ライドシェアが日本でも今年4月に解禁され、解禁以前から話題を呼んだ。実は今年3月に、やはりライドシェア同様、自家用車を使ったもう一つの送迎の解禁があったことをご存知だろうか。
観光ガイドが自家用車を使って観光客を案内したり、ホテルや旅館の送迎の途中で観光スポットや土産物屋に立ち寄ったりすることが認められるようになったのだ。
インバウンドなどによる観光客の増加と、観光業界やタクシー、バスなど運送業界の人材不足の中で、その解決を狙ったものと思われる今回の規制緩和は、ホテル・旅館やガイドなど、観光業界自体が主体的に対応できる幅が広がるチャンスとなるだろう。
実際に、ホテル・旅館の送迎ドライバーのシニア向け人材求人などを多数掲載するサービスを提供する立場から、国土交通省が今年3月に通達を出した自家用車での送迎の解禁について解説する。
ホテルから観光地に送迎も、ガイドの車で観光も可能に
この規制緩和は、今年3月1日に国土交通省の通達で明らかにされた。(令和6年3月1日国自旅第359号)
通達は、タクシーやバスなど道路運送法の許可や登録を必要とせず、自家用車などで旅客を運送するいくつかのパターンについて、まとめて規制緩和し、これまで複数の通達に細かく分かれていたものを集約したものになっている。簡単にまとめると次のようなものだ。
①登録・許可が必要な無償運送で請求できる「実費」の対象に、これまでのガソリン代などに加えて、保険料やレンタカー代が追加された
②宿泊施設や介護施設の送迎の一部として、商店への立ち寄りや観光スポットへの送迎も可能になった
③ツアー会社やガイドがツアーやガイドに関連した運送を行うことが可能になった
④運送を利用する人としない人で、サービス利用料金に運送の実費分の差をつけてもよいことになった
⑤自治会や町内会が運営する送迎サービスを、会員の会費で運営してよいことになった
【国土交通省 自家用有償旅客運送に関係する通達について】
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk3_000044.html
必ずしも観光や旅行、宿泊に関係のあるものだけでなく、福祉や地域の支援に関連したものも含まれているが、観光や旅行の業界に与える影響は大きそうだ。
これまでホテルや旅館が最寄り駅などから宿泊客の送迎を行うこと自体は認められていて、一応、その途中に観光地を案内することも可能だったが、それは観光地に立ち寄らないルートから大きく外れない範囲のみだった。
しかし、今回の規制緩和で、ホテル・旅館から観光スポットへと送迎することも可能になった。
ガイドについても、運送が無償でもガイド料金に運送の料金が含まれているとして、そうした運送を行わないように指導を徹底するよう、地方運輸局に通達が出されていたほどだ。
このことについても、今回の規制緩和で通訳案内士などの公的資格を持ったガイドが観光案内のために自家用車で観光客を輸送してよいことになった。
さらに、これまではガソリン代、高速道路料金、駐車場代などのみが実費の項目になっていたものが、保険料やレンタカー代も実費に含めてよいことになり、加えて、宿泊料金やガイド料金の金額を、運送を利用する人としない人で実費分の差額をつけてもよいこととなったため、車両の維持や運送サービスの運営自体がより行いやすくなった。
ライドシェアも解禁されたとはいえ、タクシーやバスの人手不足はさらに深刻さを増している中で、ホテル・旅館やガイドなどが自ら対応できる観光案内の範囲が広がることは、旅行・観光業界のチャンスや課題解決手段の一つになるのではないだろうか。
シニアに人気の送迎ドライバーにさらなるチャンス
もちろん、働き手の視点でも、今回の規制緩和はチャンスになる。特に、私たちシニアジョブが支援しているシニアの求職者にとっては、大きなチャンスにつながる可能性がある。
シニアの求職者には、郊外に住んでいるシニアは特に、送迎ドライバーは人気のある職種だ。ドライバーの職種の未経験者からの人気も、また、タクシーやバスの経験者からも、ホテル・旅館や介護施設の送迎ドライバーの求人に応募が多く集まっている。
今後、ホテル・旅館が観光スポットへの送迎も始めたならば、送迎ドライバーの需要も高まって求人が増えたり、待遇も向上したりする可能性があり、チャンスが増すだろう。
また、大手出身のシニアの中には、外国語に堪能なシニアも多い。公的なガイド資格の代表格、通訳案内士は言語系で唯一の国家資格としてチャレンジする人も多い資格だ。自家用車に乗せてガイドをするために通訳案内士の資格が必須というわけではないが、老後に外国語のスキルを生かしたいシニアにとって選択肢の一つとなるだろう。
送迎サービスを提供するホテル・旅館の立場からも、今後シニア人材は重要な候補となるだろう。もちろん、あまりに老齢の場合は体力や健康での懸念が増してしまうが、これまで以上に送迎のニーズが高まると、フロントと兼任なども難しくなり、必要なドライバーの人数も増すことから、単純に人数が必要となるため、シニアが大きな戦力となっていく。
もちろん、車で案内する場所が広がるということは、走行距離や運転時間も増え、その分、事故に遭う・事故を起こす可能性も高まってしまうため、保険の見直しや事故時の対応強化、運転を行う人材の教育や技能・健康の見極めなども重要になる。
どこまで運転技能の見極めに有効化はなんとも言えないが、私たちシニアジョブを介して送迎ドライバーの仕事に就職するシニアでは、同じ送迎ドライバーやバス・タクシー、役員運転手など、過去に人を乗せる仕事をしていたシニアは採用されやすい傾向にある。
送迎を行うホテル・旅館も、観光の仕事や運転の仕事に就きたいシニアも、規制緩和されたばかりであまりイメージが湧かないかもしれないが、積極的にチャレンジする価値のある転換点ではないかと私は感じている。
寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役