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北前船の文化継承に新たな波、地域活性化に向け伝統に裏打ちされた「食文化」「伝統工芸」を世界に|北前船交流拡大機構 浅見茂専務理事インタビュー

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 江戸時代から明治時代の交易を担った北前船の寄港地が交流する「第34回北前船寄港地フォーラムin ひがし北海道・くしろ」、 “地域間交流拡大”を強力に推し進め、地域の活性化に向けた課題解決に取り組む「第5回地域連携研究所大会」が2024年6月30日に開かれた。北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事に、北海道・釧路でのフォーラム・大会への思いや今後の活動について聞いた。(取材は6月29日に北海道釧路市の釧路市観光国際交流センターで)

北前船交流拡大機構 浅見茂専務理事

――「第34回北前船寄港地フォーラムin ひがし北海道・くしろ」「第5回地域連携研究所大会」が北海道釧路で開かれることとなったが、開催の意義について伺いたい。

 第1回大会は2007年までさかのぼる。太平洋側に比べて日本海側はどちらかと言うと、人口減少が進み、産業が限られるなど元気がない。北前船が運航されていた時代には地域間交流が盛んに行われており、同じように交流を重ねて盛り上げていこうとフォーラムの開催を始めた。2018年5月には、海外での初開催を中国・大連で行うなど、回数を重ねて今日に至る。北海道では、日本海側での松前、函館、江刺、小樽・石狩に続く5回目となる。第1回から参加する人も多く、今では阿吽の呼吸で意思疎通が行われるようになった。われわれは、地域活性化の名の下、ただ単にイベントを開くだけでなく、地域の発展をもたらす新たな方向性を見い出している。

 今回の北海道・釧路大会は、2年前に開いたフランス・パリ大会で開催を発表していた。2023年8月には約20人で釧路に入り、そこから約1年をかけて準備をしてきた。観光庁は、新しい観光地づくりとして、富裕層を誘客できる商品開発、地域づくりに取り組んでいるが、われわれも国内外から誰もが訪れて喜んでもらえる地域作りを一番の目的としている。

 大会の前日には、エクスカーションを行った。中標津空港から釧路を目指すAコース、帯広空港から釧路を目指すBコース、女満別空港から釧路を目指すCコースの3つのコースを鉄道に乗りながら1日2日の行程で実施した。地元からは地方公共団体の首長や職員、観光関係者などが、本州からは国や鉄道や航空などを含めた観光に携わる企業・団体など、多くの関係者が集まった。言葉で伝えると1時間かかるぐらい、大いに盛り上がった。地元に根付くJR北海道は、経営状況が大変な中にあるが、鉄道を使った観光への可能性を伝えた。JRはジャパンレールを意味するが、地元に根付く「ジモトレール」であることを花咲線、根室本線、釧網線を走りながら説いた。

 今回の大会は、北前船の日本遺産ではない地である釧路・道東が舞台となったが、日本遺産の意味を改めて伝える内容が詰まっているものとなった。

――今回の大会は、地域が抱える課題解決に向けて地域連携を促し、皆で考えるきっかけになるのか。

 そうだ。多くの関係者が集まり、人間関係を築くことが、地域への再訪にもつながる。道東には、食文化やアドベンチャーツーリズムといった他地域にはない魅力がたくさんある。リピーターを増やすとともに、永続性があるものとして、地域の応援も継続して行っていく。

――今回の大会を通じて感じてもらいたいことは。

 まず、食文化だ。昆布を通じて地域の活性化、交流に貢献する。昆布が持つ影響力の大きさは、道東全体にまで広がっているが、大会を契機に全国へとつなげたい。

 2つ目は、「伝統的工芸品」について。経済産業大臣が指定する伝統的工芸品は日本全国に241品目あるが、西を代表する備前焼(岡山県備前市)と東を代表する曲げわっぱ(秋田県大館市)を、4月16~28日にはイタリア・ミラノで開かれた欧州三大家具見本市の一つ「ミラノフォーリサローネ」で発表した。日本で工芸展を行うと、竹製品や金属、木工、陶器、磁気など7つのジャンルに分かれるが、全部地方で制作されている。次は和紙や漆など、約1000年の歴史があり、魂が入った作品を、日本の存在感を示すためにも世界へと展開していく。

 また、元旦には能登半島地震が発生した。北陸の復興も併せて取り組んでいきたい。11月22、23日には北陸(石川県加賀市、福井県)で次の大会を開く予定だ。

 当面は、この3つを目標として取り組んでいく。

――改めて、日本遺産である北前船寄港地・船主集落の魅力について伺いたい。

 日本遺産は日本全国に104あるが、「波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」は、2017年4月28日に認定された。北前船寄港地・船主集落においては、これまでに49の自治体が認定されていたが、今回の大会で新潟県村上市、福井県美浜町、岡山県岡山市の3つの自治体が新たに加わる。大会の前夜祭には、文化庁の合田哲雄次長が自ら認定地に認定証を授与するなど、文化庁からは数ある日本遺産の中でも活発に活動している点でも評価していただいている。認定されている自治体により活動の濃淡はあるが、一生懸命に取り組んでいる自治体を先行事例として紹介しながら、全体のレベルを上げていきたい。この取り組みは、深めれば深めるほど、交流拡大に大きく結びついていく。

――今後において、北前船交流拡大機構、地域連携研究所はどこに焦点を当てて進んでいくのか。

 一つは、北前船を使い昆布を運んだ「昆布ロード」を生かすことだ。今回の大会では、昆布をテーマに和食へのつながりを伝える。和食のだしは昆布があってこそであり、和食がユネスコ世界文化遺産になっているが、昆布の価値を世界に向けて発信していく。この活動には、京都の和食料亭「菊乃井」の村田吉弘社長が中心として加わっており、フランスのVIPに向けた和食の提供などを行っている。今大会では、昆布商である奥井海生堂(福井県敦賀市)の奥井隆社長が登壇して「昆布と和食の素晴らしさ」を伝える。

 食による地域活性化は、伝統に裏打ちされた日本の「食文化」を改めて世界に発信する事が重要だ。生活文化が織りなす全国各地の個性あふれる「地域の食文化」、その裏側にあるストーリーを可視化し、ツーリズムの視点でも食の高度化を今まで以上に推進していく。跡見学園女子大学の篠原靖准教授が唱える伝統工芸での誘客を促進する「KOUGEIツーリズム」の展開も含め、誘客に向けたモデルが出来上がれば、全国の寄港地や地域連携研究所に参画する自治体にも声掛けしていく。

――中長期における取り組みについて。

 ただ取り組みを広めるだけでは地域の活性化にはつながらない。取り組みの結果として、大きな経済的な意味での価値が生じなければならない。その意味でも販路の開拓は必須となり、3、5年先をも射程に入れて、粘り強くやる以外ない。現実は、われわれと同じような考えのもと動いている人もいるが、光が当たっていない。われわれの組織を通じた取り組みは、結果として国からの支援といった動きに広がる可能性がある。皆さまが運動に携わり、船に乗って良かったと思える3、5年にしていきたい。

聞き手 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通

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