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日本遺産「北前船」に3自治体が加わる 北海道・釧路での北前船寄港地フォーラム前夜祭に380人が参加

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 江戸時代から明治時代の交易を担った北前船の寄港地が交流する「第34回北前船寄港地フォーラムin ひがし北海道・くしろ」、 “地域間交流拡大”を強力に推し進め、地域の活性化に向けた課題解決に取り組む「第5回地域連携研究所大会」の前夜祭が6月29日、北海道釧路市の釧路市観光国際交流センターで開かれた。自治体や企業で構成する北前船交流拡大機構と、兄弟法人である地域連携研究所が主催し、道東では初開催となった。全国から自治体や観光関係者、EU各国の大使館関係者ら約380人が出席した。前夜祭では、文化庁が日本遺産の認定ストーリー「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落」の新たな構成自治体として、新潟県村上市、福井県美浜町、岡山県岡山市の3市町を発表し、認定証を授与。構成自治体は、計52自治体となった。実行委員長である北海道釧路市の蝦名大也市長は、「ひがし北海道は、北前船で全国各地に運ばれた昆布や魚肥などの出発地であり、『富の淵源』である。昆布をはじめとした食文化や地域の魅力の発信、北前船とゆかりのある地域間の連携を深めながら、それぞれの発展に寄与したい」と来訪者を歓迎した。参加者は、釧路や根室のグルメなどを楽しみながら、北前船を契機につながった絆や、地域の歴史・文化を語りながら交流した。

地域振興の活動に貢献した人たちに花束が贈呈された

 北前船は、江戸時代から明治時代にかけて、大阪から下関を経て北海道に至る「西廻り」航路に従事した日本海側に船籍を持つ海運船。食文化や民謡、織物などの文化を運ぶなど、各地域の文化の形成に影響を与えた。会場となる釧路・根室地域からは昆布や魚肥などが全国に運ばれている。フォーラムは、2007年から開かれている。

 前夜祭の前には、釧路町産の15メートルのサオマエコンブを使ったテープカット「コンブカット」が行われ、26人がハサミを入れた。昆布を用意した北海道釧路町の小松茂町長は「恒例となったコンブカットだが、昆布は地元の棹前昆布を使用し、長い時は20メートルにまで成長する」と紹介した。また、コンブカットではゲストとして東京オリンピック金メダリストの水谷準さん、ボクシングでWBAスーパーバンダム級チャンピオンだった佐藤修さんらが出席した。

文化庁が日本遺産の認定地として新たに3市町に認定証を授与

 前夜祭の開会式の冒頭、北前船交流拡大機構・地域連携研究所の濵田健一郎理事長が「道東は、最後の残された日本の観光地である。フォーラムを通じて議論を戦わせ、交流を深めて道東の発展につなげていきたい」とあいさつ。北前船日本遺産推進協議会会長で石川県加賀市の宮元陸市長は「1月1日に発生した能登半島地震では大きな被害があり、関連死を含めて熊本地震を上回るものとなった。だが、われわれには震災を繰り返し経験しながら進む知識がある。これからは、地域活性化はもとより、歴史や文化、地域に住む日本人としての誇りをかきたてていく取り組みを共に行っていきたい」と震災の経験をもとに、前を向いて進む決意を述べた。

北前船交流拡大機構・地域連携研究所の濵田健一郎理事長
北前船日本遺産推進協議会会長で石川県加賀市の宮元陸市長
北海道釧路市の蝦名大也市長など受け入れ側の道東関係者が登壇し、全国からの来訪に謝意を述べた

 来賓からは、前観光庁長官の和田浩一氏が「日本は人口減少を迎え、伝統工芸品の伝承が難しくなっている。交流の拡大が大変重要な意義を持つ」とあいさつ。前ハンガリー大使でTDKのパラノビチ・ノルバート広報グループゼネラルマネージャーが「北海道では、十勝ヒルズでハンガリー料理にマンガリッツァ豚の料理が提供されているなど、北海道とハンガリーにはつながりがある。ハンガリー、TDKは引き続き日本の地域に貢献していく」と宣言した。アルザス欧州・日本学研究所(CEEJA)のヴィルジニー・フェルモーディレクターが「われわれとは、2022年にアルザスで地域連携について覚書を交わした。欧州では備前焼の紹介などを行っているが、さまざまな取り組みを皆さまと共に進めていきたい」と呼び掛けた。

前観光庁長官の和田浩一氏
前ハンガリー大使でTDKのパラノビチ・ノルバート広報グループゼネラルマネージャー
アルザス欧州・日本学研究所(CEEJA)のヴィルジニー・フェルモーディレクター
アルザス欧州・日本学研究所(CEEJA)のヴィルジニー・フェルモーディレクター

 開会式では、日本遺産~北前船寄港地・船主集落~の追加認定が行われ、文化庁の合田哲雄次長から新潟県村上市、福井県美浜町、岡山県岡山市の3市町の首長や商工会議所会頭に認定証が授与された。合田次長は「北前船寄港地船主集落は、2017年に11の市町でスタートしたが、このたびの3つの自治体は過日に審査委員会で承認された。52の構成自治体、445件の構成文化財を持つこのコミュニティは日本遺産最大規模となる。日本遺産を先導してもらいたい」と評価した。また、祝いの言葉として、衆議院文部科学委員会理事である浮島智子衆議院議員は「数多くの自治体から成る北前船の連携だが、最初は自治体の多さに不安があったが、実際に関係者に会うと、その団結はどの日本遺産にも負けないものだった。地域の子どもたちに地元の日本遺産を知らせていくと共に、北前船の歴史、文化を日本、世界の人たちに知ってもらえるよう全力を尽くす」と支援を約束した。

