シニア人材は即戦力となることが期待され、教育・育成を多くは必要としないことから、人材不足の業界ほど重宝されやすい。
観光業界も人材不足は深刻で、外国人人材の確保や若手への啓発・アピールと並行して、シニア人材も重要な戦力であり続けている。
とはいえ、可能であればシニアより若手を採用したいという事業者や、シニアを採用することに不安や戸惑いを感じる事業者も少なくないだろう。
体力や健康の懸念もあるかもしれないが、トラベルテックなどデジタル化が進む観光業界で「シニアはデジタルに弱い」という考えから、シニア採用に反対・消極的という経営者や人事担当もいるのではないだろうか。
確かにデジタル、ITが苦手な人の割合は、若手に比べてシニアでは増えるのは間違いない。しかし、デジタルが苦手なシニアが多いとしても、実は会社側の対応が事態をより深刻にしている場合があるのだ。
今回は、もしかしたらシニアのデジタル苦手意識をさらに強めてしまっているかもしれない会社側のNG行動について解説する。
シニア人材を「デジタル化」から取り残してはいけない
観光業界でもオンライン予約やEチケット、キャッスレス決裁の普及は広範囲におよび、ホテル旅館やアクティビティの利用の場面でもIT化が進み、トラベルテックという言葉もよく聞かれる。2018年の旅館業法改正で、ビデオカメラによる顔認証等でフロントを設けなくともよくなったことなどは記憶に新しい。もちろん、旅行客とSNSは切っても切れない関係にあり、施設内のWi-Fiなどインターネット設備の充実も欠かせず、集客でもデジタルマーケティングが必須となっている。
また、観光業に限らず、従業員の勤怠や業務の管理もデジタル化が進んでいる。
こうしたデジタル、ITが苦手なシニアのために「あなたは紙でもいいよ」「あなたはこの機械触らなくてもいいよ」などと、シニアのみに特例を認めることがあるかもしれない。
シニア社員をデジタル対応から外す特例は、一見、歩み寄った配慮のようにも見える。しかし、これが大きな間違い、やってはいけないNG行動だ。
効率が落ち、シニア人材の生産性が上がらないといったことはむしろ些細な問題で、それ以上に、こうした「デジタルの輪」からシニアを外すことによって、一体感がなくなり、疎外感を与えることが大問題となる。
仕事の「デジタルの輪」から外されたシニアは、当然いつまで経ってもデジタル面での成長をしない。
コミュニケーションや価値観も自ずと「デジタルの輪」の中のメンバーとはズレが生じる。そうすると、若い世代からますます隔絶し、孤独感を持ち、他にもシニアが多い状態であればシニア同士のアナログなコミュニティや価値観にさらに固執するようになる。
今どき、60代でも70代でもLINEなどは当たり前に使用していることが多い。しかし、ビジネスチャットや業務管理システム内でのメッセージを「シニアには大変だろう」と、シニア社員に使わせないと、さながらLINEのグループチャットから自分だけ仲間はずれにされたような感覚を、そのシニアに味わわせることになる。
シニア社員にも知識習得に積極的な人は多い
シニア社員への特例がかえってマイナスになるのは、デジタルの内容に限ったことではない。
例えば、資格や技術など、新しい知識習得を社員が目指す時、シニア社員を除外することはないだろうか?
観光業ではインバウンド旅行客の増加や海外人材の活用などで外国語のスキルのニーズは依然として高く、また、2018年には「地域限定旅行業務取扱管理者」の資格が新設されたため、社員向けにそれらの勉強を推奨する会社もあるだろう。そんな時シニアだけ「あなたは別にいいよ」と除外していないだろうか。
確かにシニアが今更新たな知識を習得しても、若手に比べれば活躍できる期間も短いため、会社のメリットも少なく、また、覚えることをなるべく増やさないようにしようという配慮なのかもしれないが、これもデジタルと同様に仲間外れのような感覚をシニアに与えるだけでなく、社内の共通の話題・価値観を奪ってしまいかねないので要注意だ。
実はもう既に、「シニアはデジタルが苦手」とか「シニアは新しいことを覚えたがらない」というのは単なるバイアス・思い込みと言っても過言ではない。むしろそうしたバイアスで、シニアのチャレンジを阻害してしまうと、やる気を削ぐだけでなく、孤独感・疎外感が増してしまうので注意が必要だ。
寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役