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万博の影響で若手人材が関西集中? 転職市場の活性化は継続するか

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 いよいよ大阪・関西万博の開催年となった。万博についてはさまざまな立場からの意見や報道があるが、企業の立場で期待したいものは、やはり経済効果である。

 経済効果にも、会場の建設費や会場での直接の消費以外に、会場周辺や開催期間以降などにも広がる波及効果も見込まれる。筆者のような人材や求人の業界では、求人や採用が活発になる波及効果を期待したいところだ。

 では実際に万博の影響は求人に表れているのだろうか?

 筆者が運営しているのはシニアに特化した求人サイトのため、シニアの求人への万博の影響ということになるが、完全な確証はないものの影響は発生していると言える。しかし、求人は増えれば良いというものではなく、地域によって影響の出方も違うため、プラスとマイナスどちらの影響もある。

 今回は、大阪・関西万博がシニア求人に与える影響と今後について述べたい。

東日本の“リゾート地”は若手採用を諦めた?

 私たちは運営しているシニア専門求人サイト「シニアジョブ」や、シニア専門人材紹介・人材派遣「シニアジョブエージェント」の求職者や求人企業、就業決定情報などのデータを不定期ながら調査し、公表している。

 その中で「“リゾート地”のシニア求人は東日本に集中している」という調査結果が出たことがあった。

 これは2024年7月に“リゾート地”のシニア向け求人を地域別に調べた結果で分かったものだが、9月に北海道のシニア向け求人を調べた結果と、10月に宮城県・山形県のシニア向け求人を調べた結果でも、“リゾート地”のシニア向け求人は東日本に集中し、西日本では非常に少ない結果となった。

 ちなみに“リゾート地”のシニア求人の多くは、ホテルフロントや調理を含む「販売・飲食・接客・サービス」で、全“リゾート地”のシニア求人の69.4%を占める。また、エリア分布割合は下記のとおりだ。

【エリア分布割合】

北海道・東北(28.7%)、関東(17%)、北陸・甲信越(16.7%)、東海(19.9%)、関西(4.2%)、中国(1.6%)、四国(1.3%)、九州・沖縄(11%)

※シニア専門求人サイト「シニアジョブ」2024年7月31日時点

 私たちはこの結果の理由について、取引先やその他関係者からの情報を重ねた上で、「万博開催にともなって若手人材が大阪とその周辺に集中し、若手の採用が難しくなった東日本ではシニアの採用に注力している」ためと仮説立てた。

 私たちは若手の観光や建築関連の求人や求職者動向のデータを持っていないため、若手が大阪に集中している確証はないが、大阪ではこれまでよりも高めの給料の求人が出ており、充足しているかは別として若手の応募もそれなりにあるような話は聞いている。

 ちなみに、関西の観光や建設に関連する求人でも、清掃や交通誘導警備、施設警備など、そもそも人手不足が深刻でシニアの割合が高めの職種については、シニア向け求人も他のエリアと大きな差がなく掲載されている。

 なお、同じ西日本でも万博開催地である大阪からの距離が離れる九州・沖縄でも“リゾート地”のシニア求人は多くないのであるが、タクシーやバスなどのドライバーのシニア向け求人は大阪より福岡が顕著に多く、関西とは違った転職・採用市場の様相を見せている。

万博終了後の転職市場の急変を見逃すな

 もし、私たちの仮説どおり、大阪万博によって観光・建設の若手人材が関西に集まり、それによって“リゾート地”のシニア求人が東日本に集中したのであれば、関西はシニア人材に頼らなくてもよいほど若手が集中して採用しやすくなったプラスの状況と言え、また、反対に東日本はシニアの採用はできていても、若手が採用しにくい苦しい状況と言える。

 この状況は万博終了後、どのように変化するだろうか?

 理想は、万博によって加速するであろう関西の経済が成長を続け、活性化した転職・採用市場もそのままの勢いを保ちつつ、日本全国にその勢いが波及することだが、そう上手くはいかないだろう。

 筆者は万博終了後、仮にIRなどによる次の成長が大阪周辺で続いたとしても、転職・採用市場の状況は急速に変化すると見ている。つまり、現在、若手が集中していると見られる関西の観光業界は、現在よりも若手採用が難しくなるだろう。反対に、東日本の観光業界などシニア採用に注力しているエリアには、若手人材が回帰するようになりそうだ。

 私たちは、こうした転職市場動向を注視しながら、求職者の集客と求人獲得営業を適切に管理していく予定だ。もしかすると、万博の開催期間もずっと稼働が必要な観光関連の人材よりも先に、会場の解体工事が発生するとはいえ、開催期間の需要がなくなる建設関連の人材で先に転職市場の変化が生じるかもしれない。

 観光業界なども“今の採用状況”が続くと考えず、冷静に転職市場を見つめ、変化に合わせて採用戦略を柔軟にシフトチェンジすることが求められるだろう。シフトチェンジが求められるのは現在、比較的若手人材を採用しやすくなっている関西周辺だけではなく、シニア採用にシフトしている東日本でも同様となる。

寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役

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