冬場になると、その名前がニュースに流れる。豪雪で有名となった肘折温泉は、山形新幹線の新庄駅から車で30分ほどの大蔵村にある。また、途中には松尾芭蕉が最上川の乗合船に乗ったと言われる本合海も近く、そこから山に向かって進む。
肘折温泉は、「肘折カルデラ」と呼ばれる直径2kmのカルデラの真ん中。そして、温泉街の一角にある「小松渕」は、トロイデ型火山の噴火口が渕になったものだ。活火山のマグマだまりの上に温泉街は形成されている。そのため、温泉街に入る前にヘアピンカーブの坂道を下り、一気にカルデラの底に入っていく。
温泉湯治を体感する素晴らしい空間
温泉街は、出羽三山のひとつ「月山」の麓の銅山川沿いに広がる。そして、カルデラのくぼ地であるため、町全体が一つの旅館と言っても過言ではない。また、湯治客が闊歩する旅館街は、外湯や土産屋がそれぞれの旅館と共存しながら立ち並んでいる。一方、バス通りにもなっているメインストリートには、毎朝五時半から市が立つ。優に百年を超え1917年から始まった。この歴史を誇る朝市には、最盛期50人もの行商人が商いを続けていた。それ故、肘折温泉の朝は早い。時間ともなると数多くの宿泊客が出向いてくる。これだけのお客さまが宿泊していたのだと、びっくりするほど数だ。
冬場ばかりが有名となっているが、夏場のイベントも素晴らしい。それは、町全体がパレットに描かれたように「肘折の灯」というもの。町中や旅館の内外に手作りの行灯が飾られる光景は、まさしく「肘折温泉旅館」という巨大な一つの館を醸し出す。
交通至便な温泉は、日本を代表する温泉地として人気の的である。しかし、古くからの風習である温泉湯治を体感できる肘折温泉は、長逗留したいと思う温泉地の一つである。
(2016.08.06.~07.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長