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地域創生撮影活動 第三章 写真が語る地域の魅力『伝わる力』

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四国の秘境蔵川郷

蔵川郷は、愛媛県大洲市の南の端に位置する。典型的な盆地でど真ん中をくねりながら伊予灘へと向かう肱川(ひじかわ)の支流「橡元川(とちもとがわ)」の上流で、尾根を超えたら肱川上流の西予市野村町だ。

三島神社を中心に形成されている棚田
三島神社を中心に形成されている棚田

海抜の高いところにあるため、山々の尾根などを上手く活用して棚田が形成されている。かつて、背後の山々の斜面がほとんど棚田であった形跡が残っている。「水」が豊富であったことが地域形成の源になったのだろう。

だが、ここ数年で急速に人口が減少し地域全体でも数百人。当然棚田を守り続けていくだけのパワーもなくなりつつあり厳しい状況だ。

撮影のきっかけ

2016年5月14日、秋の「新嘗祭」に向けた「御田植え祭り」が行われることになった。そして、地元の高校生たちが早乙女衣装に身を包み田植えをする様子の撮影に携わった。このことがそもそもの巡り会いだった。 多くのギャラリーが詰めかけた「御田植え祭り」だったが、昔からの習慣などを地域としてとても大切にされていることがレンズを通して感じられた。それ故、この地域をもっと撮影してみたいと思ったのだ。

「御田植え祭り」2016年5月14日撮影
「御田植え祭り」2016年5月14日撮影

さて、尾根の中心に位置する三島神社では、4月には「愛媛県無形民俗文化財」に指定されている「山鳥坂鎮縄神楽」による神楽が奉納される。伝統を受け継ぎ次世代へと伝承していくためにも地域を挙げて取り組んでいる様子は、正に百年先へ遺したいと強く感じたものだ。

山鳥坂鎮縄神楽による春の奉納神楽
山鳥坂鎮縄神楽による春の奉納神楽

田植えの時期と撮影

例年5月のゴールデンウィーク前に田植えが始まる。肱川支流の橡元川沿いに本流付近から昇ってくる春の朝霧が棚田を覆い尽くして渦を巻くようにUターンして再び本流へと下って行く。さらに、正面が東方向であるため朝陽が昇ってくるというたまらない景色に出会うことができるのだ。

春の朝霧が下って行く頃に日の出を迎える
春の朝霧が下って行く頃に日の出を迎える

2016年当時、大洲市の観光まちづくりとしては第一期の仕上げにさしかかっていた頃。そのため、地域情報素材としての写真撮影を積極的に進めていた。言わば秘境の絶景のような素晴らしい景色と出会い、蔵川郷に育まれてきた生活文化に接することで、撮影を通して深掘りをして行く作業を進めた。

稲刈りと秋まつり

田植えが早いので当然稲刈りも早い。お盆明けに始まり9月初旬にはほとんど終わって「稲木」が組まれ天日干しされている。この頃から次第に秋も深まり、同時に秋の朝霧に包まれ始める。

初秋の朝霧(8月下旬頃から)
初秋の朝霧(8月下旬頃から)

黄色に染まった水田を覆う朝霧の切れ間から朝陽が現れる様は絶景だ。それは、田植えの頃とはまた違った感動が胸をよぎる。

こうして、収穫を終え準備万態整え、いよいよクライマックスの秋祭りが開催される。この蔵川郷も宇和島藩が治めていたことからなかなか立派な牛鬼文化が残っており「お成り」の先頭を担う。「お成り」が神社へ戻ってきたら、地域の方々も集まって神社を取り囲み「六つ鹿」と「獅子舞い(かなり暴れる)」の演舞が行われ、最後は餅まきで終了する。この間、地域の方々は神社を取り囲んだまま動かないから凄い。

秋まつりの「お成り」
秋まつりの「お成り」
「六つ鹿踊り」、この後獅子舞い
「六つ鹿踊り」、この後獅子舞い

このような無事の収穫を地域を挙げて祝い、無病息災を祈る秘境の文化は、歴史的な意味合いも含めて、あらかじめ学習しておくことが撮影には求められる。私の言う地域創生撮影には、こうした前提をしっかりとこなした上で、ファインダーを覗くことで情報素材としての価値を高めることができる。

蔵川郷の夕暮れ
蔵川郷の朝焼け

撮影への向き合い方と街づくり

伝えるより伝わる写真。それは地域を「売る」ということよりも地域を「買っていただく」ことへとつながる。つまり、多くの観光客の皆様方を集める仕組みより、「気に入ってきていただく工夫と努力」が地域間競争を勝ち抜くカギなのだ。写真は、そこに存在すべき重要なコンテンツであることを認識しておかなければ、地域創生撮影活動は成立しない。

現在進められている街づくりにおいては、デジタルに頼るばかりでアナログの重要性を置き去りにしているように感じる。勝者は、デジタル時代のアナログ商売のように思える。

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=14

寄稿者 河野達郎(こうの・たつろう) 街づくり写真家 日本風景写真家協会会員

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