7.子育て・教育・福祉に予算を割くことは、重要だが・・・
さて、観光目線で自治体予算を見ていくと、かなり構成比率が低いことが分かる。多くの自治体は、子育て政策や子供の教育、福祉事業に多くの予算を割いている。23区の中でも江戸川区と荒川区は、子育て政策に過去から積極的で、医療費の中学生までの無料化は、東京都内でも一、二位を争う自治体である。それ故、若年層の転入人口も増加傾向にあるという。
次世代の子供たちを育てるという観点から考えると、子育て・教育に多くの予算を割くことは、重要な施策と言える。子供たちが成人し、育った自治体に住まうことを選択すれば、その自治体の未来も明るいものとなる。また、高齢化社会において、福祉事業をきちんと整備することは、自治体の大切な責務でもある。
しかし、観光がもたらす「地元の宝物地域の価値向上」「地域消費の拡大」「将来を見据えた地域蓄財」という観点から考えると、少子化する若年人口に重きを置くより、交流人口を増加させることによる経済効果に傾注した方が良いのではないだろうか。
8.旅行会社やJR・航空会社の本気が求められる!
次に、旅行会社やJR・航空会社が首都圏マーケットを対象とした商品をどのように投入しているか、検討してみたい。
分母数(入込観光客数)が大きい大都市圏は、着地型観光コンテンツをメインとしたキャンペーン等を仕掛けても芳しい伸長率を得ることが難しい。そのため、スケルトン型商品(宿泊と交通機関のみ)に特化し、旅行会社やJR・航空会社は重い腰を上げることがほとんどない。これは、地方都市のように分母数が小さい地域は、キャンペーン等によって、高い伸長率を得ることができるので、地方都市がキャンペーンの対象とされてきた過去が物語っている。
もし、JR各社が進めるディスティネーションキャンペーン(DC)を東京を対象としたならば、都内の市町村は、こぞって着地型観光コンテンツ探しを進めるだろう。積極的な自治体と消極的な自治体の差がもっと広がるものと考えられる。既にオーバーツーリズムである東京にもっと観光客が訪れたら、などと考えがちであるが、DCは、基本的に日本人を対象としたキャンペーンであるから、日本人観光客の底上げにつながる有用な施策となるだろう。
9.大いなる田舎の広域連携のすすめ
この写真をご覧いただきたい。何の変哲のない三差路に思われる方が多いでしょう。
ここは、台東・文京・荒川区の区界。また、横に走る道路は、石神井川が王子から分かれた谷田川の暗きょだ。閑静な住宅街、このような場所が観光コンテンツに化けていくのだ。
何故だろう?
「区界」はボーダーツーリズム、「暗きょ」はインフラツーリズムやヒストリカルツーリズムにつながっていく。前回も述べた町歩きという観光コンテンツ化によって、その地域に交流人口が増加すると
<メリット>経済効果(域内消費)拡大 <デメリット>・・・観光公害(ゴミや騒音)拡大
という事象が発生する。
そのため、観光コンテンツ創造の一番重要なことは、地域住民との合意形成である。メリットがデメリットを上回れば、充分に合意が得られるだろう。そこに、地域住民の協力や参加意識も生まれる。例えば、町歩きのガイド養成につながる。大人だけでなく、児童生徒も参画することができれば、将来に向けた継続的な取り組みとなる。また、地域の食堂に予約が入れば、地元消費が伸びる。
地域住民も、地元知識の深耕や域内消費の拡大、教育意識の芽生えなど、多岐に渡る「モノ」「コト」「ヒト」の豊かさにつながっていくのである。まさしく、地域の民度を高める効果があるのだ。
新宿や渋谷、池袋などの繁華街を除くと、東京23区は「大いなる田舎」であり、地方都市と変わらない。特に城東・城北地区は、その最たるものである。全国区の観光地は、無いに等しい。
しかし、磨けば光る原石は、豊富に存在するのである。その磨き上げには、単独行政では難しいこともあり、広域連携が必要となってくる。例えば、台東・文京・荒川区の結節点である「谷根千」は、都内でも屈指の町歩きのメッカとなっている。また、台東・墨田・江東区は、スカイツリーをフックに広域連携を進めている。
行政区分によって分断するのではなく、単独ではできないことを広域で進める。このことが、これからの観光の未来を造っていくと言っても過言ではないだろう。それを取りまとめるのが、東京都の役目である。