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ボーダフル・ジャパン 男はつらいよ~映画界の宮本常一?

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リリーの家の周辺
奄美・加計呂麻島リリーの家の周辺

 日本で旅を語る古典的な映画とは言えば、これ。テキ屋「フーテンの寅」こと渥美清が、全国を巡り、旅先で出会った女性(マドンナ)と好いた惚れたを繰り返す活劇シリーズ。当時、新進気鋭の山田洋二が監督を務め、1969年から26年にわたり、松竹の看板映画となり、全48話を制作(特別編を除く)。国民的人気を得た娯楽大作である。

 私は行ったことがないが、寅さんの故郷、柴又には銅像もある。

映画の中に、日本の旅をいざなう

 国民が気軽に全国を旅ができなかった当時(当初、沖縄もまだ返還されていなかった)、日本各地を津々浦々、転々とする寅さんは、まさに風来坊。いや、日本をくまなく歩いた民俗学者・宮本常一すら彷彿させる。私たちは映画館で旅気分。そして、女性にもてるが純情。ほとんどの恋が片思い。濡れ場などあるはずもなく、お年寄りから子供まで安心して一家で楽しめた。後に「北の国から」でブレイクする吉岡秀隆が「男はつらいよ」で成長していく姿も興味深い(「北の国から」は1983年からスタートするので、10年くらい、彼は両作品にでていたことになる)。

加計呂麻へは大島から船でいく
加計呂麻へは大島から船でいく

 シリーズが始まったころは、関西あたりのロケが多かったが、3作目で鹿児島の種子島、6作目で長崎の五島(福江島)、20作目は平戸島、27作目は対馬、35作目は上五島。当時の島の様子を撮った動画は資料としても価値が高い。山田監督は島が好きだったのだろう。最終作48作目の舞台は鹿児島・奄美の加計呂麻島。

奄美は、その故郷のような場所

 吉岡が後藤久美子と愛を語り、たわむれたビーチ(徳浜)は観光地となっている。そして、マドンナのなかでただ一人(?)、寅次郎と相思相愛であったと思われる、リリーさん(浅丘ルリ子、4作も登場)と寅次郎が一緒に暮らす「リリーの家」(諸鈍)もこの近くだ。

吉岡と後藤がたわむれたビーチ
吉岡と後藤がたわむれたビーチ

 山田監督はこの島を「第二の故郷」として愛したと言われ、山田組はよく島に集まり、「宴会」をしていたという話も現地で聞いた。

 全国どこにでも現れる寅さんだが、九州で生まれ、北海道に暮らす私も、そのフットワークには驚く(以下の数字は作数)。

 九州では、由布院(4、30)、阿蘇、大分・高塚山(12)、唐津(14)、熊本・田の原(21)、福岡・秋月、鳥栖(28)、鉄輪(30)、枕崎、指宿(34)、天草(35)、筑豊(37)、島原(40)、佐賀(42)、日田(43)、油津(45)、雲仙(47)。北海道は、札幌、小樽(5他)、網走(11)、函館、長万部(15)、支笏湖(23、31)、奥尻(26)、釧路、根室他(33)、斜里(38)などなど(ウィキペディアより)。

リリーの家
リリーの家

 これは一例に過ぎない。

 土曜日の夜、BSで再放送をやっており、いま見ても楽しい。みなさんも今宵、寅次郎と一緒に旅をしてみてはいかが? そして、寅さんを訪ねて奄美に行こう!

リリーの家、泊まれます

https://www.amami-tourism.org/magazine/5824/

奄美のお供にこの一冊

知られざる境界のしま・奄美(ブックレット・ボーダーズNo.8)
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(これまでの寄稿は、こちらから)

 https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=20

寄稿者 岩下明裕(いわした・あきひろ)

    北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授

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