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カスハラ防止対策義務化へ法改正、外国人の迷惑行為にも応用可能か?

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 カスタマーハラスメント(カスハラ)対策に、いよいよ行政も本腰を入れ始めた。3月11日には政府が企業にカスハラ対策を義務づける改正法案を閣議決定した。昨年には東京都がカスハラ防止条例を策定し、4月1日に施行される。

 少子高齢化で採用が難しくなる中、離職を防ぐ意味でもカスハラ対策は急務であり、こうした行政の動きを歓迎する企業も多いだろう。

 ところで、日本の観光業の場合、他の業種と同じようなカスハラだけでなく、増え続ける外国人観光客(インバウンド)とのトラブルの懸念も拡大している。

 外国人観光客とのトラブルは、一般的なカスハラと分けて考えられることが多いが、迷惑行為や理不尽な要求はカスハラと重なる部分もある。今後、東京都の条例施行や法改正によって企業がカスハラ防止対策を策定した場合、それは外国人観光客とのトラブルにも応用できるのだろうか。

 今回は、観光業界のカスハラ防止対策と外国人観光客トラブルへの対応について考える。

企業に求められるカスハラ被害者からの相談体制整備

 3月11日に閣議決定された労働施策総合推進法などの改正案は、企業にカスハラ防止対策を義務づけるもので、対策を怠った場合、国による指導や勧告が行われ、従わない企業は社名が公表される。

 開催中の通常国会に提出され、可決・成立ののち細かいガイドラインなどが策定されるようだが、法案の自体の内容はざっくりしており、簡潔に言うと「カスハラを受けた従業員からの相談に適切に対処する体制を整えること」が企業に義務づけられるものとなる。

 もう少し具体的に説明するために、2022年に厚労省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」と、4月に施行される東京都のカスハラ防止条例を参考に、企業は何をすべきなのかを見ていく。

 厚労省のマニュアルでも企業に求められるのは、カスハラ被害従業員からの相談対応体制の整備である。それに加え、基本方針の明確化と従業員への周知・啓発、対応方法・手順の策定、従業員への教育・研修を行うことなども求められる。そして、実際にカスハラが発生した場合は、企業は事実関係を正確に確認・対応し、従業員へのケアなど配慮を行い、再発防止などに努めるとされている。

 東京都の条例のガイドラインもほぼ同様の対応を企業に求めているが、東京都の場合、条例で明確にカスハラを禁止し、企業だけでなく顧客や従業員が果たすべき責務にも踏み込んでいる点は画期的だ。

 いずれにしても、企業はカスハラが発生した際にどう対応するのか、どう従業員を守るのかを自ら定め、実践する必要がある。ちなみに、手に追えない場合や暴力・恐喝など明らかに法に触れた言動があった場合には、厚労省のマニュアルも東京都のガイドラインでも弁護士や警察との連携を行うよう述べている。

犯罪レベルのカスハラは警察が対処してくれるのか?

 さて、こうした都の条例や、国の法改正に基づき、企業がカスハラ防止対策を整備したとして、外国人観光客の迷惑行為に応用する場合、最初に問題となるのが、「それがカスハラかどうかの判断」だろう。

 厚労省のマニュアルでも都のガイドラインでも、カスハラとは何であるか、カスハラの判断基準はどこか、といった内容にかなりの分量を割いている。これはつまり、カスハラではない顧客の正当な要求とカスハラとの判断がわかりにくいことを意味する。

 日本人によるカスハラ以上に外国人の場合は難しい。日本のルールを理解していなかったり、文化の違いから正しいと思って行動していたりする場合もあるだろう。あるいは言葉の壁によって、指示がわからなかったり、要求を繰り返したり、その場に居座ったりする場合もあるかもしれない。カスハラの対応よりも、適切なコミュニケーションが有効な場合もありそうだ。

 また、カスハラであるかの判断以外にも、外国人観光客の対応の難しさがある。それは最終的な連携先である、弁護士や警察が対応してくれるのかという問題だ。

 報道を見る限り、外国人の迷惑行為では警察などの対応が後手に回ることが多い印象だ。企業の顧問弁護士にしても、外国人の迷惑行為への対応が得意な弁護士は限られてしまうかもしれない。

 厚労省のマニュアルでも都のガイドラインでも、対策の主体を企業としつつも、最後の防波堤を弁護士や警察としているため、そこでの対策と企業との信頼関係は不可欠だ。

 もしかすると、企業単独ではなく、地域の商工会や業界団体などを介して、カスハラ対策のための警察との連携を考え、体制を強化する取り組みなども必要なのではないだろうか。

企業は様々な場面を想定し、主体的にカスハラ対策を

 最後に、観光業界の企業が今後、カスハラ防止対策を策定する際の注意点を述べたい。

 カスハラ防止対策を有効なものとするためには、柔軟で多様な思考によって、さまざまな事態を想定することが求められるだろう。

 外国人は国によってルールも文化や価値観も多様だ。いかなる場面にでも対応できる体制でなければ、現場の混乱は避けられない。

 観光客だけでなく、労働者でも外国人は増えており、また、外国人が赴く場所も観光地や交通機関に限ったものではないため、観光業界に限らず多くの企業に、外国人を含めたカスハラを想定した対策が必要となりそうだ。

 もちろん、外国人の場合でも日本人の場合でも、ただちにカスハラと決めつけず、コミュニケーションを重視して自社サービスを改善する姿勢は今後も必要となる。

 毅然とした対応を取るにしても、しっかりしたコミュニケーションを取るにしても、主体となるのは、厚労省のマニュアルを見ても都のガイドラインを見ても企業自身となっている。まずは、何をカスハラと考え、どう対処するのか、自社の考えを明確にするところから始めたい。

寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役

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