花巻温泉(岩手県花巻市)は12月7、8日、500年以上の伝統を持ち、ユネスコ無形⽂化遺産でもある「早池峰大償神楽(⼤償神楽)」を学ぶツアーを催行した。人口減で存続の危機にある神楽を「通い」をキーワードに商品化。神楽を取り巻く歴史や⽂化を学び稽古の体験を通して再度の来訪や体験につなげ、民俗芸能の担い手不足の解消など伝承活動の持続化に向けた取り組みにつなげる。今回は、モニターツアーの様子を紹介する。
モニターツアーは、観光庁が2024年度に推進する「地域観光新発見事業」の一環として実施。ツアーの企画、販売、主催はJR東日本びゅうツーリズム&セールスが担った。地域では、現代社会の課題である⼈⼝減少や少子高齢化から、神楽の担い⼿不⾜が一層深刻になっている。同ツアーでは、こうした民俗芸能の担い手不足の解決につながる手段として、民俗芸能を伝承される地域へ「通い」で習得し、地域の担い手とともに活動をすることで、民俗芸能の伝承活動を持続的なものにしようとする「通い神楽モデル」の実現に向けて旅行商品として開発された企画。神楽を観るだけではなく、実際に演じることで、民俗芸能との関わりを深め、地域に通い続けるきっかけを生み出す。
大償神楽を観て、学んで理解する
初日は、花巻市内の文化財を学習するほか、大償神楽の演舞を鑑賞した。文化財の学習は、花巻市総合文化財センターを訪れて実施。同センター副所長から展示物の案内を受けるなど、今回のツアーのテーマである「早池峰神楽」の理解を深めた。早池峰神楽は、⼤償(おおつぐない)と岳(たけ)の2つの神楽座の総称で、2009年にユネスコ無形⽂化遺産として登録されている、地域に誇る⺠俗芸能です。霊峰・早池峰山で修行する修験山伏たちが始めたとされ、加持祈祷の型が取り入れられている。
このほか、⼤償神楽保存会に所属する吉⽥真彦さんから、⼤償神楽の歴史や現状、現在⾏っている取り組みについて説明を受けた。大償神楽の演者としての活動も行う吉田さんは、普段は花巻市の職員として、地域課題を解決するためにさまざまな実践研究を行う「花巻市地域おこし研究所」の班員として活躍している。研究活動の中では、地域外の⼈が稽古に通い、演者として参画するという「通い神楽モデル」を開発。現在も、民俗芸能における演者確保の持続的な仕組みづくりについての研究を続けている。また、鑑賞会で披露される3演⽬についても紹介された。
⼤償神楽を学んだ後は、花巻温泉が運営し、今回の宿泊地である花巻温泉ホテル紅葉館で⼤償神楽の特別公演を鑑賞した。特別講演では、神楽の稽古で最初に習得する、基礎となる所作が多く含まれる舞である「三番叟(さんばそう)」、鞍馬寺で修行を積んだ⽜若丸(源義経)と唐(もろこし)の天狗の首領である善界坊の兵法比べを題材とした「鞍馬(くらま)」、⼋百万の神がこの世に現れる際の姿である「権現様」が、無病息災・悪魔退治・五穀豊穣などを祈念する神楽の最後に必ず舞われる演⽬「権現舞(ごんげんまい)」の3演目が披露された。
※サムネイル画像は、大償神楽「三番叟」
⼤償神楽の⼊⾨となる演⽬「しんがく」を習得
2日目は、⼤迫交流活性化センターで神楽を体験。神楽鑑賞会で舞った神楽衆が、主に早池峰神楽が奉納される神社の例大祭で披露する⼤償神楽の⼊⾨となる演⽬「しんがく」の習得を指導した。しんがくは、祭りで権現様の供をしながら舞うもので、権現様の来訪を集落に伝える舞。参加者は、実際の舞で使⽤する幣束(へいそく)という採物(とりもの)を⼿に携えながら、神楽衆が手本に合わせて舞った。神楽衆からは、「掛け声を大きく出そう」といった声が飛んだ。参加者からは、「腰の下げ⽅や、⼿の形など初めはとても難しく感じた」といった声が上がった。また、神楽装束を着れるサプライズが用意され、装束姿での写真撮影、成果披露が行われた。
神楽体験後は、⼤償神楽を伝授したといわれる「⽥中神社」、大償神楽が奉納される「⼤償神社」の2社を参拝。昨日に続き、大償神楽保存会の吉田さんがガイドを務めた。
田中神社は早池峰の里宮との位置付けにあり、実際にお参りすると早池峰山の方角を向くという。正月には早朝から元旦祭が行われ、御神楽奏上が行われている。⼤償神社は、祭事の際にのみ開いている社殿内も特別に見学。同神社では、年末年始や夏に神事が行われ、神社から下った場所にある「神楽の館」で奉納神楽が行われている。
参加者からは、「大償神楽を観たことはあるが、説明を聞けて学びにつながった。演者でなくとも、何かの形で携わっていきたいと思った」「伝統芸能を絶やさないという意気込みが伝わり感動した」といった声が上がった。
全国には約2万件が存在するとされる民俗芸能だが、担い⼿不⾜が一層深刻になっている。活動が困難となった民俗芸能は、活動が中断され、廃絶されたものも少なくない。継続に向けて、多くの人たちが関係を持ち、交流や通いを行いながら継続へとつなげてもらいたい。