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【レポート】富山・五箇山で非日常体験、日本最古の唄「こきりこ」と合掌造り宿泊を貸切で楽しむ

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 富山県の南西端に位置する自然豊かな地域「五箇山」。今回は、20軒の合掌造りが現存する「相倉合掌造り集落」を舞台に、南砺市観光協会(富山県南砺市・川合声一会長)が急増するインバウンド向けに開発した新たな高付加価値旅行商品「世界遺産五箇山に泊まる 日本最古の唄『こきりこ』プラン」が2024年12月6日から予約を始めた。販売に先立ち参加した富山・五箇山モニターツアー(1泊2日)の様子を紹介する(取材は同年10月23、24日に富山県南砺市にて)。

 同プランは、観光庁が2024年度に取り組む「地域観光新発見事業」の一環として、南砺市と連携協定を結ぶJR東日本びゅうツーリズム&セールス(東京都墨田区、高橋敦司社長)と連携し、相倉観光組合と越中五箇山こきりこ唄保存会の協力のもと、インバウンド向けの特別な宿泊プランとして開発。ツアーは、「合掌造り宿泊&こきりこ鑑賞」の貸し切り体験をベースに、4つのプランが用意されている。金沢駅発着のタクシー送迎、伝統楽器「ささら」の製作体験や、通訳案内士付きの「こきりこの里まち歩きツアー」などを組み合わせられる。 「こきりこプラン」の予約は、特設サイト(日本語:https://www.tabi-nanto.jp/kokiriko/、英語https://www.tabi-nanto.jp/kokiriko/en/)から申し込める。

外国人観光客が目立った
外国人観光客が目立った

 五箇山は、約100~350年前の合掌造りが立ち並ぶ、歴史的風景を今に残す、貴重で美しい集落がある地域。1995年には日本の木造文化を代表する合掌造り家屋群を中心とする貴重な農村景観や、受け継がれてきた文化が評価され、岐阜県白川郷荻町集落とともに「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として、世界文化遺産に登録されている。

相倉合掌造り集落
相倉合掌造り集落

 ツアーの舞台となる相倉合掌造り集落は、標高約400mの段丘上にあり、細長い台地に広がる集落。20棟の合掌造り家屋が現存し、今も昔ながらの生活が息づいている。家屋の多くは、江戸時代末期から明治時代に建てられたもので、最も古いものはなんと17世紀にまで遡る。集落内には、合掌造り家屋を利用した資料館、お土産・飲食店があるほか、合掌造り内で泊まれる民宿が点在する。宿泊しながら、集落の生活の様子や歴史、伝統文化に触れられる。非日常の景色からは、どこか懐かしく、心が癒やされる。 

集落内にあるお土産・飲食店
集落内にあるお土産・飲食店

 今回の訪問では、相倉合掌造り集落の一つを民宿を営んでいる「合掌造りの宿 長ヨ門」で宿泊した。長ヨ門は、天狗の足跡岩の近くにある合掌家屋の民宿。気さくなおかみさんのおもてなしに話が弾んだ。夕食は、囲炉裏を囲んでの食事。山菜、岩魚に五箇山とうふ、それに 自家製の野菜で作った料理・漬物が並んだ。当日はカナダから訪日し、五箇山で連泊していたポールさん(男性)と共に楽しんだ。ポールさんは、夕食前に五箇山周辺を散策したそうで、特別天然記念物である「ニホンカモシカ」に遭遇したとのこと。エピソードを紹介するとともに、ニホンカモシカの写真を見せてくれた。日本には約1週間滞在するそうで、東京から白川郷・五箇山を訪れ、翌日からは金沢を抜けて京都、そして北海道に飛び、帰国前には東京・歌舞伎町に訪れると言う。翌日の京都までの交通手段については、おかみさんがボディランゲージも含めながら丁寧に伝えていた。

山菜、岩魚、五箇山とうふなどが並んだ夕食
山菜、岩魚、五箇山とうふなどが並んだ夕食
おかみさんと翌日の予定を確認するカナダ人のポールさん
おかみさんと翌日の予定を確認するカナダ人のポールさん

