バス運転手専門の求人サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」を運営しております、リッツMC㈱代表取締役社長の中嶋と申します。(一社)女性バス運転手協会の代表理事も兼務しております。仕事柄、北海道から沖縄まで全国のバス事業者様にお伺いし、各社ごとのバス運転手採用のお手伝いをしております。
バス運転手不足の要因とは
現状、多くの業界で人材不足です。募集をかけてもなかなか人が採用できず、求人は困難を極めています。そもそも少子化による労働人口減少で典型的な買い手市場となり、日本人の働き手が各業界で取り合いになっています。また、外国人労働者を雇用するには色々なハードルや課題があり、残念ながら外国人にとっては円安の影響が大きく、日本で働くという選択肢を選んでもらえなくなっています。
それらを踏まえつつ、バス運転手はなぜ不足しているのかを考えると、これには、さまざまな要因がありますので一概には言えません。例えば、団塊の世代の引退、規制緩和によるバス運転手需要の伸び、長距離高速バスのツーマン化、かつてのあこがれの職業からの脱落、等々です。
バスを運転するために必要な大型二種免許の取得ハードルの高さも問題です。まず、取得費用が高額であること。普通免許から取得しようとすると50万円程かかります。これは一般的な年収の方にはかなりの負担です。
そして、大型二種免許を取得できる教習所が少なく郊外に集中していること。普通免許と違い大型二種免許の取得できる教習所は、一つの県に1~4カ所程です。例えば主婦や学生が空き時間に、お勤め帰りの方が「よし!バス運転手になるのに大型二種免許を取ろう!教習所に通おう!」と思っても、日々の生活の中で往復2~3時間かけて教習所に通うというのはなかなか難しい、ということになります。
取得年齢は最短で普通免許取得後3年だったのが1年に短縮されましたが(2つの特別講習を29時間、30万円で受講する必要あり)実績を見ると、バスに関しては想定していたより利用されていません。大型二種免許の取得を後押しするには、取得費用の補助や取得できる教習所を増やすことが必要であると考えます。今よりも気楽に免許取得できる環境整備が重要です。
バス運転手採用の観点から改善すべき3つのポイント
バス運転手不足が生じるさまざまな要因がある中で、バス事業者自身の取り組みで変革を起こすことも可能です。採用の観点から改善すべき点を上げるとすると、【1】若手採用【2】女性採用【3】地元外採用の3つがポイントとなります。
1、若手採用
先程も述べましたが、少子化で若者の人口が減少しているにも関わらず、運転免許の取得者数や日常的に運転する機会も減っており、運転することを職業にするという意識のない方が増えています。
「公共交通機関が発達しているので自ら運転する必要性を感じない」というのは確かにその通りなのですが、その発想が運転手という職業の選択の壁になっていることも事実です。また、バス事業者は中途採用がメインで新卒採用という習慣がありませんでした。
毎年コンスタントに若手が入ってくるという中長期的な地道な採用の欠如が、現在のバス運転手の高齢化に起因しています。
2、女性採用
最新のデータで、バス運転手の女性比率は2.2%です。これは同じ運輸であるタクシー・トラックや、同じく男性社会のイメージが強い自衛官の割合よりも低いパーセンテージです。
この原因は、バス事業者が積極的に女性を採用してこなかった慣習にあります。諸外国では、バス運転手の男女比率が5:5というのは珍しくありません。自然の摂理により、人口は男女比率5:5ですので、女性採用をしないということは、そもそものターゲットの半分を捨てるということになります。
女性でも運転の好きな方、上手な方、乗り物や観光に携わりたい方は沢山いらっしゃいます。その方々を積極的に採用しないのは非常にもったいないです。「多様性」と言われる今の時代、固定概念は払拭すべきと考えます。
3、地元外採用
バスの中でも、公共交通機関の代表格である路線バスはまさに「国民の足」です。第2交通であり、最近のトレンドワードで言う「ラストワンマイル」の一端も担っています。
そして、地域住民の足である路線バスのもう一つの重要な役割が「地域雇用の創出」ということです。採用するバス事業者も地元の方であれば、地域の道もわかっているし、事情もわかっている、何より街に愛着がある、というメリットを考えると、地元の方を雇用したいとなります。
通勤交通費や転居費用補助、社宅の準備など経費の面から考えてもやはり地元の方が好ましいでしょう。しかし、地元の方の採用だけではもう限界であることは認識せざるを得ません。
職業に見合う最適な賃金を
今年の春闘では、全般的に賃金アップが進みました。バス事業者もかなりご努力されています。もちろん賃金は高ければ高いほど良いです。職業の品位はお金に還元されるわけではありませんが、対価として適切な価値を認めて頂きたいと思います。
特にバス運転手は、言うまでもなく「沢山の人の命を預かる職業」です。人々の暮らしを支え、日本の観光産業を盛りたて、決して大げさではなく日本経済の一端を支える職業です。誇り高いこの職業に見合う最適な賃金となることを切に願うばかりです。
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寄稿者 中嶋美恵 リッツMC㈱ 代表取締役社長 / (一社)女性バス運転手協会 代表理事