学び・つながる観光産業メディア

【解説】適時適切な地方への誘客・観光コンテンツの販売、観光庁・地域観光魅力向上事業の狙いとは|観光庁 豊重巨之新コンテンツ開発推進室長×跡見女子大 篠原靖准教授

コメント

 2024年は、ポストコロナに入り急激な円安が進む中、インバウンドは急激な伸びを見せ、2024年の訪日外国人旅行者数(1~12月)は3,687万人となった。年間の合計では過去最高となり、コロナ禍前の2019年の水準(3,118人)を回復した。また、訪日外国人旅行消費額は8.1兆円となり、同じく過去最高を記録している(参考:2019年は4.8兆円、2023年は5.3兆円)。国内旅行においても、日本人国内のべ旅行者数は2024年1~9月の累計で約4.1億人、日本人国内旅行消費額は同間累計で約18.6兆円となっている。これは、2019年同期比で約110%となる。観光需要が伸長する中、観光庁は2025年度に将来にわたり持続的に地方誘客が促進されるよう、地域資源を活用した収益性が高く独自性・新規性のある観光コンテンツの開発から、適切な販路開拓、情報発信の総合的な支援を行い、中長期にわたり販売可能なビジネスモデルづくりを支援する「地域観光魅力向上事業」(40億円)に取り組む。同事業の狙いや取り組みで求めることを事業担当者である観光庁観光資源課の豊重巨之新コンテンツ開発推進室長、有識者として跡見学園女子大学観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授に語っていただいた。(2025年2月6日に跡見学園女子大学で)

――観光の現状について伺いたい。

 篠原 日本のインバウンド市場は、2024年において過去最高を記録した。2019年の壁がなかなか壊せなかったが、大きな成果が出ていると言える。消費額も順調に伸びてきているが、一方でオーバーツーリズムを始めとして、三大都市圏から地方への観光誘客拡大が広がっていないことは課題だ。国内についても好調に推移している。

――事業予算と観光庁全体の戦略について。

 豊重 2024年は、インバウンドは旅行消費額、旅行者数とも史上最高となったが、政府は目標として、2020年が8兆円、2030年が15兆円、6000万人を掲げていた。2020年はコロナ禍だったので8兆円には達しなかったが、昨年は8兆円を超えることができ、2030年に15兆円という目標は夢ではなくなった。観光庁としては、基本計画に基づいて、引き続き持続可能な観光まちづくり経営、インバウンド戦略、国内交流拡大をしっかりと取り組んでいく。

 補正予算については543億円。当初予算については一般財源で89億円、旅客税財源で441億円を要求している。今回の話のテーマである地域観光魅力向上事業では40億円を確保しており、しっかりと地方誘客に資する事業としていく。

 篠原 政府の第4次「観光立国推進基本計画」では、特に観光消費額の拡大および地方誘客の促進戦略が示されている。日本経済を支える屋台骨としての観光の位置付けがさらに鮮明になった。特に、従来の数を求める観光政策から、観光消費額を稼ぐ観光に大きく変容していることが分かる。一方で、稼ぐ仕組みがまだまだできていない。前回の地域観光新発見事業(新発見事業)は、そうした礎になるものだったが、今回の地域観光魅力向上事業では、新たな目標を立てて取り組んでいくこととなる。

豊重室長
豊重室長

――地域観光魅力向上事業の役割と内容について。

 豊重 地域観光魅力向上事業が目指すところとして大きく2つの狙いを考えている。1点目は、引き続き適時適切な地方への誘客を行うこと、もう1点が造成した観光コンテンツをしっかり販売していくこと。インバウンドの宿泊先が東京、京都、大阪で全体の7割を占めており、地方に観光客が足を運んでおらず、その点をしっかりと取り組んでいく。

 新発見事業の後継事業ということで、引き続きインバウンドに限らず、国内観光客の地方誘客に資する観光コンテンツの造成も可能とする。また、観光コンテンツは作ったものの、モニターツアーをして終わりや、一過性のイベントを行いイベントの運営経費で終わってしまっては、持続的な観光にならない。観光コンテンツを販売することに力を入れたい。

 新発見事業では、地域の観光資源を掘り起こしてさまざまな観光コンテンツを作ってほしいという思いを強くしていたが、地域観光魅力向上事業では、そうした観光コンテンツをより魅力あるものにしていきたく、「魅力向上」というネーミングとした。

 篠原 新発見事業では、地域に眠っているものを発見しようという動きだったが、今回は販路を明確にしてつなげていける体制を強化する。販路を広げることで大きく事業展開を変える契機となるはずだ。

