前回の映画誘致の延長線で、今回はインド映画撮影誘致でのお話をさせていただきます。
2013年、映画撮影誘致のために大阪フィルム・カウンシルのメンバーとして、インドのムンバイに訪問しました。インドには映画の集積地として有名な場所が2か所あります。一つは、ムンバイ旧地名のボンベイ、「ボンベイ+ハリウッド」の造語で俗称「ボリウッド」。もう一つは、インドのベンガル地方・トリガンジの地名より「トリガンジ+ハリウッド」で俗称「トリウッド」です。今回は、よりメジャーな「ボリウッド」を選択し現地で調査と営業をしてきました。
インド映画で望まれること
当時のインドでの映画事情は、年間1,200本の映画が上演・制作、映画の影響力は絶大でした。そして、その代表事例はスペインをロケ地とした映画があります。この映画の影響で、インドの方々が年間7万人もスペインを訪問したとのことです。その際、スペイン側は、撮影協力として既に終わった奇祭であるトマトを投げ合うお祭りの「トマト祭り」を映画のロケのために再現したとのことです。
また、インドでの映画以外にも影響力の高いメディア作品はアニメです。日本企業もインドでの販路拡大にアニメを活用しています。人気番組の『SURAJ』は、国民的なスポーツであるクリケットを題材にライバルとの友情を描いた作品です。これは『巨人の星』をベースに作成されました。冒頭のシーンで、ANAの機影が町を眼下に空港に向って飛行する場面や主人公がSUZUKIの自動車で現れるシーンが映し出されます。潜在的に広告が入っているのです。

さて、インドでの映画の鑑賞の仕方も独特で娯楽の王道という感じがします。それは、上演が3時間~4時間の長帳場。そして、途中に休憩が30分ほどあります。その間は、次回上演作の紹介や音楽が流れ、各自が音楽に合わせ一緒に踊ったり、歌ったりして楽しむスタイルです。また、料金も朝から晩まで上演する中、上演する時間によって料金が変わるシステムとなっていました。

具体的に何ができるのか
ムンバイでの映画撮影を誘致するための訪問先は、ANAムンバイ支店やムンバイ商工会議所です。また、映画関係先としては、映画監督や脚本家、映画スタジオ、映画撮影現場、映画館などが対象となりました。直接お会いして、撮影に際して日本側に何を協力して欲しいか聞き出し、協力できることをすり合わせるのが目的でした。そこで要求されたのは、まずは「資金的な援助がどの位あるのか?」「撮影に際しての大型機材や事前申請を取り計らってくれるか?」ということがポイントでした。資金援助に関しては当時なかなか予算がなく、インド側の要望には沿えませんでした。しかし、撮影に関しての手配や申請については便宜を図ることを理解していただけました。

次の段階は、実際にキーマンとなりうる映画関係者を日本に招聘することです。これは、大阪フィルム・カウンシルと神戸フィルムオフィスが連携協力しました。そして、撮影やシナリオ作りのヒントとなるべく、ご提案しました。実際にムンバイより、大阪府と兵庫県神戸市へ事前視察に映画監督・脚本家・プロデューサーを招聘することができたのです。

選ばれるためのポイント
招聘先のポイントは、インドの方々が知らない日本ならではの土地・景色・風俗習慣などを中心に案内することです。例えば、大阪府では、棚田や茅葺の家・道頓堀・黒門市場・ふぐ料理・相撲稽古など。また、兵庫県では、異人館・明石海峡大橋・元町などが対象となったのです。
撮影中の質問に「明石海峡大橋から車が落とせるか?」などもありました。合成なら可能でしょうが、実際に落とすことはとてもハードルが高い内容でした。

また、夜にはインド領事館の協力を得て、公邸で招聘されたゲスト達と食事会も催しました。当時の領事館長は、ヴィカス・スワラップ氏で『スラムドック$ミリオネァ』」の作者。そして、訪問者は、既にインドでの作品を発表されていたカビール・カーン氏などでした。
富裕層の絶対数は最大級
日本での撮影は、残念ながら多くの本数には結び付きませんでした。しかし、大阪での撮影に1作品の誘致には成功しました。

このようにインドでの映像コンテンツが、ライフスタイルにも多大な影響力があります。また、人口12億人の内、日本訪問可能な富裕層は人口の1%程度。しかし、少なくとも1,300万人が対象となりうる有望な市場には間違いないと思います。今後、インド映画での日本での撮影が増えれば、自ずから訪日者数も増加されると期待されます。

これまでの寄稿は、こちらから(https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=4866)
寄稿者 梅阪雅雄 合同会社GO-ON 代表