かしこい、おトク、旅⾏アプリ『NEWT(ニュート)』を運営する令和トラベルは、AI 技術を積極的に取り⼊れて事業を推進している。同社は、4月30日に⽇本語対応を開始したばかりのGoogle NotebookLM(ノートブック・エルエム、NLM)「⾳声概要」機能を活用した対話型Podcast(ポッドキャスト)旅番組 「NEWT Travel Cast 〜旅する思考〜」(https://creators.spotify.com/pod/profile/newttravel/)の配信をスタートした。この番組の狙いや、AI活用における今後の展望をコンテンツグループの森川晏里 NEWT Travel Castプロデューサー/AI推進リーダーに聞いた。(取材日:2025年5月9日)

まず、対話型ポッドキャスト旅番組 「NEWT Travel Cast 〜旅する思考〜〜旅する思考〜」とは。
旅⾏アプリ「NEWT」では、NLMの「⾳声概要」機能を活⽤し、新たな⾳声メディア「NEWT Travel Cast 〜旅する思考〜」をスタートした。番組は、「旅を通して世界を知り、考え、楽しむ」ことをテーマにした知的エンタメポッドキャスト。最新の渡航情報や現地のトレンド、⽂化的背景など、旅先の魅⼒を深掘りしながら発信していく。
Googleが提供するAIノートアプリであるNLMの⾳声概要機能(⾳声まとめ機能)は、4月30日に⽇本語を含む50以上の⾔語で利⽤可能になった。NLMは、ユーザーがアップロードしたドキュメントやメモ、⾳声などをもとに、AIが重 要な情報を⾃動で要約‧整理‧解釈してくれる⾰新的なツールだ。

ポッドキャストを使った企画の実施に至った経緯は。
以前から社内では音声メディアへの取り組みを模索していたが、人の声の録音や編集に多くの工数がかかることから、なかなか実現には至っていなかった。しかし今回、NLMのリリースが社内のAI活用チーム内で話題となり、それをきっかけに音声メディアの実用化へと踏み出すことができた。
NLMは対話形式でも非常に聞き取りやすく、これまでの音声生成AIツールと比べても格段に自然な音声表現が特長。もともとSNSの運用に加え、ラジオやポッドキャストといった音声コンテンツへの展開にも関心を持っていた中で、NLMのリリースは大きな転機となった。
森川さんの普段の仕事内容は。
日頃からSNS全般に幅広く取り組んでおり、Instagram(インスタグラム)では5つのアカウントを運用しているほか、TikTokとLemon8にそれぞれ2アカウント、さらにX(旧Twitter)やYouTubeのアカウントも展開している。多数のSNS媒体を運用する中で、コンテンツ投稿にあたっては、常に最新のトレンドをいち早くキャッチし、タイムリーな情報発信を心掛けている。

令和トラベル・NEWTにおけるAIの活用状況について。
旅行アプリ『NEWT』を運営しているが、アプリのサービスの中にネームチェッカーがある。予約をする際に名前の入力を行わなければならないが、以前はタイピングミスが何度か報告されていた。これを解決しようと、AIの力を借りることとしてネームチェッカーを導入した。例えば、パスポートの写真を撮り、情報を読み込める。パスポートの情報と登録した名前に相違があればアラートで知らせてくれる。導入後は、ミスがかなり改善された。
公式YouTubeチャンネルにもAIの活用を始めた。発表した新たな音声メディアにも登場するが、AIトラベルリポーターとして「Emma(エマ)」をデビューさせた。エマは、実際に地域の魅力などを話してくれるのだが、アバターをゼロから作り上げた。われわれが理想とするリポーターで、チームでゼロからビジュアルや声を作り上げた。5月のゴールデンウイーク(GW)後にリリースを発表したが、反響も大きかった。
令和トラベルは、単に旅行会社ではなく、トラベルテックとしてテクノロジーを活用することをミッションとして掲げている。設立当初からAIだけでなく、DXを含めたすべてにテクノロジーを挟んでいる。私たちの業務フローのほか、カスタマーに向けても工数を削減してより楽しく海外旅行にいけるようにフローを整えている。昨年からは、AI企業との資本業務提携を行うほか、社内でAI推進を担うチームを立ち上げるなど、毎日新しい情報をキャッチアップしている。

