そうだ、旅に出よう、
泊まりはやはり日本旅館がいいな……と想いを巡らすとその背景に必ず和室が見えてくるのではないでしょうか?今回は、宿泊施設としての和室の話を少しまとめてみました。
「以前はここにもお客様を泊めたんですよ」と、驚くような昔話を聞くことがあります。温泉地の大型旅館の「あるある」でしょうか。例えば、畳一畳あたりのサイズを小さくしていたり、通常布団を敷けないようなスペースも生かしたり、とにかく一室に何名まで泊まれるか?(詰め込めるか?)を意識して部屋を作っていたようです。
その時代の団体旅行から個人旅行に世の中がシフトして、今では一室あたりの宿泊人数の平均値は、旅館の場合2.3~2.5名、ホテルでは1.5名。ほとんど、お二人の旅が多いということは明らかなのですが、何名を想定して客室をデザインするかはいつも悩ましい所です。お客様のニーズもいろいろ「一人十色」です。
例えば、女子旅
私のプライベート旅を一例にあげますと、年に一、二度出かけるいわゆる<女子旅>の場合、全員が同じ部屋で眠りたいと希望します。もちろん、海外旅行では2名で一部屋となりますが、国内旅行だと<和室でお布団、座卓でおしゃべり>がセットです。私たちのような子育てを終えた昭和世代だけでなく、娘たち平成世代も同じ傾向があります。ただ、昭和世代と違うのは、和室のない家に育っている人が多いということ。畳の上で過ごすこと自体が、もしかするとアクティビティなのかも知れません。
例えば、家族旅行
同じく年に数回出かける<家族旅行>も同じです。これが都市部となると旅館はほとんどなく、ホテルでは4~5名が一緒に泊まれる部屋というのは、なかなか探せません。安価なゲストハウスであれば収容人数はクリアしますが、それもまた違う。コネクティングルームも味気なくて、やはり、和室のある客室がとても便利だと感じます。また、小さなお子さんのいるファミリー層もやはり和室のニーズが高いことでしょう。
実はテレビの位置、重要なのです!
そうした宿泊施設としての和室をデザインする際に気を付けていることといえば、まずは、テレビの位置です。ある程度、家具の位置が固定されている洋室と違い、食事もすれば、眠り……と多用途な和室、その空間をフレキシブルに使えるようにと考えていくと、一番最適なテレビの位置をまず決定しなくてはなリません。テレビはなくても良い……という世代はまだまだ少なく、この春、WBCの試合が放送されないエリアではクレームになったそうですし、年末年始に紅白が見れません、というわけにもなりません。
むしろ、客室のテレビは、大型化しインターネット対応のものを設置する傾向にあります。
収納も大切なのです!
座卓・座椅子をどこに収めて布団を敷くか、それにより収容人員が変わります。客室前の通路にゆとりがあれば,そこに押し入れを設けることも可能ですが、短時間で布団を敷くスタッフの労力を思うと、やはり室内に設けるのが一番です。デザイナーズ旅館だと、この部分がすっかり抜け落ちて、あとから収納を設けることが多々あります。
そして、家具!
これは、座卓・座椅子ばかりでなく、隣接する広縁の家具も低い目線の和室を意識したものが、美しく収まると思います。また、お客様は椅子を移動して使用されることもあるため、洗面用の小さな椅子でも、畳の上で使用できる脚の形状を意識して選定します。通常の椅子で畳に穴が開いた……ということも少なくありません。最近では、メンテナンス重視で畳でなく畳風の床材を選ぶことも増えています。
お客様のニーズの変化とともに進化する和室、10年後の旅館が楽しみですね。
寄稿者 住百合子(すみ・ゆりこ) AO STYLE インテリアデザイナー・コーディネーター