強すぎるマグネット
2019年の関西のインバウンドは1,300万人超。実態は、大阪市と京都市で8~9割でした。大阪は、屈指の経済都市。国際空港を擁し、いわゆるゴールデンルートの西端にあることから人々が集まります。他のエリアへのゲートウェイでもありました。他方、京都は、都市自体が目的地であり、人は止まりました。両都市は著しくにぎわっていましたが、それは同時に関西のインバウンドの課題でもありました。「ONE KANSAI」では、この2都市の強力な磁力を活かしつつ、集中と分散のバランスを実現しなければなりません。
消費財等を店舗で販売する流通ビジネスにおいては、売れ筋を店舗の奥に陳列し、扱う商品の棚を巡ってもらいながら奥へ奥へと誘引することが定石と聞きます。ところが、観光の場合、有名観光都市が入り口である場合が多い。そして、そこへのアクセスは概ね良く整備されている。というか、そのように交通ネットワークが整備されてきた歴史があります。宿泊施設も質・量ともに周辺都市を圧倒しています。強い磁場がまず玄関口として登場してしまいます。
規定演技とフリースタイル
ONE KANSAIは、これへのチャレンジです。まずは、大阪・京都に来ていただき、次いでプラス・ワンで地域へトリップを慫慂(しょうよう)する。そして、ゆくゆくは地域での宿泊に結び付け、関西での宿泊増(プラス・ワン・ナイト)を目指す。これが関西インバウンドの戦略の基本です。そのためには地域の磁場を磨き、つなげて磁力を高めて旅行者を誘引する必要があります。
その方策の柱の一つが、「広域観光ルート」。関西では、歴史・文化に共通の土壌がありストーリーが構築できる8本のルートの形成を進めています。いわば、広域観光の「規定演技」。一つのルートで関西を語れないところが「関西は一つ一つ」の表れでもあります。
そして、もう一つの柱がテーマツーリズム。これは言わば「フリースタイル」。「自然・文化・食」が、観光の3大テーマと言われます。山陰や南紀のジオパーク等の自然、関西に6つある世界文化遺産、寺社仏閣・霊場・お城などの歴史的遺産、伝統文化や伝統産業、豊かな食材・食文化、各所にあるアニメの聖地、サイクリングコース等々、スモールマスマーケットに訴求できるコンテンツが多彩で豊富。いろいろなツーリズムが創造できます。万博を見据えてのSDGsのツーリズム化、海や河川の活用の検討なども活発です。
この2つの柱で出来た旅行商品を、”THE EXCITING KANSAI”と銘打ってONE KANSAIの袋に入れて世界にアピールする。即ち「ルートとテーマで訴求する」ことが、ONE KANSAIの活動の基本です
The Origin of Japan
原点に戻るようですが、”KANSAI”とはどこを指すのかとよく問われます。そもそも関西の範囲を定義づけたものは見当たらないのですが、我々は2府8県のエリアの呼称として”KANSAI”を使っています。“KANSAI”という言葉の認知度は、東アジアではかなり高いのですが、東南アジアや欧米豪では、まだまだ。「関西空港の周辺」「大坂・京都の周辺エリア」との認識に止まる状況です。
2025大阪・関西万博のロゴをご覧になったことがあるでしょうか。”Osaka, Kansai, Japan”と表示されています。これだ。”Kyoto, Kansai”、”Nara, Kansai”、”Hyogo, Kansai”等々。関西各地のアピールの際には、併記していこう。そして、”KANSAI”を”The Origin of Japan”というメッセージを添えて伝えていこう。関西の関係者にお集まりいただき、昨年策定した「関西ツーリズムグランドデザイン2025」(https://kansai.or.jp/guideline.html)にこれらが明記されています。これからが本番です。
寄稿者 東井 芳隆(とうい・よしたか)(一財)関西観光本部 / 代表理事・専務理事