナビゲーターと呼ばれるガイド育成事業を通じて日本遺産のブランド確立に尽力しています。

 人生は一度限りなので無限の可能性の中から1つしか生きることができません。よって私は別の土地で生きる別の自分のストーリーを思い描くために日本遺産の旅に出ています。

2023年2月13日「日本遺産の日シンポジウム」で経験談を語る

旅は一度の人生への抗議

 北村薫の著作『空飛ぶ馬』に「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議」という言葉がありますが、「小説」を「旅」に置き換えると旅も同様だと思います。

 すなわち旅は私にとっては、一度の人生への抗議として、憧れ、観察、発見そして創造活動なのです。言い換えれば、自分の生きてきた「物語」と旅先の「物語」とが織りなす新しい「物語」の創造です。そこで日本遺産のストーリーを訪ねる旅は、自分の「物語(ストーリー)」と対比させてこそ生きた旅になると思います。「物語」はたとえそれがフィクションであっても、設定された舞台が実際に存在する場合も多く、その舞台を訪れて主人公の気持ちを考えるのが旅の楽しみです。

 この連載では、私が体験した日本遺産のテーマ旅行からお勧めの旅をご紹介します。

寄稿者 平成芭蕉こと黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ)クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問/(一社)日本遺産普及協会代表監事

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