文化庁の合田哲雄次長
認定証を受け取った新潟県村上市、福井県美浜町、岡山県岡山市の首長ら
関係者を祝った衆議院文部科学委員会理事である浮島智子衆議院議員

 また、大会記念オブジェとして、1980万円をかけて製作された金のシマフクロウが披露された。金の製造や販売などを行い、オブジェを提供したSGCの土屋豊会長は「製作には8カ月かかったが、私が今までに見た中で一番大きい。シマフクロウは縁起が良いと言われており、地域の守り神となる」と語った。

黄金のシマフクロウについて説明するSGCの土屋豊会長

鏡開きでは63人が登壇し、繁栄誓う

 交流会では、北前船交流拡大機構の浜名正勝参与が道内、北前船交流拡大機構・地域連携研究所の浅見茂専務理事が参加者を紹介。鏡開きでは63人が登壇し、北前船日本遺産推進協議会に参画する広島県尾道市の平谷祐宏市長が「北前船にはロマン、繁栄がある。地域、企業と共にここから繁栄を始めたい」と乾杯の発声をした。

参加者を紹介する北前船交流拡大機構・地域連携研究所の浅見茂専務理事
鏡開きには63人が参加

 交流会では、釧路短期大学臨床栄養学ゼミの学生が考案した「ブリのネギ昆布ソース」やエゾ鹿カレーのほか、釧路名物である勝手丼や地元で人気のスイーツなどが振る舞われた。

釧路短期大学臨床栄養学ゼミ生

 また、特別来賓ゲストとして、日本相撲協会の鳴門部屋親方(元大関 琴欧州)、ジャーナリストの井上公造氏、歌手の堀内孝雄氏が来場。堀内氏は前夜祭を祝い、2曲を披露した。

堀内孝雄氏

夕日を望みながら協力誓う関係者

 会場では、会場の外に出て夕陽を観賞する「世界三大夕日パーティー」が行われた。釧路市は、インドネシアのバリ島、フィリピンのマニラと共に「世界三大夕日」と言われている。パーディーでは、駐日ブルガリア共和国のマリエタ・アラバジエヴァ大使が「釧路の風景は、緑が多くブルガリアに似ている。ブルガリアも北海道も農業が盛んであり、ほぼ同じ緯度にある。ブルガリアと言えば、ヨーグルトとポトフを想像するかもしれないが、日本とブルガリアの交流は今年で115年になる。シルクロードの先にもブルガリアがあり、遠い昔から交流があったと言える。両国の協力を強化していきたい」とあいさつした。

駐日ブルガリア共和国のマリエタ・アラバジエヴァ大使

 北前船寄港地フォーラム・地域連携研究所大会inひがし北海道くしろ大会顧問である横山信一参議院議員は、「人口減少社会の中、地域文化の担い手が少なくなっており、この課題の解消は急務だ。一方、伝統工芸品に関する取り組みは加速している。昨年12月には参議院本会議、今年3月には予算員会で岸田文雄総理に伝統工芸品の販売促進に向けた質問をしたところ、積極的に進めようという言葉をもらった。跡見学園女子大学の篠原靖准教授が提唱する『KOUGEIツーリズム』を形にしてインバウンドや富裕層を取り組む流れを作ること、北前船の縁を活かしたプラットフォームづくりなどをしながら、地域振興に貢献していきたい」と述べた。今後に向けて必要なこととして、①工芸文化が根付くヨーロッパに売り込むなど販路の拡大②伝統工芸品を後押しをする支援制度・体制③農林水産物と一体となった輸出戦略—などを挙げた。

横山信一参議院議員

 日本航空の林浩一執行役員北海道支社長は「北前船と北海道には何百年にもわたるつながりがある。われわれも飛行機を運航することを通じて、人と文化、そして心と友情を結んでいきたい」と語った。

日本航空の林浩一執行役員北海道支社長

 東日本旅客鉄道の中川晴美常務取締役マーケティング本部長は「飛行機から見える釧路の夕陽は素晴らしかった。日本では、まだ発掘されていない地域の良いところがたくさん眠っている。北前船に関わる多くの方たちと共に、われわれは東日本エリアのネットワークや首都圏の販売網などを使いながら地域を元気にしていきたい」と述べた。

東日本旅客鉄道の中川晴美常務取締役マーケティング本部長

 ANA総合研究所の功刀秀記社長は「さらなる交流、理解を深めることが、点が線になり面になる。前日にはエクスカーションを行い、飛行機とJR、バスを組み合わせたが、これは現代の北前船である。われわれとしても、皆さまのさらなる手伝いをできるよう尽力していく」と話した。

ANA総合研究所の功刀秀記社長

 閉会においては、北海道根室市の石垣雅敏市長が「日本最北端の町から来た。6月は、初日の出が3時40分と早く、太陽から一番近い地である。北方領土が近く、いろいろと解決すべき問題もあるが、これからも先人の思いを共有しながら共に歩んでいきたい」と閉めた。

北海道根室市の石垣雅敏市長

取材 ツーリズムメディアサービス編集部

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