3年前の秋、NHKさんの取材の同行で、法師温泉にお邪魔したときのことです。本館から法師の湯に続く廊下に、新聞や書籍の並ぶ休憩コーナーがあります。そこで、ふと1冊の本に目が留まりました。「ほのぼの群馬 ルポ湯けむりの里」(朝日新聞前橋支局編)。しっかりとした装丁で、続編と2冊セットとなった書籍には、県内の名だたる温泉地で、大切に大切にお湯や地域を守りつづけて来られた方々のヒストリーが、写真とともに紹介されていました。
発刊は、今から約40年前。現在は、地域の重鎮である皆様方が、とても若々しく、そして、奮起されている姿やこれからの展望などを語られています。自分自身の年齢と重ねながら、まじまじと拝見いたしました。と、申しても束の間の待機時間です。懐かしさや往時の旅情を感じつつ、流し読みが精一杯で、後ろ髪を引かれる思いでその日は宿を後にしました。
後日、どうしてもその書籍を手に入れたくて、スマートフォンで検索します。しかしながら、古書の域に入る貴重な本は、どこにも見当たりません。
そうだ①
普段リリースなどで大変お世話になっている、編集元の利根沼田担当記者のEさんに聞いてみよう。早速、仕事でリリースした原稿の内容伝達にあわせて、ご相談です。「ふむふむ、では、本局に行く際に確認してみましょう。」なんと、心強いお言葉を頂きました。
そうだ②
自分自身のフェイスブックで尋ねてみよう。早速、書籍の写真とともに投稿です。「ほにゃらら…、ほにゃらら…」前置きはさておき、一番の趣旨は、手に入れて熟読したい一心です。「…お譲りいただける方は、コメントお願いします」わかりやすい。
投稿したとたん、日頃大変お世話になっている、猿ヶ京温泉のM社長さんから、コメントが入っているではありませんか。「私、持っていますので、お譲りいたします。喜んで、差し上げます」舞い上がる気持ちを抑えつつ、いやぁ、フェイスブック、現代の英知、使ってみるもんだなぁ、と一人で感心します。事務所に出勤してみると、なんと、机上に待望の書籍があるではないですか。M社長さんがわざわざお届けくださったのです。嬉しい、ありがたい、感謝の気持ちでいっぱいです。
そんな折、利根沼田担当記者のEさんから携帯に着信が。「例の書籍、ありましたよ!ただし、続編だけでした」お忙しい合間を縫って、出版元の煥乎堂さんにお出向き下さり、店員さんが倉庫の奥底を探して見つけてくれた1冊の在庫を、わざわざご購入くださり、連絡をくださったのです。
さらに続きます。書籍にもご登場されている、観光協会の元専務Sさんとお打ち合わせした時です。何気なく、書籍の話を持ち出したところ、書棚から取り出され、「差し上げます」とのお言葉。「そういえば、当時、取材した記者のお一人が温泉街の居酒屋さんによく来るよ、せっかくだから、居酒屋さんに献本されたら」のご依頼。かしこまりました、とあとにします。
私は、夜な夜なこの本を読み進める中で、想像も含めた、古き良き時代の雰囲気を感じとることができたことから、旅は活字と相性が良いなぁ、とつくづく実感しました。そして、今では成し得ない推測ばかりを脳裏に挙げて、うらやましく思いながら、少し言い訳じみた気持ちになっていました。
そこで、はたと気づいたのです。
自分が今回体感したこれらのことは、「旅情」の大きな要因となる「人情」そのものであり、観光地として脈々と受け継がれてきたこの人情は、以前となんら変わっておらず、変わっていたのは、自分の受け止め方や考え方だけだったのではないか、ということです。
観光に携わる自分自身が、みなかみ町はどんな観光地であり、どのような形でお客様に伝えることができるのか、これは、自分が観光地での日々の生活を楽しむことができなければ、お客様にはこの良さは伝わらない。例えば、清らかな利根川、その時々でしか見ることができない、日々移ろう山々の景色、おいしいお米…。日々の生活で、忙しさを理由に、地域の誇れることが見えなくなっていないか、前向きに楽しんでいるか、大切なことを見失っていないか、普段からそう問いただすことの大切さを、今回頂いた人情を振り返って気づいたのでした。
また、往時と比較すれば、交通インフラの整備により、地域間の移動が格段にスムーズになり、物理的にとても近くなりました。あわせて、SNSの発展により、瞬時に世界中の人々とつながることができるようになり、その様な意味では、人と人との距離感もとても近くなったと思います。
インバウンドのお客様も、国の施策やワクチン等の拡充により、徐々に増えてくることも視野に入れながら、地域としての、主軸を持って、リフレッシュしたいときには、温泉と心温まる人とのふれあいを両輪に、みなかみ町を選んで頂けるよう、地域が一丸となれるための準備が何か、を見つめて進んでいきたいと考えております。
「FIND YOUR OASIS」今度のお休みには、ぜひあなただけのオアシスを見つけに、みなかみ町・「みなかみ18湯」にお出かけください。心よりお待ち申し上げております。
寄稿者 木村崇利(きむら・たかとし) (一社)みなかみ町観光協会