Act.3「早起きで豊かになる」
The early bird gets the worm.(早起きは三文の徳)
世界中どこにでも似たような言葉があるくらいだから早起きするといいことがあるのは間違いないようだ。
朝ごはんを名物に!
旅をすると何となく夜は遅く朝も遅く、になりがち。前夜の宴会で一体何を食べたのかわからないほど飲むくらいなら「朝ごはんを名物」にすればいい。という発想の転換をしたのが新潟県の「朝ごはんプロジェクト」。新潟といえば米どころ。コシヒカリと地域ごとに異なるごはんのお供のお惣菜を組み合わせる。このように、本当の朝ごはんを売りにしようという取り組みは旅館の若旦那衆の発想から始まり、各地へ広がった。朝食を売りにするビジネスホテルも今では当たり前になり、「朝を愉しむ」というのもまた旅の良いエッセンスだ。
朝摘みさくらんぼ!
山形県の「朝摘みさくらんぼ」。さくらんぼが本当においしいのは朝露を含む早朝である。そのため、前の日に旅館に泊まり夜明け前に宿を出発、みずみずしい実をほうばる。必ず旅館に泊まっていただけるし、バスツアーのさくらんぼ狩りなどと違って農園のさくらんぼを食べつくされることもない。その結果、お客さまはまさにここだけの貴重な体験を得ることができるというまさに三方よしのコンテンツ。こちらも今や山形には欠かせないコンテンツとなったが、始まったのはわずか10年と少し前のことだ。
夜が明けるのが早い北海道の朝、うっすらと白くなりゆく海や山の風景は想像を絶する美しさ。松島湾や富士山に昇る朝日は、誰もがその瞬間に立ち会えたことをまさに「三文の徳」と感じるひとときだ。
活気あふれる市場!
朝といえば市場がある。日本中の港町の朝は、夜明け前から活気にあふれる。そして、たいてい早朝から魅力あふれる朝食にたどりつける。昼に車で乗りつけるような観光地化された市場ではなく、本当の意味でこの地域とそこに住む人々の生活を支えてきた台所。日本最大ともいわれる青森県八戸の館鼻岸壁朝市は、朝5時すぎに連続で走る路線バスが満員状態で走る。港町を支えてきた朝風呂文化もあり、たいてい朝5時過ぎにはオープンする銭湯と組み合わせるととても充実した「朝活」になる。
早起きの公園!
公園なら24時間空いているところは多いが、入場料を必要とする城跡や公共の公園はたいがい朝9時頃にオープンし、夕方早くに門を閉じる。そんな中で香川県高松市の高松城址玉藻公園はなんと朝5時半から入場券売り場がオープンする(4~9月)日本でも稀有な存在。朝早く、人もまばらな海城でかつての栄華をしのぶのもまた格別。しばらくすると朝から営業のうどん屋が開いてくる。「うどん県」らしい朝のたしなみ。
ナイトタイムエコノミーが叫ばれて久しい。日本の観光は夜が総じて早く、夜愉しむ場所が少ないと嘆く人が多い。もちろん、そのことは否定するわけではないけれど……。
高い金をとるために無理やり何かをライトアップしてみたり、その地域とは何の縁も無いエンタメを持ってくるのが果たして地域の価値向上につながるのだろうか。
「朝のタケノコ掘りツアー開催 朝5時フロント前集合 参加無料!」
ある旅館のフロント前に掲出された手書きのポスター。なんか、わくわくする。でも、できれば今じゃなくて、もっと早くに教えてほしかった。そうすればそれが旅の目的になるのに。日本の朝は尊い。生活感漂う地域の朝を散策するのは、その地域ならではの発見につながると思うのだが。
ジョギングする人と散歩する人のことくらいしか考えていないのはもったいない。もっとみんなで地域ならではの三文の徳を探してみてはどうだろう。
(つづく)
(これまでの寄稿は、以下のページから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=19
寄稿者 高橋敦司(たかはし・あつし) ㈱ジェイアール東日本企画 常務取締役CDO