旅行情報サービス「じゃらんnet」を運営するリクルート。じゃらんnetの中の「遊び・体験」カテゴリに位置する国内最⼤級の体験予約サービス「じゃらんnet 遊び・体験予約」は、2025年7⽉1⽇にサービス開始から10年を迎えた。サービス開始以降、ジャンルや地域を問わず多彩な体験を取り扱うなど、10年間で提供できる体験に広がりを見せるが、着地観光部着地観光企画グループの柳本浩史マネジャーに現状と今後の展開について聞いた。(取材日:2025年7月3日)

――運営を始めた背景など、「じゃらん遊び・体験予約」について
「じゃらんnet 遊び・体験予約」は2025年が10周年の節目の年となった。何ができるかというと、旅先で体験やアクティビティを予約するほか、日常使いとしても、今週末のお出かけ先を探せるサービスとなっている。ウェブサイト内に掲載している施設数は2025年3月末時点で1万7912施設あり、予約可能プランは4万8872プランになる。多くのジャンルを網羅しつつ、多くの人に利用いただいている。
――過去10年の体験トレンドを振り返って
10年前を振り返るが、当時は競合を含めてアクティビティ領域での予約サービスが複数立ち上がり始めた時期だった。そこから10年のスパンで捉えると、これまでにオンラインで予約できなかった体験やアクティビティが予約可能になった。例えば、10年以上前からフルーツ狩りが体験として行われていたが、予約は電話やファックスで受け付けており、一部の農園はまだ観光農園化もされていなかった。だが、今は多くの農園が体験提供者として参画し、オンラインでの予約を受け付けている。多くの人たちと一緒に歩ませていただいた10年と言える。
直近の5年で言うと、コロナ禍の経験が大きかったが、SUP(スタンドアップパドル)を代表とする自然を身近に感じられる体験に支持が集まっている。コロナ禍では感染対策として人との距離を保てる体験として特需もあったが、コロナ禍が明けてもなお人気が衰えず、高い伸び率を見せている。

――この10年で一番印象に残っている変化は
実際にオンラインで予約をして、現地で体験に臨む人の割合が如実に増えた。コロナ禍の影響ともいえるが、事前に予約をすることでシームレスに現地で体験することが受け入れられている。これは実際に数字として表れている。
従来は、予約せずに現地に直接来る「ウォークイン」や、電話予約が大半を占めていたマーケットだったが、直近は公式ホームページや、「じゃらんnet 遊び・体験予約」を経由するなど、事前予約をして体験する人の割合が相当数増えていることは事実だ。事前予約をすることで、チケットを券売機に並ばずに購入できたり、ポイントが貯まるなど、ベネフィットを感じることが根付いてきたと言える。
――体験を販売する事業者において変化はあるか
販売するプランのバリエーションが増えている。例えば、イチゴ狩りだと練乳のかけ放題や、チョコレートソースが追加でかけられる、パフェが作れる、求肥で包めるなど、単にイチゴを摘んで食べるという体験ではなく、摘んだ後にもうひと手間をかけて楽しんでいただくバリエーションが増えてきた。また、テント内に明かりを点けてノスタルジックな雰囲気を演出したり、ファミリーが楽しめるように滑り台を設けるなど、誘客に工夫をしている施設も見られ、多様化するユーザーニーズへの対応が進んでいることがうかがえる。
——参加者の属性について
ジャンルごとに異なる。イチゴ狩りであれば、30~40代のファミリー層からの予約が多く、最近拡充しているジャンルとしてクルージングがあるが、こちらは50代以上の割合が増えているという印象がある。一方で、シルバーアクセサリーづくりや陶芸体験など、われわれがものづくりと呼ぶものは、20代前半の若い世代からの予約が多い。時代によって人気の体験、属性は異なってくるが、ニーズに応じてプランを用意している。
——単価について変化はあるか
ジャンルにより一概には言えないが、予約単価、1人単価ともに上昇基調であることは間違いない。
――現在約5万プランを掲載しているが、拡大規模の要因は
