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700万人が乾杯! 世界最大のビール祭、ドイツ・ミュンヘンのオクトーバーフェスト

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 実りの秋を迎え新酒のビールで乾杯するオクトーバーフェスト。今や世界各地で恒例の新酒のビール祭りとして広まっている。中でもドイツ・ミュンヘンのオクトーバーフェストは、世界最大の規模、動員数、ビール消費量を誇り、欧州内外からツーリストが集まり、延べ参加者は例年700万人を超える。その訳は、ただ1つ、ミュンヘンビールが美味だから。ミュンヘン人のビール魂に共感を覚え、バイエルンの醸造所が精魂込めて造ったビール杯を重ねて楽しむ、またとない機会だ。世界最大のオクトーバーフェストにようこそ!

ビール祭は盛大な市中パレードから始まる

 宴は午前10時過ぎにブラスバンドの演奏とともに始まった。ホフブロイ、シュバーテン、パウラナー、レーベンブロイ、アウグスティナー、ハッカーブショア、以上6つの醸造会社のビア樽を積んだ花馬車を先頭に、バイエルン地方の民族衣装を着た人々の行進がスタートした。パレードはミュンヘン市庁舎前からミュンヘン中央駅前まで市内メインストリートを巡る数キロのコース。

民俗衣装を着飾ったバイエルン各州の一大パレードがミュンヘン市内に繰り出

 新酒のビア樽を積んだ醸造会社の馬車が向かう郊外の広大なテレーゼ緑地(42ヘクタール、東京ドーム9個分)には、ビール醸造各社が設けた巨大なテントのビアホール14箇所に加え、中小テントが多数並んでいる。最大のテントの収容人員は1万人という。女性はディアンドルというバイエルン地方の民族衣装を、男性はゼナーハット(フェルトの帽子)にレーダーボーゼン(釣りバンドの付いた革製の半ズボン)という民族衣装を着た方が多い。色鮮やかな民族衣装を着た女性・男性の晴れ姿が会場によく馴染んでいる。

市内を練り歩くバイエルン州の人々誰もが誇らしげだ

 会場に山と積まれたビア樽の前に進んだミュンヘン市長が、礼砲と同時に樽の栓を抜いた。「オーツァプフトイス!」(樽が開いたよ)と宣言。会場の全員がマス(1リットル・ジョッキ)を掲げて「プロ―スト!」(乾杯)と叫んだ。

 世界最大のビール祭りが開演した。

参加者各国の馴染みの曲を演奏し、飲めや歌えの大宴会

 オクトーバーフェストは、この時の為に仕込まれた「ヴィーズンビア」と呼ばれるアルコール度の高いビールを飲んで盛り上がる全員参加型の祝祭。各ビア・テントの中にはブラスバンドが入り、参加者各国の馴染みの曲を演奏するので、参加者全員が飲めや歌えや!の大宴会となる。会場への入場は無料で、場内のテントへの出入りも自由。毎年、世界中のツーリストが押し掛け、バイエルルン人と共に飲んで歌って大いに賑わう。2024年は、9月21日から10月6日まで開催。

 
 
新酒のビア樽を積んだ醸造各社の馬車がテレーゼ緑地に続々到着

始まりは200年前、バイエルン王子の結婚祝だった。

 ミュンヘンのオクトーバーフェストの起源は200年前の1810年10月に遡る。バイエルン王国のルートヴィッヒ王子とザクセン王国のテレジア王妃の結婚披露宴にテレーゼ広場で競馬大会が催された。この競馬大会は市民に大歓迎され、以後、競馬大会と王子の結婚記念祭がテレーゼ緑地で開かれるようになった。やがて、競馬大会はドイツ各地の新酒のビール祭と重なり、今日のオクトーバーフェストに発展したという。

 ミュンヘンのオクトーバーフェストには、競馬大会に代わって移動式遊園地がお目見えするようになった。大観覧車やジェットコースター、回転木馬やお化け屋敷に家族連れ客が集まり、ビール会社の大テントでは、新酒ビールの乾杯合戦が繰り広げられる。

バイエルン国王が美味いビール造りを推し進め評判に

 1万人という収容人数を誇るホフブロイ社のテントで隣合わせた青年は、アメリカ中西部、デンバーから来た警察官だった。各地のビール祭りに行ったが、「オクトーバーフェストにかなう祭りは見たことがない。凄いですね」と興奮を交えて語り、彼のジョッキを筆者のジョッキにカチンと当ててチアーズ!(乾杯)と大声を上げた。

国籍、性別、年齢関係なく乾杯、乾杯、また乾杯Exif_JPEG_PICTURE

 ドイツの国民1人当たり年間のビール消費量は、チェコ、オーストラリアなどに次いで世界7位の93.3リットル(2022年)。中でも「ミュンヘンと言えばビール」のイメージが定着している。こんな話が残っている。中世のドイツのビールは、アインベックなど北ドイツ産が主流で、ミュンヘンのビールは、質の点で劣っていたようだ。そこで美味しいビールを造ろうと、1516年にバイエルン王国のヴィルヘルム4世が「ビール純粋令」を公布した。ビールは麦芽、ホップ、水だけで造るよう厳格に定め、粗悪な原料を排除した。1589年にはヴィルヘルム5世が宮廷醸造所「ホフブロイハウス」を創設。現在の老舗のビール醸造会社ホフブロイは、元は王立のビール醸造所だった。アルプスから流れ出る良質な水に恵まれたバイエルン州は、現在、ドイツにあるビール醸造会社の半分以上が集まるビールの大名産地。

ミュンヘン名物、ソーセージ・アラカルトと酢キャベツを肴に杯を重ねる

 オクトーバーフェストでは、女性の多くが1リットルのジョッキを飲み干していた(今年は大ジョッキが14―15ユーロ、1ユーロ≒158円、9月19日現在)。その訳は、明快。新酒のビールが美味しいからだ。オードブルにミュンヘン名物のソーセージ・アラカルトと酢キャベツを頬張り、杯を重ねる。200年前のバイエルン王子の結婚祝いを、今や世界最大のビール祭にしてしまったミュンヘン人のビール魂と苦難の歴史に乾杯!ビールにこだわる老若男女はもちろんのこと、純粋な食材による飲食を嗜好する、いわば健康人の大集会でもあるのがミュンヘンのビール祭。世界最大のオクトーバーフェストにようこそ!人生の欠け甲斐のないハイライトの1つとなろう。( 2017年現地取材及び2024年現地情報に依る)

寄稿者  旅行作家   山田恒一郎  (やまだ・こういちろう)

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