今回は、「SEA TO SUMMIT」の取り組みについて、説明いたします。文字通り「海から(山の)頂上へ」という意味になりますが、自然の循環そのものを人力で楽しむスポーツによって体感することも意味します。
つまり、海で発生した水蒸気が、雨となって山に降り、川となって森や里を潤して、再び海に循環する一連の流れを自分の体で体感できる取り組みです。
「SEA(湖も含む)」では、カヤックを楽しみます。そして、「TO」では、自転車による山の麓までの移動。「SUMMIT」では、山の頂上を目指します。
最初の大会では・・・。
第一回「SEA TO SUMMIT」は、2009年に鳥取県での「皆生・大山コース」からスタートいたしました。「SEA」は、皆生温泉の前の海でのカヤック。「TO」では大山までのアップヒルルート。「SUMMIT」では、大山登山をして頂上を目指しました。参加はチーム・個人となり、各ポイントで装備が既に用意されていて、身軽な装備姿でサミットを目指すわけです。
各地域での自然や文化などの魅力をまるごと感じることのできるこの取り組みは、毎年開催地域を増やしていき、2024年度では、北は「北海道オホーツク大会」をはじめ、西は「岡山・備前大会」まで全国で10か所開催されています。ただし、参加人数については、自然に負荷をかけないコンセプトのもと、 各回300人程度の参加者に絞っています。
アウトドアだけでなく、学術的な学習の場でもある
また、この取り組みの特徴としては、開催前日には必ず「人と自然の共生をテーマ」とした環境サミット講演会が開催されることにあります。つまり、単にアウトドアスポーツを楽しむだけではなく、開催地域の取り巻く自然環境を再認識し、開催地域固有の自然の魅力を知りうる機会を提供するイベントになります。
一例をあげてみましょう。
「びわ湖 東近江SEA TO SUMMIT 2024」
○ 基調講演:土屋 俊幸(東京農工大学名誉教授)
「NbS(Nature-based Solutions)を考える:自然のちからを活かした地域づくり」
「岡山 備前 SEA TO SUMMIT 2024」
○ 基調講演:赤石 大輔(大阪産業大学デザイン工学部環境理工学科准教授)
「みんなで学ぶ・守る・つなぐ:アウトドアと市民科学が開く森里海の未来」
などとなっています。
また、開催場所によっては、基調講演の当日に地元の名産品の即売や郷土料理を提供する屋台が出ていたりします。そして、地域の温泉を楽しんだりと「ガストロノミーツーリズム」の側面も兼ね備えている取り組みです。
自然環境と共生して、体験するイベント
このような自然環境を考え、学びながら環境に負荷を与えない、人力で楽しむスポーツは、特に欧米からのインバウンドの方には魅力的な観光素材となりうるアイテムです。JATAの2023年度インバウンド観光コンテンツ調査においても、自然を楽しむ「アドベンチャーツーリズム」が14%の数値、そして、「ガストロノミーツーリズム」は18%の数値であり、観光コンテンツとしての人気が高いと思います。
自然を体感する取り組みとして、アドベンチャーツーリズムとガストロノミーツーリズムの側面を兼ね備えている「SEA TO SUMMIT」は今後もインバウンドコンテンツとして有望な素材だと考えます。
次回は「コミュニティ・ベイスド・ツーリズム」についてご紹介したいと思います。
これまでの寄稿は、こちらから(https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=4866)
寄稿者 梅阪雅雄 合同会社GO-ON 代表