一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会は、観光地域づくり法人(DMO)として、天王洲アイルの観光振興と地域活性化に取り組んでいます。前回は、都市型観光地として国内外から選ばれるエリアへと成長していくために、「水辺とアートの街」という天王洲アイル独自のブランドをさらに磨き上げる必要性について述べました。今回は、観光デスティネーション化に向けた具体的な取り組みとその進捗についてご紹介します。
天王洲アイル観光の現状分析
天王洲アイルを「ここに行くこと自体が目的になる場所=観光デスティネーション」として確立するには、立地や文化資源といった地域特性を最大限に活かす必要があります。まずは、天王洲アイルの魅力(強み)、可能性、そして課題を整理します。
天王洲アイルの魅力(強み)
1. 運河に囲まれた水辺空間が都市の中に自然との共存を実現している
2. 高層ビルと倉庫などの低層建築が調和する、洗練された都市景観
3. 街中にアート作品が点在し、独自の景観美を創出
4. 水辺のライトアップによる幻想的な夜景
5. WHAT MUSEUMやTERRADA ART COMPLEXなどの、多彩なアート文化施設
6. 運河沿いに整備されたボードウォークやカフェ・レストランによる快適な滞在環境
7. 桟橋を複数有し、水上交通の発着点としての機能を持つ
8. 天王洲アイル駅・品川駅・羽田空港といった主要交通結節点からの良好なアクセス
ウィークポイント(課題)
1. 渋谷・浅草など他の観光地と比較して知名度が低い。
2. 平日のオフィスワーカー依存が強く、夜間や週末は閑散としがち
3. 観光客向けの案内等、観光インフラが未整備
4. 観光目的となる資源の絶対数が不足している

観光デスティネーション化に向けた取り組み
天王洲アイルは、観光地としてのポテンシャルはあるものの、未開発の側面も多く、「観光地化=デスティネーション化」に向けた魅力の創出と発信が求められています。
当協会は、地域住民やオフィスワーカーとともに天王洲の魅力を再認識し、まちの素晴らしさを育む場として、2016年から「天王洲キャナルフェス」、2019年から「天王洲アートフェスティバル」を継続開催しています。こうした取り組みにより、「水辺とアートのまち天王洲」としてのブランディングが都市部を中心に徐々に浸透し、近年では大型の商業イベントも開催されるようになりました。しかし、国内外の旅行者が“わざわざ訪れる”観光地へと昇華させるためには、既存資源の磨き上げに加えて、新たな観光資源の創出と仕掛けづくりが不可欠です。

「水辺×アート」を活かした観光商品の開発
天王洲アイルの特長である「水辺とアートの融合」を活かした観光商品として、最初にアートツアーを商品化しました。電動車イスや電動キックボードなどのモビリティを導入することで、体力負担を軽減しながら爽快感や楽しさを加え、より多くの層にアプローチ可能な体験へとアップデートしました。さらに、パナソニックグループが開発した観光DXツールを活用し、アバターによるガイドツアーも実現しています。観光DXの活用は、多言語(日・英・中)対応だけでなく、人手不足対策やガイド品質の均一化、運営コスト削減にも寄与しています。
しかし、観光商品としての認知度が低く、販売は振るわない状況にあります。今後は、ツアー内容の魅力やストーリー性を高め、「感動」や「おもてなし」を感じられる体験設計が重要であると認識しています。このツアーを体験した観光客が、自ら天王洲アイルの魅力を語ってくれることこそ、私たちDMOとしてのゴールです。

観光資源の拡張と東京港クルーズ
もう一つの取り組みとして、水辺の観光商品の開発があります。天王洲アイルの桟橋を活用し、天王洲アイルを一周しながら船上からアートを鑑賞した後、品川ふ頭やお台場、レインボーブリッジなど、東京湾の美しい景観を楽しむ約45分間の「天王洲アートクルーズ」を実施しています。このクルーズは、天王洲アイルのアート鑑賞にとどまらず、東京港の多彩な魅力を味わえる内容となっています。
また、このクルーズでは、有人ガイドとアバターによる多言語ガイド(日・英・中)を組み合わせたハイブリッド型の案内方式を導入しており、インバウンド観光客への対応も視野に入れた設計となっています。現在はイベント時のみの限定運航ですが、将来的には定期運航を目指して準備を進めているところです。

「心のデスティネーション」へ向けて
天王洲アイルを東京の「水辺のアーティスティックな都市」として確立するには、訪れる理由となる「物語(ストーリー)」の創出が必要です。水辺でアートを体験できる通年のコンテンツやイベントの開催、運河を活かした観光クルーズや水上交通の運航、さらには夜間景観を活かしたライトアップや音楽イベントなど、訪問者の感性を刺激する「体験型の文化発信地」としての再構築を目指しています。また、既存のワークショップや地域の飲食店との連携による「アート×食」体験など、地元資源と一体となった文化観光の深化も推進していきます。
天王洲アイルは、都市の喧騒から一歩離れた「静かで洗練された余白」を持つ希有な場所です。だからこそ、訪れる人にとっての「心のデスティネーション」となる可能性を秘めています。観光地域法人(DMO)としては、平日や夜間の価値を高めることで、都市型観光地としての魅力をさらに高め、観光振興に取り組んでまいります。
※アイキャッチは、「水辺とアートの街」 天王洲運河
寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 会長