魅力的な観光コンテンツを抱える東京23区の観光戦略・戦術を第一線で活躍する担当者に聞くシリーズ。台東区の続編をお届けする。前回に続き、同区文化産業観光部・観光課長の横倉亨さんと同課観光担当係長の江畑州恒さんが中・長期的な展望を語ってくれた。
――前回は観光の持続的発展に関連し、「回遊性の向上」や「ナイトタイムツーリズム」といった、エリア分散や時間分散で持続発展につなげるということでしたね。
昨年12月に花街のマナーやルールを学ぶ講習を行いました。観光の水先案内人である通訳案内士を対象に実施し、外国人富裕層に対し、日本文化を伝えたいと考えたからです。これは100%満足という評価をいただいています。
台東区は元々、有形、無形の文化的な資源が豊富です。こうした資源を観光という切り口で高付加価値化して、地域が自立できるようにして持続的発展につなげようと考えています。
旅のプロの目線で区内の資源を観光商品化、銭湯や職人さんの工房
――具体的にはどのような文化的資源があるのでしょうか。それをどのように商品化していくのですか。
クラブツーリズムさんと連携協定を結び、旅のプロの目線を借りて旅行商品化を実施しています。今まであまり観光という点では考えてこなかった銭湯。区内に点在している銭湯を撮影するツアーです。また、台東区は物作りの街です。職人さんの工房は見世物ではないけれど、これもお願いして物作りの裏側をのぞかせもらい写真に収める。そのほか地域には、仏壇・仏具やおもちゃ、かっぱ橋の調理用品、御徒町の宝石・宝飾品など多彩な商店街があります。旅行商品を通じて、少しでも地域の歴史的な背景や成り立ちを知ってもらえたらと思います。
また先に述べた職人さんは、SDGs (持続可能な開発目標)にもかなっています。自分が作った物は壊れたら直す。材料をムダにしない。こうしたモノづくりの精神をツアーや教育旅行で勉強して帰ってほしいですね。
大河ドラマ「べらぼう」の舞台、吉原の歴史を知るツアー
――盛りだくさん内容ですね。写真撮影、映えスポットを紹介するという着眼点が面白いです。そのほかにタイムリーな話題はありますか。
2025年のNHKの大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は舞台の一つである吉原が区内に位置しています。クラブツーリズムとの協定で最初に作ったのが、吉原の歴史を回るツアーです。大河ドラマの放送決定に合わせて、他の旅行会社からもツアー造成を希望する声がありましたので、地元の商店会や関係者の協力のもと、FAMトリップを実施しました。FAMトリップの中では、街歩きの際の注意点や、地域への配慮の遵守などを参加者には求め、地域と共存を強く意識した事業としています。
レスポンシブツーリズムを目指し、観光産業の成熟を
――最後に中長期的な見通しについて聞かせてください。
区民生活と調和のとれた観光振興が大切だと考えます。ハワイ州観光局がコロナ以前より掲げるレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)は一つのモデルケースだと考えます。観光客もツーリズムを構成する要素であると捉え、観光客が訪問地に敬意を払い、意識や行動に責任を持つことで、より良い観光地形成を行っていこうという考え方は、理想論ではありますが、持続可能な観光という観点から、観光業界全体で取り組むべき課題であると考えます。(銭湯の画像は台東区提供)