 夕食後には、越中五箇山こきりこ唄保存会が五箇山の地に伝わる日本最古の民謡と言われる「こきりこ(筑子)」を披露。五穀豊穣を祈るこきりこは、1400年前(大化の改新ごろ)に発祥した田楽踊りがルーツと伝わる素朴な唄踊りで、数々の古文献にその名が残されるとともに、美しくも厳しい自然の中で脈々と受け継がれている。こきりこの披露では、踊り手が手に持つひのきの板を編んで半円に構えて波打たせて鳴らす伝統楽器「ささら」が奏でる不思議な響きが心地良かった。また、〝シャッ〟と鳴る棒ささら、笛、太鼓、銅拍子の音と共に保存会会長が歌う唄には、ポールさんと共に酔いしれた。ポールさんは「このような素晴らしい建物の中で、すばらしい音楽と出会えたことに感謝している。こきりこの体験は、日本の文化を感じるもので、少なくともカナダ人には好まれるはずだ」と話した。

間近での観賞は迫力満点
間近でのこきりこ鑑賞は迫力満点
地元ガイドが英語で説明
地元ガイドが英語で説明

 長ヨ門には3部屋あり、通常は他の客と一緒に宿泊や食事を行うことになるが、新たに開発されたプランでは、貸し切りとなるとのことで、家族・友人とゆっくり過ごしたい人にはうれしいサービスだ。

懐かしさが感じられる客室
誰もが自由に過ごせる居間
誰もが自由に過ごせる居間

 就寝前に外に出ると、真っ暗な空が目に付いた。おかみさんは「晴れた日にはまぶしいぐらいに星が見える」と話した。当日はあいにくの曇り空だったが、合掌造りと共に楽しむ星空観賞を目的に再訪したくなった。

今回宿泊した「合掌造りの宿 長ヨ門」
展望台から望む相倉合掌造り集落
展望台から望む相倉合掌造り集落

 翌朝は、相倉合掌造り集落を南砺市観光協会の此尾治和専務理事・事務局長の案内のもと散策。五箇山に到着後から気にはなっていたが、今朝も白川郷や飛騨高山発の日帰りツアーで五箇山を訪れる外国人観光客の姿が多く目に付いた。平日の朝にも関わらず、約100人ぐらいの外国人が散策を楽しんでいたのではないだろうか。合掌造り家屋は、日本有数の豪雪地帯で知られる五箇山・白川郷で見られる独特の建築様式で、「合掌」は、左右の掌を合わせた腕の形に由来すると言われている。最大の特徴は三角形の”茅葺屋根”で、雪を落としやすくするため、60度もの急勾配になっており、釘は一切使わず組み立てられている。茅葺きの交換には片面で800万円ほどかかり、15~20年に1度の頻度で交換しているという。駐車場から段々畑を5分ほど登ると集落を一望できる展望エリアがあった。四季折々の美しい自然風景や相倉の全景が望める。撮影スポットは集落内に複数あるので、ぜひ探してみてほしい。集落内には、五箇山に代々伝わる「紙漉(す)き」の工程を体験できる「五箇山和紙漉き体験館」があり、職人の手ほどきを受けながら楽しめる。また、散策中には此尾専務理事から貴重な文化財を火事から守る放水銃の説明や、皇室とゆかりのエピソードと聞くなど、約1時間の散策だったが奥深い五箇山の魅力に触れられた。

集落を案内する此尾専務理事
集落を案内する此尾専務理事
集落を案内する此尾専務理事
集落内に24基ある放水銃

 相倉合掌造り集落から車で約10分ほど離れたところに、国指定重要文化財の「村上家」がある。約350年前の建築当時の様式を伝える貴重な合掌造り家屋で、民族資料なども展示している。五箇山地方の民家のうち、古い時代の形式を改造されずに残された建物は、一重4階、切妻造り茅葺、戸口は妻入り、間口は35尺2寸、奥行は67尺5寸と地域内最大規模を誇る。1階の柱や掛けられたささらは黒ずんでいたが、家で火を焚いた際にでたすすで黒ずんだのだという。「過去には建物内に約25人が住んでいた」と現当主は話す。

