2024年6月から長崎大学でも仕事を始め、この冬は主に長崎で過ごした。アジが絶品、かんぼこもうまい。長崎の暮らしがとても気に入っている。
長崎といえば、さだまさし。叙情派フォークに傾倒していたころ、南こうせつの次にファンになったのがさだまさしと吉田正美(現・政美)の「グレープ」。このバンド、単なるフォークデュオではない。さだがバイオリンを弾き、交響楽もやる。たまげてしまったが、歌詞はまさに叙情派。とくに女性を主語にした唄が多い。
わりと土地柄のでるものが少なくない。「縁切寺」は鎌倉だし、「無縁坂」は上野のそば。ヒットソングの「精霊流し」はまさに長崎。ソロになってからも「活水あたりはまだ絵葉書通りの坂」とか、湯島聖堂がでる「檸檬」、太宰府の「飛梅」など、ミュージックツアーはわりと組みやすかろう(例の、アアアアアアアアアもあるし)。
歌より「しゃべり」
グレープで驚いたもうひとつは、しゃべりの長さ。「三年坂」というとてもいいライブ・アルバムがあるのだが、その曲間の長いこと、語りが小さくなるアレクサで聴いていると曲が続かずイライラするが、ヘッドホンで集中してきくと実に面白い。こうせつもしゃべりが面白かったが、次元が違う。吉田のボケも悪くない。漫談だけでレコードが出せるのではないかと思っていたら、本当にしゃべりだけの噺歌集CD(1982-2003だけで全18巻)を出した。
https://www.u-canshop.jp/hanashika/?srsltid=AfmBOoo07jlxVMrtrnhsz3tsHq2ZXcGgXERDLnjwQf0rVwubPcUcYd7J
「三年坂」にも収録されているが、グレープには「追伸」という恐ろしい曲がある。当時はわからなかったが、なにが怖いかって。まあ、聴いてみてくださいな。手編みのマフラーやセーターが流行った私の中学時代の頃。女性が好きな男子にプレゼント。。。憧れた男子も少なくなかったろう。メロディはいい。だけど、この歌、歌詞の最後のほう・・・あなたの肩幅教えてください、って。「呪い」でもかけるのだろうか!?(フラれたらしいから編みかけたベストをほどくのではなかったの?)
平和の尊さを歌う
聴かなくなったのは「雨やどり」あたりから。やはり、新曲を聴いても同じに聞こえるのが物足りなくなっていった。それでも「親父の一番長い日」にはびっくりしたし、何よりも日露戦争をテーマにした「防人の詩」には度肝を抜かれた。これが主題歌になった映画「二〇三高地」がすごかったから、さだも「右翼」ではないか、と非難されたような覚えがある(そういえば、「関白宣言」でも女性蔑視と言われたかな。「昭和」を体現していたからなあ)。違います。長崎出身の彼には平和の尊さが誰よりも身に染みていると思います。
「三年坂」の名曲、「フレディもしくは三教街 -ロシア租界にて」を知らないのか?
ストレートではないが、これほど戦争の哀しみを唄った歌詞はない(おそらく歌詞はさだのルーツに関わっている)。これは正やんにはないものだろう。
「ながさき愛」は、いたる所に
日本の境界、国境地域をつなぐネットワークの寄り合いで、毎年、日本のどこかの端っこにいく。コロナ禍のころ、旅ができなかったので、ネットワークに加盟する自治体をつないでオンラインで会議をやったことがある。そのときメンバーである五島市が出した映像に、さだまさしの唄がある。そう、市歌「燦々と」をさだがつくったのだ(38分36秒あたりから)。そういえば、新上五島町歌も作っている。ふと思い出したが、「三年坂」には「島原の子守唄」も入っていた。「朝刊」には、からすみも登場する。実に「ながさき愛」に満ちている(ちなみに長崎大学のわが中学同級生、永安武学長も負けないくらいの「ながさき愛」を持っている)。
懐メロフォークの向こう側
2024年の大晦日の紅白、こうせつが「神田川」を、イルカが「なごり雪」を唄うなど、懐メロフォークのコーナーがあったが、年があけるとやっぱり、この人。歌わなくて、ここまで商売できる歌手はあとにもさきにも彼だけだろう。
いま私はロシアのウクライナ侵略を受け、彼が作ったキーウの唄を聴いている。フレディを思いだしながら。これが彼の本領。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=20
寄稿者 岩下明裕(いわした・あきひろ)
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授 兼 長崎大学グローバルリスク研究センター長