はじまりは、蔵王から
3年目を迎えた「音楽(おと)のある東北」、それは、ちょうど東日本大震災のあとのある日のこと。そして、「音楽で元気を取り戻そう」と密談(!?)が行われたのが蔵王でした。その場所に、また、夏の終わりに登ってきました。
冬になるとスキーリゾートとなる蔵王、スキー人口が激減した今、数多くの旅館やホテルが消滅していきました。しかし、山岳リゾートは冬だけでなく、夏もその魅力が満載です。そう、木々の緑が、人々の心を豊かにしてくれます。
今宵は、昨年に引き続き、尾崎亜美さんの登場です。
去年は加美町での青空の下、オープンエアのコンサートでした。一方、今年は定番となった「ジュピア」での室内空間です。
そして、震災後にリリースした新たなアルバムから曲をセレクトしていると聞きました。
とても楽しみです。
山の夕暮れは早い
福島から分かれる山形新幹線は、ミニ新幹線と言われます。それは、在来線を新幹線と同じ軌道幅を変えて運転しているらしいです。それ故、沿線には踏切もあり、スピードもゆっくりなので、窓の外の景色もしっかりと見ることができます。
僕はいわゆる鉄道ファンではないので、ミニ新幹線なのかはわかりませんが、つばさ号の乗り心地はとても良いものです。
そして、東北の名湯と言われる有名な上山温泉の辺りになると車窓の右側に蔵王の山々が広がります。下界が猛暑であっても山の登ると肌寒くもなります。また、山の特性で夕暮れも早くなります。
徐々に集まってくるお客さまも半袖にカーディガンやジャケットを羽織っています。さすが、地元の方々、日が陰ると一気に寒くなることを承知しているのです。
レクイエムのような宝石たち
東日本大震災は、誰もが生きることの意味や一瞬に消え去ったモノ・コトに対する虚しさを感じたと言われます。そのため、アーティストの皆さんも数多くが「大地震によって、心が奪われた」「自身が歌うことができなくなった」という話を聞くことがしばしば・・・
しかし、「歌で元気を取り戻すこと、皆に夢や希望を与えることが、私たちの使命」と、再びマイクを握った方が少なくありません。
亜美さんもその一人でした。新たなアルバムには、その思いがたくさん詰まっているのです。
スローバラードで始まったコンサートも中盤ともなると、震災を経験された方との会話の中から生まれた曲たちが披露されました。まるで、安息を求める宝石のようで、会場は山の夕暮れと一体となっていきました。
そして、ラストソングは「soup」
~♬ 世界で一番 大好きだった笑顔に
会いたくなれば 鍋をかきまぜる
溜め息も 悲しみも 消えますように
「お帰り」「ただ今」 声が聞きたくて 苦しいよ
まださよならが言えない ありがとうさえ・・・
・・・スープができたよ あなたのような スープができたよ ♪~
soup~尾崎亜美~
この曲は、亜美さんがある知人の死を受けて作ったものだと聞きました。突然の死に「私は何をできたか」と空しい気持ちになり、歌えない時期があったと言います。そして、震災後「何を私は言っているんだ」「悲しい思いをしている人はいっぱいいるんだ」と意識し、「今歌わなくていつ歌うんだ」と呪縛が解けたらしいです。
平静な一日が終わりを告げる。音楽が、今日も豊かな時間を共にすることができたならば、生きていることの素晴らしさを実感できるものです。その思いを綴った名曲で、幕は閉じられました。
やはり、音楽は元気を与えてくれる。そう思えるコンサートに触れ、次も良いコンサートを創っていきたいと感じる夜を迎えた。
(つづく)
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=33
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寄稿者 荒木伸泰(あらき・のぶやす) 株式会社キャピタルヴィレッジ 代表取締役