篠原准教授
篠原准教授

――事業で、うまくいっていないケースについて。

 篠原 モニターツアーをして終わりというケースは、本当に多い。原因としては、価格設定ができていないこと。また、補助金がもらえるからトライアルでやってみようということ自体は否定しないが、受け入れ体制を含めて地域で継続して取り組んでいく姿勢が醸成できていない。初年度は補助金が付くが、翌年以降はなくなることを前提に価格設定、受け入れ体制を構築してもらいたい。数年にわたっての事業計画なども作りながら、先を見据えた事業として取り組んでほしい。例えば、DMOが頑張れるストーリーを描いた上で、その中に意図に合ったモニターを連れてくるという話にならなければならない。

 豊重 地域観光魅力向上事業では、伴走支援を行いながらビジネスモデル作りに取り組み、地域で自走するための支援をしっかりと行っていく。申請前支援として、地域観光魅力向上事業スタートアップセッションを開催し、観光分野の専門家によるセミナーを通じて、事業計画などのブラッシュアップにつながる情報を提供する。採択後の支援として、①専門家によるオンラインセミナーの開催②地域観光サポーターによるアドバイス③SNS等を活用した情報発信支援④旅行会社等との商談会の開催⑤事業に関する個別相談の実施―といった主に5つの事業実施支援を行う。これまでの事業の反省も踏まえて、丁寧に対応しながら手厚い事業にしていく。

――新発見事業を振り返り、好事例とは。

 豊重 事業を通じて補助金も含めて、支援を受けて大きく進展したものとして、個性ある好事例がある。1月29日に開催した「『地域観光新発見事業』成果発表会」では、事業者が地域で合意形成をしてインバウンドを受け入れるマインドを醸成した事例、新たな観光コンテンツの販路開拓や情報発信の発見があった事例などが披露された。採択された719事業のうち7事業を取り上げた。成果発表会に関しては、地域観光魅力向上事業の事業サイトにおいて、参考動画としてアーカイブ動画を公開している。観光コンテンツ造成、販路開拓、情報発信などに関して参考になる動画として掲載しているので、ぜひ視聴いただき、事業計画等の策定に活用してほしい。

事業を説明する豊重室長
事業を解説する豊重室長

――類型について伺いたい。

 豊重 新発見事業と同様に、地域観光魅力向上事業では、「販売型」「新創出型」の2つの類型を設ける。販売型は本事業実施期間内に造成した観光コンテンツを販売することを目的にした取り組みであること、新創出型は新たな観光コンテンツ造成および販路構築を行い、事業終了後速やかに販売開始することを目的にした取り組みであることが求められる。

 篠原 販売型、新創出型のどちらであっても、地域の受け入れ体制のあり方、ストーリーを活用した販売戦略が立てられないまま事業が終了してはならない。本事業では地域の受け入れ、販売に関する持続性の点はしっかりと見られることとなる。

事業継続の大切さを説く篠原准教授
事業継続の大切さを説く篠原准教授

――SNSの活用についてはどう評価しているか。

 豊重 新発見事業の成果発表会でもSNSの活用手法が発表され、実施主体の方が反響の大きさに驚くことがあった。新発見事業のインフルエンサー派遣では、インスタグラム内で販売までの導線を設けるなど、ただ見て終わりではなく、販売につながる取り組みとなった。インスタグラムなどSNSを活用した取り組みは引き続き支援していきたい。

 篠原 昨今はメディアの在り方や問題などが出ているが、観光の世界もまさにインスタグラムでPRをして販売につなげるなど、仕組みが変わってきている。継続的な受け入れ体制を作っていけるかどうかの中に発信は欠かせないものであり、申請者も意識してほしい。

豊重室長はSNSを介した販路の開拓について言及
豊重室長はSNSを介した販路の開拓について言及

――今後のスケジュールについて。

 豊重 1次公募の期間は、3月3日から4月18日。本事業は、最低事業費600万円で、事業費600万円の場合、補助額500万円、自己負担100万円で事業が行える。前々回の事業であった「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」では、申請者や採択事業者から書類を作る、必要書類を集めるところで手間が多いという意見があり、新発見事業では改善を図ってきた。地域観光魅力向上事業では、事業としてもさらに向上し、より成果を出していただきやすい形へと進化する。皆さまからの魅力的な多くの応募を待っている。

※豊重巨之(とよしげ・ひろゆき)観光庁観光資源課新コンテンツ開発推進室長。早稲田大学大学院理工学研究科修了、同大学院商学研究科修了。博士(技術経営)。2005年総務省入省後、情報通信政策、電波政策等に従事。2020年に総務省情報通信作品振興課課長補佐などを歴任。2022年にデジタル庁参事官補佐を経て、2023年7月から現職。

※篠原靖(しのはら・やすし)内閣府地域活性化伝道師、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部准教授。30年間の旅行会社勤務を経て現職。全国の観光政策に精通し、内閣府、観光庁、総務省、文化庁を始め各省庁の観光政策関連委員を多数歴任。観光地の再生から観光人材育成を手掛けている。

聞き手 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通

 

 

 

 

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/