音楽のある東北シリーズは、東北6県各地を巡ってきた中で、さまざまな場所でコンサートが作られました。時には、重厚なレンガ造りの建物や古民家。また、青空の下、広いお庭やスキー場のゲレンデと、普段では叶うことがない場所も少なくありませんでした。
大衆娯楽は、芝居小屋から
そして、今回は、日本の大衆娯楽の原点とも言える芝居小屋がそのステージになります。2021年の東京オリンピック開催時に野球などの会場となったあずま球場、その運動公園内に移築された「旧広瀬座」という舞台があります。
移築前は福島県伊達郡梁川町(現伊達市)にあったもの。また、国の重要文化財に指定されています。
広瀬座は、1887年、広瀬川の近くに梁川町の町民有志によって建てられました。大正時代には、町の映画館としての役割も担っていました。そして、戦時中は軍需工場にも使われていたようです。一方、1986年8月5日の水害では広瀬川が氾濫し、広瀬座は床上浸水の被害を受けます。その後、広瀬川の河川改修計画に伴い、閉館するか移築するかの岐路に迫られました。
そして、保存運動の結果、福島市に移築されることが決まりました。1991年に広瀬川河畔で解体。1994年に福島市郊外のここ福島市民家園に復元されました。福島駅から土湯温泉に向かう荒川沿い、明治初期にさかのぼるような不思議な空間に建っています。
木造平屋建、舞台中央の廻り舞台や奈落、花道といった舞台装置や桟敷席などが備えられています。そして、裏手は楽屋になっています。また、和風の外観ですが小屋組みは建築当時の流行であった洋風の真束組みが採用されています。香川県琴平町の旧金毘羅大芝居を参考にした建物らしいです。
オリンピックとの兼ね合い・・・イベント創造
2013年、東京オリンピックの開催が決まりました。東日本大震災の復興支援も兼ねる大会として招致しました。そのため、東北地方での競技を開催することとなっていました。特に、福島県は当初から競技会場を模索していました。その結果、復活実施されるソフトボールと野球の会場として、あずま球場が選ばれたわけです。
また、オリンピックが開催されるまでの期間、競技場や都市を最大限アピールすることを求められます。そのため、このコンサートをご一緒している旅行会社の方々も球場を活用していました。2015年と2017年の2回、イベント花火を実施しています。昨今流行りである音楽に合わせて花火を上げる(ミュージック花火)ものです。
そして、2020年放送のNHK連続テレビ小説『エール』では、主人公が広瀬座の舞台で演奏会をするという姿も放映されています。旧広瀬座もオリンピックレガシーの一つに数えられているのです。
懐かしい曲がキラキラと・・・
舞台の中央には、緑の木々を描いた日本画が客席に向かった威風を放っています。そこから前方にスポットライトが宇崎竜童さんの背中を照らしています。昨年に引き続き、竜童さんが、今宵のコンサートマスターです。そして、ガットギター1本で、コンサートがスタートしました。
去年の郡山でのコンサートは、山口百恵さんの歌が各所にちりばめられていました。また、セルフカバーして、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの時代の曲も聞くことができました。しかし、今年は、舞台は芝居小屋。スローバラードが似合う雰囲気です。しっとりと語りかけるように歌う姿が想像できます。
客席には、西陽が木々の隙間からこぼれ、お客さまの顔をオレンジ色に染めています。しかし、聴き惚れている間に陽は落ち、漆黒の空間に変わっていきました。
今年は、セットリストも順調に進んでいるようです。
数人で構成されるバンドが奏でるロック調の曲は、エネルギーが会場全体に伝わってきます。しかし、ギター1本で、同じ曲を歌い上げると、どんどんと、その歌の中に入り込んでいきます。かつてのCMソング、ダウンタウン9枚目のシングル「サクセス」、竜童さんのしゃがれた声を聴けば聴くほど、時代がフラッシュバックしていきます。
~♬ ブラインド一杯 開けた部屋には 真夏の光が渦巻いている
~サクセス~宇崎竜童
角氷ひとつの涼しさに似た あなたの言葉が優しく溶ける
「待たせたね 廻り道だと笑うだろうか」
ここまで来たら サクセス サクセス
女は昨日の顔で待つ ♪~
ハプニング放送が・・・
あっという間の時間が過ぎ、館内が静寂に戻ると、外から放送が・・・「クマが出没しました。くれぐれもご注意ください」・・・と。終わったばかり最高潮の興奮が、一気に恐怖と緊張に変わった瞬間を味わったのでした。
そそくさと身支度をして、福島駅まで竜童さんをお送りしました。僕も今日は最終の新幹線で東京に戻らねばなりません。打ち上げは、いつものメンバーで福島名物のホルモン焼きと餃子。路地裏の飲み屋横丁の一角に、福島を代表するお店がありました。まさしく、迷宮のような場所です。
ニンニクの匂いをさせながら、新幹線に乗った瞬間に爆睡。周りにどれだけ迷惑をかけたか、眠りについていたので、わからず仕舞です。これもコンサートを作り上げたご褒美ですね。
(つづく)
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=33
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寄稿者 荒木伸泰(あらき・のぶやす) 株式会社キャピタルヴィレッジ 代表取締役