教育の現場は今、かつてない転換点を迎えています。学力や偏差値だけで未来を測る時代は終わりを告げつつあり、AIやグローバル化が進むなかで、教育政策でも「生きる力」や「非認知能力」の重要性が繰り返し強調されるようになりました。地域社会を学びの場とする動きも、そうした文脈のなかで加速しています。
このような流れの中で、“探求心を育てる”という新しい学びのかたちが静かに、しかし確実に広がりを見せています。これは旅行で考えると、例えば観光地を巡るだけの旅行ではなく、地域の人・仕事・文化との接点を通じて、深い自己理解と社会的な視野を育むような体験です。
IQではなく、EQを育む学びへ──教育経済学の観点から
近年、教育経済学の分野で注目されているのが「非認知能力(EQ)」です。これは数値化できる学力(IQ)とは異なり、自信、共感力、挑戦心、自己決定力といった、人が社会の中でしなやかに生きるために必要な力を指します。
非認知能力は、家庭や学校だけではなく、実社会との接点の中でこそ育まれるものだとされます。多様な価値観に触れ、自分とは異なる人々と向き合うことで、人は初めて「自分が大事にしている価値観は何か」「どんな未来を描きたいか」を考えることができるのです。
国も非認知能力や、教育における地域活動の重要性を訴えています。令和5年6月に閣議決定された「第4期教育振興基本計画」では、「持続可能な社会の創り手の育成」および「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が基本コンセプトとして掲げられています。計画では、幸福感や学校・地域とのつながり、利他性や協働性といった資質・能力の充実が重視されており、その実現には自然体験や集団宿泊活動など、多様な「体験活動」の充実が不可欠であると明記されています。あわせて、非認知能力の育成も重要な視点として位置づけられています。
Blue Family Project.──地域で生きる“かっこいい大人”と出会い、自分に向き合う7日間
こうした国の方針も踏まえ、当社では「生きる力」や「社会との接点」、そして「自分自身の未来を主体的に描く力」を育むことを目的に、Blue Family Project.を企画・開発しました。Blue Family Project.は、都市部に暮らす中学生が、全国各地の地域で7日間暮らし、地域で本気で働く大人たちと出会う“教育型ツーリズム”です。
2024年は富山・北海道(芦別)で開催。参加者は地域に滞在しながら、林業や養鶏、伝統工芸など、地域に根ざし活躍している”かっこいい大人”に出会います。
本プログラムでは、地域で本気で生きる“かっこいい大人”との出会いや、空き家問題・人口減少・農業といった地域課題への直接的な現地現物を通して、中学生が自ら感じたことや自身の想いと向き合い、この先の未来に前向きな視点を持てるよう創意工夫を重ねた原体験プログラムとなっています。
地域が教室になり、出会った人が先生になる時代へ
「生きる力」「社会との接点」「自分自身の未来を主体的に描く力」を養うべく、本プログラムでは下記3つの特徴があります。
特徴①:どんな体験をするかよりも、どんな”かっこいい大人”に出会うか
学校や家庭以外の“かっこいい大人”との出会いをメインにプログラムを組んでおり、多様な価値観や生き方を実感しながら、現地でしか体感できない音・におい・手触りなどの体験を通じ自らの人生観を広げるきっかけをつくります。
特徴②:あえて「負荷」をかけて、自分で考え抜く力を育てる
参加者を「お客様」や「子ども」「教えてあげる相手」として扱わず、一人の対等な人間として向き合います。参加者は7日間という、中学生にとってはとても長い期間のなかで等身大の自分での失敗や挑戦を通じて、自分の頭で考え抜く力や社会性を育みます。DAY6では、自身でこれまで感じたことや想いをプレゼン資料に書き出し、聞き手に伝えるための1人1プレゼンテーションを実施してもらう大試練を設けています。
特徴③:過去〜現在に向きあい、最後に未来を描く7日間
途中、自らの過去を思い出して、強み、弱みなどを書き出して自身を客観的に知る機会を設けています。また、最終日には「10年後の今日、どんな1日を過ごしているか」問いかけ、発表してもらいます。自らのこれまでに向き合い、具体的な未来をイメージすることで、これまでの人生を経ての「自身の未来」に対する希望や推進力を高めます。
教育の中心が、家庭や学校の中だけに留まらない時代。社会そのものが学びの場であり、地域は“生きた教材”になり得る。Blue Family Project.が提示しているのは、そんな新しい「共育」といえる学びの可能性です。
▼Blue Family Project.
https://bluefamilyproject.grass-family.co.jp/
寄稿者 荻野孝史(おぎの・たかし)㈱Grass Family. 代表取締役兼CEO