観光地域づくり法人として登録された一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会が、天王洲アイルの観光を推進する地域DMOとしてどのように活動していくのか。そのプロセスやミッションについて、第7回の連載になります。前回は、国立大学法人東京海洋大学と当協会のまちづくり連携協定により、知識の創出やイノベーションなど、新しいまちの魅力が生まれ、「こども大学」で学ぶことにより、ふるさとの「思い出」として根付いていることをお伝えしました。今回は、天王洲アイルの観光商品組成について述べたいと思います。
天王洲アートマップ作成からアートツアーへ
天王洲アイルには、ミュージアムをはじめアート関連施設やパブリックアート(大型壁画や立体アート作品)がまちの中に点在しています。アートマップを見ながら、約30点のパブリックアート作品を巡ると2時間程度かかります。天王洲では1980年代の再開発当初から「アート」をキーワードにまちづくりが実施されていましたが、アートのまちのイメージを与える大型壁画作品は2015年に開催した「POW! WOW! JAPAN」というストリートアートのイベントが大きなきっかけとなっています。
天王洲エリア内の公開空地や建物の壁面に国内外のアーティストが作品を描き、まちをアートで彩る取り組みで、大きなインパクトがありました。このイベントをきっかけに天王洲景観形成の目標「まち全体がミュージアムのような天王洲ISLE」が提唱され、現在のアート作品に溢れる天王洲アイルの景観形成につながっています。
2019年、壁画を中心に7つのアート作品を公開制作・展示する「天王洲アートフェスティバル2019」が開催されました。当時は、天王洲の住民や働く人を中心に大きな話題になりました。そして、アート作品を天王洲の方々、アートに興味のある方々により深い理解をしてほしいとの思いから、まちの中に点在するアート作品を鑑賞するアートツアーが始まりました。ツアー時間は、各アート作品への移動、解説、鑑賞の時間を合わせ60分から90分程度です。
「天王洲アートフェスティバル2019」の開催を機に、天王洲アートマップの製作にも着手しました。アーティストから壁画制作に対する思いや制作意図などをヒアリングし、有識者監修のもと取り纏め作品詳細として日英併記で、各作品写真と併せて掲載しました。
天王洲アートツアーは、ガイド未経験の当協会のメンバーが天王洲アートマップを片手に拙い解説をするところから始まりましたが、ガイド経験を重ねるにつれて、ツアー参加者を満足させるほどのガイドに成長しています。
当初の天王洲アートツアーは、企業の天王洲への視察やキャナルフェスのイベント企画など実証実験として開催しておりました。1グループ10名程度とし、参加料は1人500円でした。参加者にはとても喜ばれていましたが、事業として成立させるためには、ツアーの人数、料金を含めた内容の抜本的な見直しが必要なことが、大きな課題となっていました。
観光DXを活用した天王洲アートガイド誕生
天王洲アートツアーは、地域の方々の理解を深める目的でスタートしましたが、将来は、天王洲アイルに訪れるきっかけをつくるコンテンツにしたいと考えていました。また、ビジネスなど別の目的で天王洲に来街している方々にも天王洲のアート作品を鑑賞してもらい理解を深めてほしい。これを達成するためには、いつでも、どこでも、アートの解説を視聴できる仕組みが必要となります。その解決策として、観光DXを活用した天王洲アートガイドプロジェクトが始まりました。
いつでも、どこでも、天王洲にあるアート作品の解説が視聴できる環境を目指し当協会の会員であるパナソニックグループに相談しました。様々な議論が交わされ、パナソニックグループで開発した「AttendStation®」のプラットホームを活用し、アバターによるアート作品のガイドシステムの構築を進めました。スマートフォンの操作により、アバターが、各作品の前で音声と映像で作品解説をします。また、将来のインバウンド需要を見据えて、日本語、英語、中国語の多言語対応も検討しました。このシステムを構築することで、いつでも、どこでも、国内外の観光客もふくめアート作品のガイダンスを提供することが可能になりました。さらに、一部のアート作品では、作品に向けてスマートフォンのカメラをかざすと、画面上のアート作品が動き出し、ARフォトが撮影できる楽しい仕掛けも構築して実証実験を重ねています。
天王洲アートツアーのアップデートによる観光商品へ
天王洲アイルのパブリックアート作品が徐々に増えて、「まち全体がミュージアムのような天王洲ISLE」の景観が徐々に整ってきました。地域住民やビジネスパーソンには、天王洲アイルのアートを施した景観を応援することでシビックプライドの醸成につながるようになっていました。また、アート関連施設も充実し、アートのイベントも数多く開催されるようになりました。しかし、パブリックアートは、景観として大きく寄与しているものの、アートガイドシステムによるまちの回遊性を促す仕掛けだけでは、観光資源に押し上げるまでに至っていない状況、すなわち「潜在的観光資源」となっていました。
パブリックアートに観光客を誘致するために、魅力的な観光商品の創出が必須と考え、アート作品間の移動手段として、電動車いすや電動キックボードを利用し、モビリティ乗車とアート鑑賞を楽しめる観光商品にアップデートしました。移動を徒歩からモビリティ利用にすることで、ツアー時間は、60分から40分程度に短縮されました。移動時間の短縮により、旅行者もツアーに参加しやすくなり、運営者もツアー回数を増やすことが可能となります。モビリティ乗車体験による付加価値が生まれ、料金も上げることが出来ました。
潜在的観光資源を観光資源へ転換
天王洲アイルの観光資源は、乏しいですが、潜在的な観光資源は、水辺とアートを中心に醸成されています。魅力ある観光資源として育てあげることは、容易なことではありませんが、天王洲アイルは、都会でありながら恵まれた自然環境を持ち、東京モノレールやりんかい線が乗り入れ、品川駅や羽田空港も近く、魅力的な地の利が整っています。天王洲アイルで、どのような形で観光地域づくりをしていくのか。当協会が観光地域づくり法人DMOとして担う大きな使命となります。持続可能な高付加価値な観光商品を創生することを目指しながら、地域との連携に重点を置き、潜在的観光資源の掘り起こしと磨き上げを地域として行うことが大切であると考えています。
寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 理事長