AIチームはどれぐらいの規模で運営しているのか。
現在、会社は100人規模となっている。AIチームには「赤鬼」という名前を付けているが、約20人がメンバーとして関与してAIやテクノロジーに携わっている。代表の篠塚(孝哉)はAIをものすごく使っており、調べものに合わせてAIを使い分けている。
「NEWT Travel Cast 〜旅する思考〜」は今後、どのような内容と投稿していくのか。
5月2日から配信を開始した。最初は、GWやひとり旅をテーマに取り扱った。ポッドキャストの視聴者は年齢層が高いと聞いていたが、配信後のデータを見ると20代、30代など若い世代にも聞いていただいている。若い世代にも響くようなテーマを用意していきたい。
具体的な内容で言うと、海外の楽園リゾートや、ごほうびとして食べたいグルメ、歴史によった町のストーリーの紹介などを考えている。また、1月からは国内ホテル事業をスタートしており、国内外の旅行ガイドといったものも投稿していければと考えている。
他のSNSとの違いは何か。
SNSでは、インスタグラムなど視覚的におもしろそう、素敵だなという感情に響きかけるものが多い。ポッドキャストは音声だけになるので、深く考えるきっかけや、聞きながらイメージを湧かせて現地に行きたい気持ちを醸成できるような内容づくりを意識している。今後は、火曜・金曜の週2回のペースでの投稿を予定している。
タイトル「NEWT Travel Cast 〜旅する思考〜」はどのように決めたのか。
当初は、視覚に重きを置いたSNSが多いが、耳を使い考えられる媒体でターゲットも絞った媒体を作りたい思いがあった。「旅する」というワードを入れているが、旅行感がありワクワクするほか、単純に旅行に行きたい、行ってほしいではなく、広い世界を見て考えるきっかけになるようなコンテンツを生み出していきたいという気持ちを込めている。
台本はどのように作っているのか。
実は、台本自体もAIに作ってもらっており、上がってきたものを手直ししている。内容は、必ずオープニングとクロージングを設け、あとはテーマに沿った情報や旅行アプリ『NEWT』の紹介、ツアー情報などを入れ込んでいる。単純に情報発信だけに限らず、サービスの紹介などもマルチに入れられる媒体を目指している。
挑戦したい企画はあるか。
展望にはなるが、現在は情報に特化した媒体になっているが、もっとエンターテインメントに寄った投稿も考えてみたい。例えば雑学系など、集中して聞くというよりは、ぼーっと聞いたりもできるコンテンツを織り交ぜていけば飽きずに聞けるコンテンツになるはずだ。また、インスタグラムでは質問箱を設けて実際に視聴者が情報について呼びかけているが、ポッドキャストについてもXやInstagram等でアンケートを実施して視聴者が気になる情報コンテンツを増やしていきたい。
また、各界で活躍する専門家が旅をナビゲートする新プロジェクト「NEWT Wonder」の提供も開始している。事前に旅先の情報を提供するほか、現地での様子を発信するコンテンツを通じて、価値を高めていきたい。さらに今後は、国内ホテル事業の認知拡大を図るため、ホテルや自治体と連携しながら地域の魅力を紹介するなど、リアルとデジタルを融合させた新しい企画にも取り組んでいきたい。
ポッドキャストの多言語化は。
考えている。代表の篠塚からも多言語へのリクエストをもらっている。ある程度はAIで生成できるはずだが、システムが整った段階で過去のエピソードなども交えながら、英語、韓国語、中国語などの対応をしていきたい。
現在における令和トラベル、NEWTの客層は。
現在、半数以上がU29(29歳以下)世代で、若年層から支持されている。現在は、ファミリーやビジネスなど幅広い顧客の獲得に力を入れているが、ポッドキャストの取り組みがこれまで取り切れていなかった層にもリーチできればと期待している。
AI活用におけるその他展望について。
AIトラベルリポーターのエマちゃんをもっとマルチに活躍させてあげたい。現在露出しているのはYouTubeが中心だが、インスタグラムや縦動画にも露出し、より知ってもらえる機会を増やしたい。
社内の業務においてもAIをより活用することで、工数の削減や予約対応の効率化といったカスタマーサポートなど、あらゆる面で最適化、効率化を図っていく。
最後に。
最近では、若者を中心に、実際に海外旅行へ行かずとも、写真や情報を見るだけで満足する人が増えている。令和トラベルは、「あたらしい旅行を、デザインする。」をミッションに掲げ、旅行アプリ『NEWT』の運営など、旅行関連事業を展開している。今後はAIの活用を通じて、想像力を刺激するような新しい旅のスタイルや、世界との関わり方を提案していきたい。
※森川晏里(もりかわ・あんり)=㈱令和トラベル コンテンツグループ NEWT Travel Castプロデューサー/AI推進リーダー
聞き手 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通