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観光業のシニア内定者の職種が多様化、企業やシニアへの影響は?

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 私たちが運営するシニア専門求人メディア「シニアジョブ」を使って観光業関連の内定を獲得したシニア求職者の傾向を調べたところ、内定を得た職種が多様になってきていることがわかった。このことは、観光関連のさまざまな仕事について、シニアの中途採用が盛んになってきていることの表れだと言えるだろうか。

 訪日観光客が増加する一方で、少子高齢化による人手不足が深刻になりつつある日本。当然、“シニアの手も借りたい”状況は理解できるものの、職種の垣根なくシニアを中途採用できるのか不安な観光業の方も多いかもしれない。

 今回はシニアの採用がさまざまな職種に急速拡大している観光業関連の現状について、私たちのサービスの調査結果や具体的な職種とその採用事例を紹介しながら解説する。

シニア専門求人サイトでの観光業での内定者傾向調査結果

 まず簡単に調査結果を振り返ろう。この調査は、2024年5月20日に「観光関連のシニア内定者の職種が多様化、フロントや旅行代理業の企画まで」と題したプレスリリースで私たちが公開したものだ。

 シニア専門求人メディア「シニアジョブ」における、2024年3、4月の内定者傾向調査の結果、観光業界でのシニアの就職活動において、内定獲得に至る職種の幅が広がったことがわかった。

 2023年はホテルレストランの調理業務への内定獲得にとどまっていたものが、2024年にはホテルフロント、旅行代理店の企画・営業、経理、ホテルの清掃など、多岐にわたる職種で内定獲得に至っている。内定者の平均年齢は57.9歳で、最高齢は73歳、平均求人応募件数は2.3件という結果が出ている。東日本に内定先企業が集中している点も特徴として挙げられる。

 この調査結果は観光業界のどのような現状を示しているのだろうか。また、この調査結果からどのような今後の観光業界の展望が思い描けるだろうか。単にプレスリリースをなぞっても仕方ないので、今回は、観光業界の企業や経営者の視点と、観光業界での就業を考えるシニア求職者の視点それぞれからの見え方を紹介したい。

観光業界の人手不足の解決策に?

 まず、観光業界の企業や経営者の視点で、今回の調査結果を考えてみよう。次のようなポイントで調査結果を捉えるのではないだろうか。

・シニア人材が人手不足の解決策となる可能性

・即戦力が確保できる期待感

・新たなサービスや顧客の開拓の可能性

・それぞれの健康や働き方に対応する必要性

 もちろん、これまでも観光業界の周辺ではシニアの活躍が見られた。しかし、シニアが活躍する職種はそこまで幅広く考えられていなかったのではないだろうか。

 今回の調査結果で、実際に様々な職種でシニアを採用した会社があることを知り、シニアの可能性を捉え直す企業もあるかもしれない。また、年齢幅についても73歳を中途採用した事例によって、より高い層まで対象として考えるようになるかもしれない。

 同様に、改めてシニアの「即戦力」という点が評価されるかもしれない。未経験の若手や海外人材に比べると、即戦力となる人材の割合が高く、教育コストが下がることがシニアの特徴である。コロナ禍からの回復や大阪万博の影響で人手不足が深刻化する観光業界では、採用から短い教育機関で最前線に上げられるシニア人材は求められやすいだろう。

 さらに、もしこれまでシニア層が活躍していなかった企業ならば、シニアを中途採用することで新たな視点や知見が得られ、同じシニア層の顧客開拓や新たなサービス開発につながる場合もありそうだ。旅行代理業の企画職やホテルフロント業務でのシニアの採用は、単純な人手不足解消だけでなく、こうした高い知見を求めたものである可能性がある。

 ただし、メリットだけでなく、新たに対応を考えなければならないこともある。調査結果で73歳が内定を得ているように、70代でも就業意欲があり、体力もスキルも申し分ない人材は増えている。しかし、60代以上になると若い世代よりも健康や体力の個人差が開いていくため、シニアを全員同じように扱うのではなく、個人それぞれに合わせた対応が必要になる。

シニアにチャンスが広がる? 粘り強い就活が必要?

 次に、観光業界への就職を考えるシニア求職者の視点からも今回の調査結果を見てみる。求職者側からは、次のようなポイントに注目が集まりそうだ。

・観光業界全体で幅広い職種にチャンス

・高い年齢でも挑戦が可能

・粘り強い就職活動が必要

・求人が活発なエリアの偏り

 まず、調査結果そのままに、幅広い職種でチャンスが生まれていることに期待が集まるだろう。観光業全体で就職のチャンスがあると捉えるシニアもいるだろうし、もともと観光業ではなかったシニアであっても、観光業ならば営業や経理の求人があるかもしれないと考えるシニアもいるかもしれない。

 また、やはり73歳の内定が出ていることに希望を感じるシニアも多そうだ。元気であることが前提とはいえ、元気であれば80代でも活躍し続ける時代となっているため、高い年齢を受け入れてくれる会社が実際にあるのか、気になるシニアが増えている。

 ただし、求人企業と同様に、シニア求職者の視点もポジティブなものばかりではない。調査結果では、内定者の平均求人応募件数は2.3件となっていて、1件のみの応募では内定が難しいことがわかっている。いわゆる“求人サイト”であるシニア専門求人メディア「シニアジョブ」では、キャリアドバイザーがサポートしてくれるわけではなく、シニア求職者自身で応募や選考を進める必要があるため、自身で根気強く就職活動を続ける必要がある。

 さらに、今回の調査結果では、観光業での内定が出ているエリアがすべて東日本だったことにも注意が必要だ。シニアジョブではこれを「大阪万博の影響により観光業に従事する若い人材が西日本方面に集中した結果、東日本での人手不足が強まったためではないか」と推測しているが、いずれにせよ求人はタイミングが重要で、小さい事業所では一度充足してしまえば次の求人はなかなか出ないため、運の要素もある。

 このように、観光業の求人企業の視点でも、シニア求職者の視点でもプラスの部分と懸念とがある今回のシニア専門求人メディア「シニアジョブ」の観光業シニア内定者傾向の調査結果が得られたが、いずれにしても観光業とシニア人材の親和性はこれまで以上に深まっていくだろう。今回の内容を参考に、観光業の方はシニア人材を、シニアの方は観光業での就業を、選択肢の一つに加えるのもよいのではないだろうか。

寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役

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