国指定重要文化財に指定されている村上家
国指定重要文化財に指定されている村上家
地域内最大規模の合掌造りには約25人が住んだという
地域内最大規模の合掌造りにはかつて約25人が住んだという

 村上家と並ぶ国道156号線沿いには、五箇山の澄んだ水と産地の大豆を使用した昔ながらの五箇山とうふを作る「とうふ工房 喜平商店」、古代民謡であるこきりこ踊りに用いられる様々な古代楽器の製造工房である「こきりこ民芸」、庄川の流れを窓の外に見ながら、毎日石臼で挽いたそば粉を使う本格的な手打ちそばが味わえる「五箇山豆腐・手打ちそば 拾遍舎」がある。

 喜平商店では、3代目の岩崎喜平さんが迎えてくれた。五箇山とうふの製造工程を見学できるほか、ゆっくり休める休憩スペースがある。縄で縛っても形くずれしないことが特長である五箇山とうふのお買い物はもちろん、ここでしか味わえない新鮮な豆乳で作る「五箇山とうふ豆乳ソフトクリーム」もぜひ味わってほしい。ちなみに、岩崎さんは、越中五箇山こきりこ唄保存会の会長でもあり、こきりこや五箇山の歴史話で話が弾んだ。

五箇山とうふの製造工程を紹介する岩﨑さん
五箇山とうふの製造工程を紹介する岩崎さん
五箇山とうふ豆乳ソフトクリームも絶品だ
五箇山とうふ豆乳ソフトクリームも絶品だ

 こきりこ民芸では、全国で伝わるさまざまな「ささら」を手に取り音を奏でられるほか、人間の煩悩の数と同じ108枚のひのき板を紐で結わえて作る「ささら編み体験」ができる。一昔前は、修学旅行や遠足でささら編み体験が行われることが多かったが、今は個人での参加者が増えているという。今回は、72枚で作る小さなささら編みを体験した。ひもと板を足を使いながら編む工程に最初は苦労をしたが、丁寧な説明で、立派なささらを編めた。

全国各地に伝わるささらを手に取れる
全国各地に伝わるささらを手に取れる
指導を受けながら安心して作れるささら編み体験
指導を受けながら安心して作れるささら編み体験

 昼食は、レトロ感のあるモダンな施設である拾遍舎で天ぷらそばをいただいた。喜平商店から仕入れた五箇山とうふのほか、季節の天ぷらを味わった後、五箇山在来種、新潟産常陸秋そば、南砺市産とよむすめなどをブレンドして自家製粉された玄そばを味わった。喜平商店と拾遍舎の主人は兄弟とのことで、兄弟が作る蕎麦と豆腐の五箇山2大名物を堪能してほしい。

五箇山2大名物に舌鼓
五箇山2大名物に舌鼓

 国道156号線沿いの徒歩圏内には、本殿は富山県内に現存する最古の木造建造物で国の重要文化財に指定され、こきりこの奉納の舞台となる「上梨白山宮」、元は合掌家屋を利用した五箇山民謡に関する資料館だったこきりこ唄の館をリニューアルした「五箇山総合案内所」、江戸時代に加賀藩の流刑地として8カ所あった流刑小屋のうちの一つで唯一現存する小さな茅葺き造りの「流刑小屋」などがある。

上梨白山宮
上梨白山宮
五箇山総合案内所
五箇山総合案内所
流刑小屋
流刑小屋

 合掌造りの建物や日本最古の唄「こきりこ」など〝ここだけ〟の体験がそろう五箇山。合掌造りの建物越しに連なる山景や星空、息を呑むような美しい景観、体験に一度は訪れたい日本の名所であることを大いに実感できた。 

取材協力:南砺市観光協会、JR東日本びゅうツーリズム&セールス
取材・文:ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通

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