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都会の町に炭坑節が流れる~ツーウェイツーリズムは、これからの広域連携の根幹~

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 9月最初の三連休の中日15日、荒川区日暮里駅前のイベント広場で、10回目となる「にっぽり炭坑節まつり」が行われた。コロナ禍の影響で、2019年以来、5年ぶりの開催となった。

炭坑節を説明するひと時
炭坑節を説明するひと時

 炭坑節は、「月が出た出た 月が出た」のフレーズでおなじみだ。筑豊の炭坑町である福岡県田川市が発祥の地とされる。この祭りは、田川市を舞台とする映画を撮影した区内在住プロデューサー須藤為五郎さんが始めたものだ。民間主導で始まった地域間交流である。10回目となる節目、西川太一郎・荒川区長や村上卓哉・田川市長も来賓として参列された。午後と夕刻の盆踊りの時刻となると数多くの方々が踊りに興じていた。

村上田川市長と須藤プロデューサー
村上田川市長と須藤プロデューサー

人と人とのつながりによって生まれたイベント

 民間や自治体の地域間交流(姉妹都市)は、共通の自然環境や地域の物産品などから始まることが少なくない。しかし、この炭坑節まつりは、人と人とのつながりによって生まれた。これまで交流のなかった二つの町に芽生えた交流事業である。この交流を一過性のもので終わらせずに、将来に渡って継続させることが、両者にとって重要なことである。そして、そのための一つの手法が、ツーウェイツーリズム(相互交流人口の拡大)である。

 東京23区の周辺部は、中小企業が寄り集まって、より緻密な産業を作り上げてきた。荒川区も例外ではなく、工場誘致が進められてきた。一方、田川市は筑豊最大の炭鉱の町として、三井財閥が鉱山開発を行ってきた場所である。現在では、どちらも大学誘致や医療福祉へのシフトがなされている。また、医療福祉の充実は、若年層家族の移住を促してきた。所得に負荷をかけない取り組みは、その世代にとって優良な施策ではある。しかし、すべての住民の幸福度が高まるわけではない。

暑い一日、踊り手は汗だくだ!
暑い一日、踊り手は汗だくだ!

未来のまちづくりは、お互いが行き来できる関係づくり

 昨今、観光は「未来のまちづくり」に重要なコンテンツと言われるようになった。しかし、万人が認知する全国区の観光地を保有する自治体は少ない。そのため、「どのようにすれば、誘客力のある観光コンテンツを作り上げることができるか」という問題を抱えている。

 それ故、地域住民が、その重要性に気が付くことはない。その結果、地域にお客さまが流入することは、マイナスイメージが強い。しかし、外からの観光客の消費金額は、最終的に地域を豊かにするのだ。そのための第一歩が、地域間の交流人口の拡大だと考える。

 炭坑節のご縁を一つのキーワードとして、田川市の方々が荒川区への訪問、荒川区の方々が田川市への訪問を活性化することが必要である。お互いに行き来できる関係性が大切だ。

 そのためには、まず、行政視察による双方の原石の磨き上げを進める。その後、地域住民が積極的に相互交流を進めていく。今回、田川市の皆様方が荒川区を訪れる機会が復活した。その返礼ではないが、荒川区からも田川市に訪問することが必要であろう。

炭坑節も、はじまり、はじまり
炭坑節も、はじまり、はじまり

同じベクトルのコンテンツ探し

 その一つのコンテンツとして、「エネルギー資源」や「貨物輸送」を据えることができる。筑豊炭坑で産出される石炭は、網の目のような鉄道路線と遠賀川の水運によって、北九州へ集約される。一方、東北や上信越の物資は、隅田川貨物駅に集約され、隅田川を活用した舟運によって、東京都内に配分されていく。

 そのようなヒストリカルツーリズムを構築し、体験型観光コンテンツの育成も可能と考える。例えば、田川市の石炭・歴史博物館や日本最古の下水処理場・三河島水再生センターなどがコンテツとして活かすことができる。また、平成筑豊鉄道や都電荒川線のような地域密着の鉄路もコンテンツになりうるのだ。

ツーウェイからマルチウェイへ

 ワンウェイではなく、ツーウェイでの交流こそ、長続きするものである。そして、これから先は、同じベクトルのコンテンツ探しが重要となる。地域誘客を進めるには、広域連携こそ、人の動きも生まれてくるのだ。

 まさしく、田川市が認定されている「日本百名月」などは、好事例である。「月」はいずこでも見ることがコンテンツ。そして、将来においても変化することの無いものである。天候によって、見える見えないはあっても、満月の日は、全国どこでも満月である。

認定登録第41号【種別:A類】「たがわ炭坑節の月」(福岡県田川市)

http://japan100moons.com/regist/427

 炭坑節のきずなをもっと深耕させ、来年も二つの町のより強固な関係づくりを継続してほしいと感じるイベントであった。今宵は十三夜、少し霞んだ月が東の空に煌々と輝いていた。

東の空に月が出た
東の空に月が出た

(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8

取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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