日本の有人の最北端は稚内市。宗谷岬の突端にある日本最北端の地の碑は多くの旅行者が訪れ、SNS映えもする観光ポイント。ボーダーツーリズム関連の旅でも必ず訪れます。
![宗谷岬にて](https://tms-media.jp/wp-content/uploads/2025/02/soya_misaki.jpg)
ボーダーツーリズムは国境・境界地域及びその先の隣国を魅力的な観光として捉え「越える」「見る」「比較する」をテーマとする観光ですが、今の稚内では国境を「越える」体験はできません。稚内港とサハリン・コルサコフ港を直接結ぶ定期航路はコロナ禍前の2019年から休止となっています。しかしながら、日本最北端の地に立てばサハリンの近さに驚きます。しばらくの間は「見る」「比較する」体験を続けることになるのでしょう。
稚内周辺は魅力的な観光素材がたくさんあります。隠れた観光ポイントをいくつかご紹介したいと思います。その前に私と稚内とのお付合いを簡単にご紹介します。
私と稚内とのお付合い
私と稚内とのお付き合いの始まりは約45年前にさかのぼります。1979年12月、その年の夏に始まった催行中止のない道南・道東を巡るバスツアーがヒットし、「次は道北だ」との指示を受けて、担当者だった私は旭川から北へ向かいました。
大雪の中、オホーツク海に近い浜頓別を経由して稚内市に着いた時は真っ暗。その年の春にオープンしたばかりの稚内グランドホテルにチェックインした時の安堵感、出迎えていただいたホテルの泉尚社長の笑顔は今でも忘れません。現在、相談役の泉さんとはボーダーツーリズム推進協議会の良き理解者、支援者としてもご縁は続いています。
羽田からの稚内直行便就航、稚内全日空ホテル(現・サフィールホテル稚内)オープンなどで何度も訪れた稚内。きた・北海道DMO(稚内・利尻・礼文)の公式観光ホームページの制作・運用を私が顧問をしている㈱トラベルジップに任せていただいているのもご縁だと思っています。
https://www.north-hokkaido.com/
渡り鳥の休憩地
![稚内港のカモメ](https://tms-media.jp/wp-content/uploads/2025/02/wakkanaiko_no_kamome-983x1024.jpg)
大沼。宗谷地区は北海道からサハリンを経てロシアと結ぶ鳥たちの渡りの経路に位置していて、大沼は鳥たちの休憩地の1つです。休憩する鳥の種類が多く、往復で休憩をするので、バードウォッチングを楽しむ人たちが多く訪れます。
稚内空港と市内を結ぶ宗谷国道の中間にありますので気軽に立ち寄ることができます。小さなカモメからオオワシやオジロワシなどが自由に旅する姿に自由な交流を重ねることもできるでしょう。
宗谷地区の温泉
前述した稚内グランドホテルには化石海水型の天然温泉があります。ホテルのスタッフの話によると、含まれる温泉成分の種類は日本でも有数で、サハリン・コルサコフ港からの定期便があった頃は多くのロシア人観光客も利用していたそうです。
そして、宗谷地区の温泉と言えば豊富温泉。源泉は昭和の初めに天然ガスと一緒に吹き出し、石油分が含まれる日本ただ一つの温泉です。知る人ぞ知るアトピー性皮膚炎の療養湯治湯として、療養に訪れる人からは「奇跡の湯」と言われています。
新・湯治
私は環境省が提唱する「新・湯治」プロジェクトにスタート当初から関心を持ち、応援もしてきました。「新・湯治」とは、地熱エネルギーとしての温泉を管轄していた環境省が温泉だけでなく多様な自然、歴史・文化、食など、さまざまな魅力がある温泉地として新しい滞在型のツーリズムを目指そうという取組みです。
中心となるのは、豊富温泉など現在79カ所が指定されている国民保養温泉地です。豊富町には皮膚病の療養のため長期滞在する人も増えており、町では適正な温泉利用・健康管理について、指導できる医師や気軽に相談できる温泉コンシェルジュを配置したりしています。近くには、サロベツ原生花園もあるので滞在型としての魅力は十分だと思います。
温泉大国日本ですが、温泉療養の制度については遅れているようです。国内に21カ所ある温泉利用型健康増進施設を使った場合に医療費控除の対象になるようですが、温泉療法そのものは保険適用外です。一方で、ドイツ、フランスなどヨーロッパの温泉大国では温泉療法が健康保険でカバーされる国があります。稚内までの交通機関の利用費用、豊富温泉での滞在費・療養費などの保険適用には多額な財源が必要だとは思います。予防による医療費の低減が期待できるようにも思いますが、難しいのでしょうかね。
喫茶店「あとりえ華(はな)」
![雄大な宗谷平原の景観](https://tms-media.jp/wp-content/uploads/2025/02/soya_hegen-1024x576.jpg)
すでに閉店していますが、稚内市上勇知にあった喫茶店「あとりえ華(はな)」は私のお気に入りでした。何度も通えるところではありませんが、画家の故高橋英生さんが自宅兼アトリエで開業したギャラリーのある喫茶店でした。カウンター越しに広がる北宗谷らしい風景を眺めながら飲む珈琲は格別な体験でした。惜しまれながら閉店したのが2018年の秋。今はどうなっているのでしょうか。
私が初めて訪れた時の稚内は、花の島・礼文島、利尻富士がそびえる利尻島へ渡るための基地で、観光シーズンが夏に限られていました。何とか通年観光に近い形にするには、稚内周辺での観光ポイントが必要です。まだ道半ばだと思いますが、今月にはONSENガストロノミーウォーキングの稚内大会が3回も開催され、大沼にあるテントサウナ「バーニャビレッジ」にも立ち寄るのだそうです。厳冬期こそ稚内の魅力。
私も今月末に久しぶりに稚内を訪れる予定です。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=17
寄稿者 伊豆芳人(いず・よしひと) ボーダーツーリズム推進協議会会長