岡山県備前市はこのほど、4月16~28日にイタリア・ミラノで開かれた欧州三大家具見本市の一つ「ミラノサローネ」の中で最大級の展示会「フォーリサローネ」での出展報告会を同市内で開いた。報告会には4人の備前焼作家が登壇するほか、伝統工芸品の欧州展開を支援するEU日本政府代表部の二宮悦郎参事官がオンラインで参加。「多くの人が備前焼に興味を持った」「価値のある布石を打てた。どんどん備前焼作家の思いのある作品を海外の人に見い出してもらいたい」といった意見が述べられた。今後、9月にはフランスで備前焼をPRする予定。
今回の出展は、備前焼をアート作品として海外に売り出す第一歩として、同市が企画。ミラノフォーリサローネの会場では、現代的なデザインなどで知られる備前焼作家10人の作品を出展し、現地でPRやミラノ大学の学生との交流などを行った。
報告会に参加した作家は、展示した作品を披露するほか、多くの観客の反応が良かったことといった現地での反響、備前焼を盛り上げていきたいという熱意を述べた。
伝統工芸品の販路拡大へPriceを上げてビジネスサイズの確保を
会場では伝統工芸品の欧州展開を支援するEU日本政府代表部の二宮悦郎参事官が、富裕層ビジネスとしての欧州展開について語った。
備前焼を取り巻く外部環境について、二宮参事官は備前市において2020年から30年間で子どもを産む中心の世代となる20歳から39歳までの若年女性の減少率が50%以上(備前市は62.7%)となる「消滅可能性」自治体であることを説明。伝統的工芸品の生産額においても、平成10年には2,784億円だったが、令和2年では870億円(出典:伝統的工芸品産業振興協会)となり、従業員数も比例して縮小傾向であることに警鐘を鳴らした。
伝統工芸品の現状については、ミラノフォーリサローネでの備前焼展示を担った喜多俊之デザイナーによる「伝統工芸品の終わりが始まっている」という言葉を紹介しながら、日本には富裕層が少なく日本人がアートを買わないこと、プライベートバンクがないこと、アート市場やアートギャラリーが小さいこと、世界のアート市場に打って出れなく目詰まりとなっていることを指摘。一方、世界では現代アート市場は活発であることを紹介し、現代アート市場の30%を占める欧州では、歴史や背後にあるストーリーに価値を見出す傾向が高いこと、作品類型として造形的な陶芸は市場の13%を占める彫刻と同等の評価を受けていることを明らかにした。
伝統工芸品の販路拡大に向けて、二宮参事官は「伝統工芸品の販路拡大にはPriceを上げてビジネスサイズを確保する必要がある。文化はビジネスになる」と、来場者に呼び掛けた
ミラノフォーリサローネでの展示については、地方が直接世界に打って出る「行動」や、有名雑誌などでの掲載による知名度アップ、作家の創作意欲を刺激して世界のアート市場を意識するマインドチェンジ、欧州アートギャラリーとのビジネスマッチング、すでに欧州で展開している異業種の先行者との連携開始などで効果があったことを評価した。留意点としては、世界ではほぼ無名な伝統工芸品を1階の展示で売れるようになるとは思ってはいけないことを挙げた。
このほか、県を越えて広域で多くの自治体と連携して地方創生に取り組む「北前船交流拡大機構」(23道府県122自治体、民間企業48社が参画)の紹介などを行った。