これまでの歴史が大きいと捉えている。「じゃらんnet 遊び・体験予約」は、旅行情報サービス「じゃらんnet」を主軸に現地での消費を促す目的でスタートしたが、地域にしかないような体験を地域の営業活動を通じて掲載してきた。掲載は、エリアを問わずに面的に広げていったが、「じゃらんnet」の検索を見て掲載を希望する施設も増えている。今では、良いサイクルが生まれている。
――同業他社との違いについて
圧倒的なジャンル数や掲載施設数が大きな強み。外部委託調査でも、施設数、プラン数、利用率においてナンバーワンであることが分かっており(2025年3月時点)、選択肢の多さはエンドユーザーにとって付加価値となっているはずだ。
宿を探す中で体験を共に予約する人は、「じゃらんnet」全体を見ても多い。宿の予約を行う際に周辺エリアのおすすめスポットとして遊び・体験の施設が出てくるが、旅マエ、旅ナカで需要を捉えられることは他社との違いと言える。
——コンバージョンについて
正直、まだまだやりようがある。従来は、旅先探しの起点は検索エンジンによる情報収集が中心だったが、近年ではInstagramやTikTokといったSNSを通じて旅先を見つけるエンドユーザーが急増しており、カスタマージャーニーの上流が大きく変化している。こうした変化は、われわれが行うべき訴求の設計にも影響を与える。時代における技術の進化と共に、エンドユーザーの行動様式や情報接触に即した提案をし、各接点で最適な体験を提供していかなければならない。
――今後において、注力したい体験ジャンルは
体験の輪を広げていきたい。アクティビティ業界は、予約系とチケット系のような形で分かれている。ここ数年は、チケットの分野で掲載を頑張ってきた。今であれば、スポーツイベントや美術館などの掲載も増えており、これまで以上の選択肢として、従来のわれわれが得意としてきた領域から一歩踏み出して輪を広げたい。
——ちなみに、今年の夏の一押しは
今夏のおすすめは、ウォーターアクティビティ。具体的には、ラフティングや川下り、SUPなどの水辺の体験が人気で、夏らしさを満喫できるアクティビティがラインアップとして充実している。また、バーベキューも家族やグループで楽しめる定番の夏体験として注目されている。
さらに、少し先を見据えると、9月ごろからは秋の訪れとともにブドウ狩りシーズンが始まる。すでにトップページでも関連バナーが露出し始めており、夏から秋へのスムーズな体験の移り変わりを意識し、季節に合わせた体験の動線を設けている。
――遊び・体験から見える地方創生について
宿泊旅行や現地消費も含むマーケットで捉えた時に、「じゃらんnet」あるいはリクルート全体での地域への介在価値は非常に大きい。また、われわれが特定の地域に対して何かを実施するというよりは、しっかりと社会全体に貢献できているかどうかが問われている。
――「じゃらん遊び・体験予約」を通じて達成したいことは
地域ごとの「そこでしかできない体験価値」をいかにエンドユーザーにシームレスに届けるかに挑戦している。今後は、エリア特有の魅力ある体験をつなぎ、エンドユーザーがこれまで出会わなかったジャンルや場所と出会えるきっかけをより提供していく。「一歩踏み出す」体験を促し、体験の輪を広げることは、サービスの提供を通じて絶やさずに取り組んでいきたい。
――最後に、次の10年を見据えた展望について
「じゃらんnet 遊び・体験予約」は、今後もエンドユーザーに新しい発見や驚きのある体験を提供し続けるサービスでありたいと考えている。また、「こんな面白い体験があるんだ」と感じられるような、発見性に富んだサービスの提供、進化を目指していく。
一方で、掲載施設側の課題として、人手不足や業務負担の問題に対応していくことも必要。予約や当日の受付業務の効率化を図り、施設スタッフがよりおもてなしや接客に注力できるように、業務改善の提案も行っていきたい。
オンライン予約の普及で当日のオペレーションの平準化や効率化が進むと見込まれる中、われわれのサービスが業界全体の業務改革に貢献できるよう取り組んでいく。
※柳本浩史(やなぎもと・ひろし)㈱リクルート 着地観光部着地観光企画グループ
聞き手:ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通
